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第0話

今回は多少ホラー要素ありのアクション物です。

最近ある有名ホラーゲームのCG映画に触発されて、この物語を作りました。

是非是非読んでみてください。

ブラウン管テレビの画面の中で女性アナウンサーが淡々とニュースを伝えていく。

『……続いてのニュースです。三日前から降っている季節外れの大雪によって至美戸(しびと)村は未だに孤立無援の状況です』

体育館にひとつしかないブラウン管テレビの前に人々が集う。

皆自分たちの村のことを伝えるニュースを食い入る様に見ていた。

『自衛隊の救出活動も難航しており、未だに道路の復旧の目処は立っていません。

更に雪が降っていて安全を確保できないとの理由で、ヘリを飛ばす事ができない状況です。次のニュースです……』

「はあ〜、まだ救助は来ねえのか」

そこで中年男性が溜息をつきながら、持っているチャンネルでテレビの電源を消す。

テレビを消したのはこの村の村長である。

周りでテレビを見ていた人々も同じく溜息をついたり愚痴をこぼしていた。

彼等は至美戸村の村人たちである。

大雪のせいで閉じ込められてしまった人々は、村の小学校の体育館に避難していた。

電気は発電機を使用して何とかなっている。

しかし備蓄していた水や食料が底をつきそうになっていた。

「父ちゃん。お腹すいたよ」

一人の小学生の少年、(みつる)がお腹をさすりながら尋ねる。

「もう夕飯は食べただろう。明日まで我慢しなさい」

父が充の頭を撫でながら諭した。

二人の後ろで寝る支度をしていた母も同じく少年に言い聞かせる。

「そうよ。もう寝ましょう。寝ればお腹が空いた事も忘れられるわ」

「えー。まだ九時だよ。眠くないよ!」

充は壁に掛けてある時計を指差す。

時刻は九時五分前を指していた。

「駄目。もう電気も消えて真っ暗になるのよ」

発電機の燃料は残り少なく、その為に九時になったら電気を消す事になっていた。

「それとも、真っ暗な中で遊ぶ?」

充は暗闇を想像して身震いする。

以前、夜中に目が覚めたら真っ暗で、怖くて泣いてしまった事を思い出したのだ。

「いいよ、分かった。も、もう寝るよ!」

充は毛布を被って自分の布団に潜り込む。

父はペットボトルの水を飲みながら、少年にも勧めた。

「……うまいな。充、お前も飲むか?少しは腹も膨れるぞ」

少年が答える前に母がそれを()めさせる。

「ちょっとやめて下さい! 井戸の水なんて、子供に飲ませないでください」

飲料水が残り少なくなった為に、村人達は苦肉の策を考えつく。

それは長年封印していた曰く付きの井戸を開放する事だった。

母は父の飲む水を、汚い物でも見るような目で見つめている。

「昔、その井戸の水を飲んだ人が呪われたっていう伝説があるんですよ。よく飲めますね」

母にそう言われても父は飲むのを止めず、ペットボトルの中身を飲み干した。

「大丈夫だよ。他の人も飲んでいるが、誰も体調不良なんて訴えてないだろう? 呪いなんてあるわけないさ」

「それはそうですけど……」

その時、体育館の電気が全て消える。

時刻は九時になっていた。

布団にくるまっていた充が両親に向かって抗議の声をあげる。

「ねぇ、二人がうるさくて眠れないんだけど……」

母はそう言われて慌てて布団に潜り込む。

「ごめんね。私たちも寝るから」

父はペットボトルの水を一本飲み干していた。

「俺も寝るか。でも、もう少し飲んでから……ってもう全部空っぽかよ」

側にあったペットボトル三本はすでに空になっていた。

「しょうがねえ。明日また汲みに行くか……」

そう言って父も寝床に潜るのだった。


眠っていた充が目を覚ます。トイレに行きたくなったのだ。

「ん、ん〜」

充は眠りまなこを擦りながら壁の時計を見る。

夜光塗料が塗られた緑の針は午前三時を指していた。

充はその時計の色を見て、学校の図書室で読んだ夜光人間を思い出す。

本の表紙に書かれていた緑に光る人間の姿を思い出してブルリと身体を震わせた。

「あれ?」

少し怖くなった少年は辺りを見回す。

すると両親の姿がない事に気づく。

「どこ行ったんだろう? トイレかな?」

そう思いながら少年も暗闇の中を歩いて、トイレを目指す。

辺りはとても静かで、いつも聞こえるうるさいいびきも聞こえない。

まるでみんな死んでいるかの様に静かだった。

充は不思議に思いながらも寝ている人を踏まないように暗闇の中を歩く。

体育館はいつも授業や遊びで利用していたので、真っ暗でもトイレの位置は分かっていた。

危なげなくトイレに到着し、充は中に足を踏み入れる。

中にある個室のドアは何故か全て閉じていた。

「? こんな時間にトイレが混んでる?」

それを疑問に思いながらも、置いてある携帯トイレを使って用をたす。

終わってズボンを上げようとしたその時、個室のドアが内側からドンドンと激しく叩かれた。

「わあっ!」

充は悲鳴を上げて、その格好のままそこから離れる。

不意に叩く音が止んで、辺りは静寂に包まれる。

「う、うわああああっ!」

充は下ろしたままのズボンを上げて、手も洗わずに慌ててトイレを出る。

早く両親がいるところに戻りたかった。

(さっきのアレは何だったろう? ん……?)

そんな事を思いながらトイレを出る。

すると廊下に男性がしゃがんでいてこちらに背中を向けていた。

(あんなところで何してるんだ?)

暗闇で誰かはよくわからない。

非常口の弱い明かりを頼りに、目を凝らしてよく見てみる。

男性は何かに覆いかぶさり、それを一心不乱に食べていた。

男性は道具も何も使わずに、手で直接掴み口で噛みちぎっている。

それを見た充の中に、言い様のない恐怖が湧く。

食べ方があまりにも人間離れしていたからだ。

しかし同時に何を食べているのか興味も湧いた。

だから充はつい尋ねてしまう。

「あの、何食べてるんですか?」

男性がビクンと少年の声に反応する。

そしてゆっくりと立ち上がった。

(あれ? どこかで見たような?)

少年がそう思った時、男性がゆっくりゆっくりとこちらに振り向いた。

その正体を知って充は驚愕する。

「と、父ちゃん?」

それは先程まで、会話していた父だった。

肌は青白く目は色を失って血管が不気味に浮き上がっている。

更に口の周りは赤い液体で真っ赤に染まっていた。

充はその姿に驚いて腰を抜かして尻餅をついてしまう。

そして父を指差して叫んだ。

「な、何だよ。その姿!」

父は何も答えずに、息子の姿を見つけると口角を吊り上げる。

「ハアアアアアアアアア」

父は新しい食べ物を見つけて笑っていた。

その時口から何かの肉片が床にボトボト落ちた。

少年はそれを目で追い、父が何を食べていたか気づいてしまう。

「うそだろ? か、母ちゃん?」

父に胸部を食われ、血まみれになった母が虚ろな目で少年の方を見ている。

母は父に食い殺されていた。

少年は恐怖で顎が震え、歯がカチカチと鳴るのを抑えられない。

両目からは涙が溢れ視界がぼやける。

父がうめき声を上げながら歩き出した。

「ウウウ、アアアア……」

充は腰が抜けて歩けないのでその格好のまま後ろにあとずさる。

「ひぃ。こっち来るなよ! 父ちゃんどうしたんだよ!」

充がそう言っても、父だったモノは両手を伸ばして距離を詰めてくる。

逃げていると、後ろからもうめき声が聞こえて少年は慌てて振り向いた。

「う、うそだろ?」

男性が三人、男子トイレから現れていた。

「ウウウ……ウウウウウウ」

「アアアア……ウウウアアアア」

三人とも父と同じく青白い肌と浮き出た血管に白く濁った目で目の前の食い物を見つめる。

充は前後を挟まれ逃げ道を失った。

壁に背中をくっつける。

左右を見た。

どちらも自分の事を見て口角を吊り上げながら近づいて来る。

少年は頭を両手で抱えて蹲り目を瞑る。

これが悪夢なら早く覚めて欲しかった。

「い、嫌だ。来るな! 来るなー!」

父だったモノ達が口を大きく開けて彼に飛びかかる。

少年が悲痛な叫びを上げるが、誰も耳も貸す者はいない。

彼等はそんな懇願を聞き入れる知能もなく、唯々目の前の肉を貪るのだった。


至美戸村が孤立無援になって二週間後。

道路の雪が取り除かれ、自衛隊が救助の為に村に入る。

そこで彼等はこの世の地獄を見た。

「一体何があったんだ?」

そのつぶやきに答えられる者は誰もいない。

彼等の目の前には物言わぬ村人たちの姿があった。

救助隊は生存者を捜して村を捜索する。見つかったのは二種類の死体だけだった。

雪が降る外に出て凍死した者。

そして何かに食い散らかされたような村人の死体が村中に散らばっている。

救助隊が村の奥に足を踏み入れると、更に予想外の光景が飛び込む。

それは巨大な熊の死骸だった。

この大雪のせいで食べ物がなく村に現れたのだ。

だが救助隊が驚いたのは熊の死骸にではない。

それに群がる十人近い村人達の凍死体に驚いていた。

更に体育館には避難していたであろう村人達が文字通り血の海に沈んでいる。

それを見て何人かが嘔吐した。

自衛隊はこの異常事態を見て至美戸村を封鎖する。

マスコミも全てシャットダウンし調査を開始。

調査して分かった事は二つ。

村人は共食いをしたという事。

そして村の古い井戸から未知のウイルスが発見される。

至美戸村食人事件。

その事件は世間には公表されず、人々は次第に至美戸村の事を忘れていく。

ウイルスは、S-ウイルスと名付けられた。


至美戸村の惨劇から三十年後。

ある通路を四十代くらいの男が歩いていた。

身長百九十センチ。

銀髪をオールバックにして、もみあげは顎髭と繋がっている。

筋骨隆々のとてもたくましい男で、その格好は完全武装だった。

彼は右手にアサルトライフルを持ち、左手には銀のアタッシュケースを持っていた。

男の周りでは白衣を着た人々がもがき苦しんでいる。

「感染が始まったな……」

その光景を見て吐き捨てるようにつぶやく。

男は同僚を殺し、保管されていたS−ウイルスを施設内にばらまいていた。

もがき苦しんでいた人々は、動きを止め突然起き上がる。

起き上がった彼等はもはや人間ではなかった。

それは映画などで見るゾンビだった。

動く屍は感染していない人間達に襲いかかり、施設には悲鳴が響き渡る。

男の目の前で丸縁メガネを掛けた女性の科学者が、男性の首を噛みちぎっていた。

机から写真立てが落ちる。

写真には白衣を着た両親と、母と同じ丸縁メガネを掛けたおさげの娘が笑顔で写っていた。

それに血が飛んで赤く染まる。

この施設の出口はまるで核シェルターのドアの様にとても分厚くできていた。

ドアの前に到達し、ロックの解除に取り掛かる。

『ロックを解除しています。しばらくお待ちください』

電子音声がそう告げ、それを聞いた男はそこで待つ。

「待て!」

男と同じ格好をした十代の若い兵が、彼に銃を突きつける。

「なぜこんな事をしたんですか!」

男は振り向いて自分に銃を突きつける兵を、その鋭い鷹の様な目で睨む。

「全員殺したと思っていたが、運がいいな。いや、運が悪いのか?」

男は無言で、アタッシュケースを床に置いて左手を自由にする。

そして兵に近づいていく。

兵は拳銃の撃鉄を起こした。

「止まれ!」

男は止まらずに自分の額に銃口がぶつかる。

「撃て」

「何?」

「お前は、俺の様な人間を殺すために訓練を受けてきたんだろう? ならば迷わず撃て!」

兵は震えながら引き金を引こうとするが、躊躇って撃てない。

「う、撃てません」

「ハアー」

男はため息をつくと素早く左手で拳銃を掴んだ。

「!」

兵が反応する前に、マガジンキャッチボタンを押して、弾倉を抜く。

そのままスライドを後ろに引いて薬室の弾丸も排莢した。

兵の拳銃は使い物にならなくなってしまう。

「甘いな。その甘さでお前は命を落とすことになるんだ」

男はそう言って、右手のアサルトライフルで兵の左膝を撃ち抜く。

兵は悲鳴をあげる。

「うあああああ」

そして撃たれた膝を押さえてうつ伏せに倒れた。

「……なぜこんな事を……?」

立ち去ろうとする男に兵が尋ねる。

「貴方はこんな事をする人ではなかったはず……娘さんの事はどうするんです?」

男は歩みを止めると、兵の前に腰を下ろした。

「俺がなぜこんな事をするのか教えてやる……それは復讐だよ」

「ど、どういう意味……?」

男は立ち上がる。

「それは教えん。地獄で見ているんだな」

突然兵の左右の自動ドアが開く。

「あっ、ああ……」

すると左右のドアから、白衣を着た人間達が

わらわらと現れる。

ウイルスに身体を乗っ取られた彼等は目の前に倒れている兵に群がる。

「やめろ! 来るな! ぎゃああああっ!」

男が振り向くと、ゾンビ達は兵を貪り食っていた。

あぶれたゾンビ達が男に狙いを定めて一斉に襲いかかる。

男は冷静に両手でアサルトライフルを構え、全員の頭を撃ち抜いた。

額に穴が開いた彼等は床に倒れ、二度目の死を迎える。

「抗体を打っていても襲って来るか」

安全を確保してそう独りごちる。

直後タイミングをはかったかのように、出口のロックが解除される。

『ロックを解除しました。どうぞお通り下さい』

バシュ、と空気が抜ける音がして分厚い鋼鉄製のドアが開く。

男は置いていたアタッシュケースを持つと、開いたドアから出て行く。

男が出た直後、扉は閉まり再びロックされた。

彼はまっすぐ歩き、エレベーターを目指す。

そして中に入りボタンを押した。

ドアが閉まり、エレベーターは地下百メートルから地上目指して上にあがっていくのだった。

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