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元ネトゲ城主の戦略的学園生活!  作者: 蒼井まこ
一章『夏の代償』
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一章その2

「要するに何? ぶっ飛ばされたいってこと?」

「どっ、どっから出てきたんだよ、その筋肉解決法は!」

 粘っても痛い目に遭うだけだと悟り、シンは大慌てで話題を変える。

「つっ、つーかだ! 何で今さら部活巡りなんざしなくちゃならねーんだよ! 出会いの季節に出会った奴らが、『そろそろ付き合っちゃおうか』とか言い出すこの時期に、『新入部員でーす、よろしくー』とかアホすぎんだろ!」

「安心しなさい。アンタのアホさは何があっても変わらないわ」

「いや、そもそもアホじゃねーし!」

「それなら、どうして部活巡りをするのかも分かるわよね?」

 ミナが挑発的な笑みを浮かべると、シンは不満げに口をへの字にした。

 分かりたくなかったが、分かってしまったからだ。

『帰宅部』のままにしておくとロクなことにならない、『夏の陣』に続いて『冬の陣』でもやらかすかもしれない――。

 彼女がそんな考えを抱くことで、季節外れの部活巡りは始まった。彼女もこれを機に、『帰宅部』を卒業するつもりらしい。

「何度も聞いたから分かってる、分かってるけど、今日は絶対に行かねーからな。運動部ならまだしも、第三文化棟とか完全にナシだろ」

 シンはあぐらを掻いてミナを睨み上げた。

 気おされたらしい彼女が、片足を後ろに引いて言い返す。

「だ、だったら、運動部のどこかに入れば良かったじゃない!」

「あの運動部にか?」

 物語の登場人物になりきって活動する『運動部』。

 バスケットボール部を例に挙げるなら、黒子のように存在感を消して下手なパスを出す水色髪の部員やら、ダンクシュートができない赤い坊主頭の部員やらが、ボールに遊ばれ続けていた。

 硬式テニス部を例に挙げるなら、ツイストサーブが打てない白い帽子を被った部員やら、ベンチに置いてあるノートを気にしまくっている黒髪の部員やらが、テニスボールを打ち上げ続けていた。

 他の運動部も似たような状態で、大会に向けて努力するのではなく、物語の登場人物になりきるための努力を積んでいた。

『今は入りたくなくても、見学したら入りたくなるかもしれないじゃない』

 部活巡りを始める前、彼女はそんなことを言っていたが、まったくそうならない結果に至っている。

「……訂正するわ、確かにアレはないわね」

「だろ? つーか……、俺が入るより、鳴海が入った方が良いと思うぜ。運動神経良いし、中学の時はソフト部のキャプテンだったんだろ?」

 白球と戯れていた『野球部』を見学した際に聞いた話で、彼女は中学時代、ショートで四番だったらしい。

「そ、それはそうだけど……」

 顔を暗くするミナとは対照的に、シンは明るい口調で言う。

「だったら、入るべきだろ。まずは『野球部』に入って部を強くする。それができたら、別の部に移って同じことをする。そんな感じで、運動部改革をしてみたらどうだ?」

「運動部改革……、悪くないわね」

「んじゃ、まずは『野球部』だな! 今から行って千本ノックだ!」

「い、今から?」

「ああ、今からだ。善は急げって言うしな」

 何度か頷いたあとで、シンは思惑を悟られないよう笑みを作った。

 面倒見が良い彼女であれば素直に乗ってくるに違いない、と確信して鳴海ミナが階段へ向かうのを待つ。

「……念のために訊くけど、アンタも一緒に行くのよね?」

 ミナから酷く冷たい声で問われた途端、シンは笑みを凍りつかせた。

「おっ、俺はほら、野球経験者じゃねーから……」

「から?」

「行ってもすることがないかなーっと思ったり思わなかったりで……」

「……本気でぶっ飛ばすわよ?」

「ごめんなさい、すみません、ほんとに誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!」

 シンは素早く膝を合わせ、深々と頭を下げた。

 空野シン的作戦コマンド『ガンガンあやまれ』が効いてか、彼女は短い吐息をつくだけで済ました。

「今みたいなことを平然とやるから〝詐欺師〟だって言われるのよ。いい加減、そのことに気づきなさい」

「おっ、俺のことを〝詐欺師〟だって言ってんのは、鳴海だけなんだけども……」

 シンが体を起こして反論すると、ミナはすかさず言い返した。

「言っているのは、ね」

「思ってるのも、だ。つーか俺、どこにでもいる普通の高校生要素しか持ってねーし」

「ヘラヘラして何も考えていないように見せておいて、裏では人のことを騙そう騙そうと考えている奴のどこが普通なわけ?」

「だっ、騙そうだなんてそんなそんな……」

 小さく手を振って否定し、すぐさま笑みを浮かべようとする。

 だが、うまく作れなかった。

 自覚できるほどに強張ってしまったのは、『夏の陣』のことを思い出してしまったからだ。

 すると、彼女が呟く。


「……騙したじゃない。アタシを含めて、第三文化棟の全員を」

 

 物寂しい声だった。

 それが耳の奥で重く響いていた。

 胸が早鐘を打ちはじめたのは、一瞬後のことだ。後悔と怒りが腹の底から湧き上がり、脳内になだれ込むのと同時に思考回路がショートしていた。

 耐えろ、今は耐えるしかない。

 そう自分に言い聞かせ、自責の海に沈みそうになっていた気持ちを引き上げる。

 顔には、凌ぐための笑みを貼った。

 そんなシンを一瞥した後、ミナは目を伏せて話を継いだ。

「……何にしても、今日は第三文化棟に行くわよ。あそこなら見つかるかもしれないし」

「みっ、見つける前に、見つかった瞬間に始末されそうな気がすんだけども……」

 シンが弱い語気で訴えると、ミナは首を横に振った。

「立場的にそう思うのも無理はないけど、今はどの部も『冬の陣』のことで頭がいっぱいだから、始末されるどころか歓迎されると思うわよ。ここへ来る前、第三文化棟に寄って見学の話をしたら、『うちの部に入るように言って』って頼まれたしね」

 ――だからすぐに来なかったのか……。

 シンが学生ラウンジに来たのは、ミナが来る二十分ほど前だ。

 それまでは東側の建物、学生支援センター棟の陰に隠れていた。そこから第一食堂棟の出入り口を見張り、寒空の下で四十分ほど待ってから中に入った。彼女が諦めたと思ったからだ。

 見込み違いだと知れたのは、ポンポンと肩を叩かれて振り返り、彼女の冷酷な瞳を目にした瞬間である。

 忘れよう、忘れないと夢に出てくる、と思いつつシンは問う。

「ちなみにだけど、どの部から頼まれたんだ?」

「『BL研』と『同愛研』、『攻受会』の三つよ」

 ミナが平然と答える一方で、シンは顔色を悪くしていた。

 BLはボーイズラブの略称で、男性同士もしくは少年同士の同性愛をテーマにした物語、それを一つのジャンルとして示すための言葉である。

 そのBLについて研究する『BL研究部』に、男子しか所属していない『同性愛研究部』。更には、男子の仲を強引に深めようとする『攻受を実現する会』までが自分を欲しがっているらしい。

 心穏やかではいられなかった。

「……行かねーからな、絶対に行かねーからな!! 初体験の相手が男になるくらいなら、舌切って死んだ方がマシだ!!」

 シンは喚きながら立ち上がり、ソファーに覆いかぶさるような格好で上から抱きついた。ポカンとしていたミナが、ハッと我に返って言う。

「と、特に反応が良かったのがその三つなだけで、他からも頼まれているわ! それに、アンタが嫌なら行かない! 三階自体に行かないから安心しなさい!」

「途中で捕まったらアウトっつーか、ストライクを決められちゃうかもしれねーんだぜ!? そんな場所に自ら足を運ぶとか、『僕の後ろ、空いてますよ』って宣言しに行くようなもんじゃねーか!!」

「ア、アタシと一緒なら大丈夫! アンタの貞操はアタシが守るわ!! そ、それに……、断れば済む話じゃない!」

「……断れんのか?」

 頼まれたら断れない――。

 それが彼女の性分である。『夏の陣』が近づくにつれて瞳の陰りを濃くしていくことになったのも、協力の申し出を断れなかったからだ。

「こ……、断れるに決まっているでしょ! 『興味はあるみたいだけど、三階まで上がるのがつらいみたい』って伝えるわ!」

「じいちゃんか俺は! つーか、何で興味あり気な感じにしちゃったんだよ! まったくもってねーよ!!」

「い、今のは一例よ! その時になったらうまい具合にやるから何ら問題ないわ!」

「今の時点で駄目な奴が、あとでうまくやれるわけねーだろ!」

 木の上にいるコアラのような体勢のまま、シンは大声で正論を放った。

 一理あると思ったのか、彼女が渋い顔をする。

「そ、それなら、アンタの言う通りにするわ! どう伝えてほしいのか言いなさい!」

「俺が考えんのかよ……!」

 驚きはしたが、任せるよりはマシだと思って二の句を継ぐ。

「んじゃまあ……、『最初のオッケーは適当に返事したみたいで、確認したらいきなりノーを出してきた』って伝えてくれ」

「え……? それだとアンタが――」

「そんなことよりあれだ、ほかはどこと約束してきたんだ?」

 ミナが言い終える前に問い、シンは体を起こした。ソファーの上であぐらを掻く。

「……『獣耳部』と『天悪部』、あとは『探偵部』よ。『カフェ部』は『寄れそうだったら寄って』って言われたわ」

「行っても良いって思えるのは『探偵部』だけだなー。『獣耳部』と『天使・悪魔研究部』は普通にナシだし、カップルしかいない『カフェ部』なんざ前を通るのも嫌だし」

「え……? そ、そうなの!?」

 知らなかったのか、彼女は瞬きを早くしていた。

「服部曰く、部員十二人で六カップルらしいぜ。今は見逃してやってるけど、近いうちに『リア充を撲滅する会』に密告してやろうと思ってる」

「やめなさい。人の幸せは喜ぶものであって、壊すものではないわ」

「んじゃ、部活巡りもナシの方向で頼む。俺の幸せは、『帰宅部』でいることだしなー」

「今はそうかもしれないけど、心変わりするかもしれないじゃない」

「その〝かもしれない〟のために今の幸せを手放せってか? ないわー」

 シンは大仰に肩をすくめ、首を横に振った。

 直後、彼女の双眸に激しい怒りが浮かぶ。

「……このままごね続けたら不幸せになるというか、確実に不幸せにしてやるけど、それでも構わないってこと?」

「ちょっ、ちょっと待て! 人の幸せは喜ぶものだ理論はどこに行っちゃったんだ!?」

 目を見開いて驚愕するシンに、ミナは冷淡な声で言ってのける。

「言い忘れていたわ。アンタだけは対象外よ」

「何で俺だけ、サポート対象外商品みたいな扱いなんだよ……!」

「それより、どうするつもりなの? 行くの? 行かないの?」

 不幸せになりたいのか、なりたくないのか。

 そんな風にも聞こえる問いを受け、シンは仏頂面で答える。

「入る気はまったくねーけど、行くだけなら良い」

「どうするかは見てから決めなさい。今決めることじゃないわ」

「へいへい。つーか、訊こう訊こうと思って訊けてなかったんだけど、鳴海はどうなんだ? 入りたい部活とかねーのか?」

「特にないわね。見つけても多分、そこには入らないわ」

「んあ? 何で入らねーんだ?」

「アンタと同じところに入るためよ――」

 予想外の返事を受け、シンは息を呑んでまじまじとミナを見る。

 ――それってつまり……、つまりだよな? 何だかんだ言いながら、嫌よ嫌よも好きのうちだったってことだよな!?

 部活巡りを通じて入りたい部を見つける――。

 彼女はそう言っていたが、照れ隠しの口実だったようだ。

 一緒にいるために部活巡りをして、一緒にいるための部活を見つける――。

 それが真の目的だと察し、内心で歓喜の鐘を打ち鳴らす。

 真冬をすっ飛ばして春が来た、と思うのと同時に彼女が二の句を継いだ。

「――アタシが目を離したせいで、詐欺の被害者が出たら嫌だしね」

 恋心、ではなく、正義感。

 好きな人、ではなく、詐欺師。

 そんな変換作業を終えたところで、シンは物悲しげな顔をする。

「詐欺師なんていない……。この学園には、一人もそんな奴はいないんだぜ……」

「目の前にいるんだけど」

「そいつは多分、彼女が欲しくなったどこにでもいる普通の高校生だな、うん」

「アンタ、そのフレーズ好きよね。と、というか……、なっ、何でいきなり彼女が欲しくなったのよ」

 お前のせいだと言えるはずもなく、妥当な答えを返す。

「寒くなってきたからだろーな」

「そ、そう……。ち、ちなみにだけど、どんな子が好みなの?」


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