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第2話 「今だけは泣いてもいいよ」 その5

傷だらけのカイエンの窓から、目の前の建物を見て、美雨は思わず声を上げる。

「あれ? ここって……」

そこは彼女も見たことがあるマンションだった。

「舞さん。ここ、私が住んでるマンションですよね」

そう。自分が住んでいるマンションにとてもよく似ていたのだ。

舞は頷いて肯定する。

「そうだ。君が住んでいるマンションだ」

「じゃ、じゃあ私の部屋に行くんですか?」

美雨は舞の顔を見ながら何故かモジモジしていた。

それ見て舞は首をかしげる。

「違うわよ。ミウ」

答えたのは舞ではなくヒョウだった。

彼女は美雨の耳に「ふう〜」と息を吹きかける。

「ひゃあっ!」

美雨はびくんと跳ねる。

「可愛い反応。残念だけど、貴女の部屋じゃないの」

それを聞いた美雨はホッとした同時に、ガッカリする。

「そうなんですか……」

とてもとても残念そうだった。

それを見て舞が尋ねる。

「? 何故残念そうなんだ美雨」

「あっ、いえいえ。何でも、何でもないです! 」

美雨は両手をブンブン振って誤魔化した。

舞は結局、美雨が何故そんな残念そうなのか、考えても答えが出ない。

「舞、舞」

そんなことを考えているとヒョウが声を掛けてきた。

「何だ?」

「ニブちん」

ヒョウはニヤニヤしながらそう耳打ちする。

「?」

舞はますます訳が分からなくなるのだった。


熊気はマンションの地下駐車場に入り、車を停車させる。

舞が口を開いた。

「みんな。ここにもゾンビがいる可能性がある。油断するな」

美雨を待たせて、先に四人が警戒しながら降りる。

周りは薄暗かったが、取り敢えず見える範囲にゾンビの姿はなかった。

だが所々血がこびりつき、靴やカバンが散乱している。

位置は特定できないが、何かの物音も聞こえてくる。

何かが彷徨っているのは確実だった。

舞は自分の口に指を当てる。

「美雨。静かに」

美雨はコクコクと頷く。

舞は持っていたP90を渡して自分はグロックを右手に持つ。

舞は美雨の手を引くとその周りを三人が銃を構えながら歩く。

目指すは駐車場出口の非常階段だ。

階段まで、残り十メートルの所で女性のうめき声が聞こえてきた。

「ウゥーーアァーー」

舞は美雨を守るように前に出る。

他の三人は更に一歩前に出て声のした方を狙う。

車の陰から現れたのは一人の女性。

ウィルスに感染したゾンビだった。

「アーーアーー」

女性ゾンビは呻きながら、舞達の前を横切る。

よく見ると何かを大事そうに握っている。

それは子供の左手だった。

美雨は口に手を当てて悲鳴をなんとか抑える。

四人は出来る限り、音を立てずに銃口で狙いをつける。

できれば撃ちたくはない。

長い訓練で目の前のゾンビを殺すことにためらいはない。

だが、今撃つと銃声が駐車場に響き渡る。

そんな事になれば、まだ潜んでいるかもしれないゾンビ達に気づかれてしまう。

それだけは避けたかった。

女性のゾンビは、まるでいなくなった子供を探すように歩き去り、別の車の陰に消えた。

四人は構えを解いて歩き出す。

階段のドアに到着した。

辺りにゾンビの姿はない。

ヒョウと翼がドアの前でP90を構える。

扉を開けるのは、熊気の役目だ。

熊気はドアを少し開けて、隙間を覗く。

誰もいない。

更に扉を音を立てないよう大きく開けて中を覗いた。

階段にゾンビの姿はなかった。

熊気は安全を確認してから四人を手招く。

五人全員が入りドアがガチャンと閉まった。

その音で、駐車場にいた数十体のゾンビ達が反応して一斉に濁った眼を向けるのだった。


ヒョウを先頭にして五人は階段を登っていく。

カツンコツンと五人の足音だけが辺りに響いていた。

三階まで登ってきたが、人っ子一人見えない。

そこで美雨が口を開いた。

「あの、舞さん。喋ってもいいですか?」

「いいよ。けど小さい声で」

「はい。あのエレベーターを使ったほうが楽ではないんですか?」

「確かに楽だね。けど閉じ込められたら脱出するのが難しい。

それにエレベーターの中はゾンビだらけかもしれない」

美雨はゾンビを満載したエレベーターを想像してみる。

「……それは乗りたくないですね。すいません。変な事を言って」

美雨が謝ってから、五人は一言も話さずに目的の階に着いた。

先行していたヒョウが手すりから顔を出す。

「舞。五階に到着したよ」

舞は見上げて答える。

「周辺に人の姿はあるか?」

「いんや。誰もいないわ。ゾンビの姿もなし」

「私達が行くまでそこで待機」

「了〜解」

四人がヒョウと合流してから、先ほどと同じように熊気がドアを開ける。

全ての部屋のドアは閉まり、廊下には誰もいない。

五人はいつ敵が現れてもいいように油断なく目的の部屋の前に到着した。

そこは五〇五号室。

舞は合鍵を使ってロックを解除する。

「ま、待って下さい。舞さん」

ドアを開けようとしたところで、美雨が彼女の手を掴む。

「如何したの?」

美雨は五〇五号室の表札を見る。

そこには戌鎧と書かれていた。

「ここ、アッちゃんの部屋ですよね?」

五〇五号室は美雨の親友、戌鎧忠実の部屋だった。

その隣の五〇四号室は美雨の住んでいる部屋。

舞は忠実部屋のドアを開け、中に入ろうとしていた。

「うん。ここは忠実の部屋だ。そしてここがセーフルーム」

「セーフルーム?」

舞は「中を確認してくる」と言って一人で部屋の中へ。

暫く外で待っていると彼女が出てきた。

「問題ない。入っていいぞ」

美雨以外の三人は躊躇うことなく部屋の中へ入っていく。

「美雨。さあ入って」

「あっ、はい……お邪魔します」

美雨も、もうこの世にいない親友の部屋に入る。

なんだか複雑な気持ちだった。

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