異世界転生(異世界転生要素なし)
この窮屈な世界が、大嫌いだった。
突然『向こう』への扉が開き、今までの冴えない自分とは180°違う自分へと生まれ変わる。退屈な現代社会へ別れを告げて、見たこともない世界へと旅立つ。こんな辺鄙なところではなく、僕を必要としてくれる人がいる、何処か遠くの此処じゃない世界。
そんな未来を、ずっと夢見てきた。クラスメイト達が『向こうの世界』から名前を呼ばれ始めてから、僕は『次こそ自分の番じゃないか』なんて淡い期待に胸を焦がした。僕の名前を呼んでくれるのなら、勇者でも悪役令嬢でも、役割は何でもいい。何でもやるつもりだった。今や僕のクラスは、指で数えるほどの人数しか残っていない。そして何回も眠れない夜を過ごして、とうとう、僕の番はやってきた。
「ただいま〜…」
家に帰り、自分の部屋のドアを開けると、先客が待っていた。
「こんばんは」
「!!」
僕のベッドの上に、先客が待っていた。まるで妖精のような、見たこともないひらひらの服を着た大人の女の人。手に持った杖や額に埋め込まれた青い宝石が、こっちの世界の人間ではないと物語っていた。女性の横には、これまた見たこともないような、光り輝く大きな裂け目が床上数センチのところに浮かびあがっていた。僕が驚いたまま固まっていると、女性はにっこりと微笑んだ。
「貴方がユウキくんね?」
「え?えーっと…」
「私はルエル。あちらの世界の案内人をしています」
「案内人…!」
僕は鞄を取り落とした。心臓が突然跳ね上がり、耳の奥で爆音を響かせた。来た…。とうとう…!
「おめでとう、貴方は向こうの世界に呼ばれたのよ」
「あ…ありがとうございます…」
「じゃあ早速」
ルエルと名乗った女性が光り輝く裂け目をちらりと見た。恐らくあれが、『向こうの世界』へのゲートなのだろう。僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「いいこと?一度ゲートをくぐったら、二度と此処には戻れないわよ」
「…!」
僕は頷いた。友達も皆向こう側へ行ってしまった。もうとっくに、この世界に未練なんてない。それよりも、僕を必要としてくれて、向こうの世界に呼んでくれたことが嬉しかった。案内人に促され、僕は光る裂け目の中へと足を踏み入れた。
光の中で、僕は振り返ることもせず進み続けた。一体どんな世界が待っているんだろう?さっきから心臓の音は高鳴りっぱなしだった。光はだんだん明るさを増していって、僕は全身を眩い光に包まれた。
やがて出口が見えてきた。
『向こうの世界』に飛び出した時、僕を待っていたのはこれまでにないくらいの歓喜の声だった。出口に集まった人達は、僕が今日此処にたどり着くことが分かっていたようだった。誰もが僕を見て笑顔を弾けさせ、万雷の拍手を送っている。その熱烈な歓迎っぷりに、僕は思わず涙を流した。一人の女性が僕を抱きかかえ、代表してメッセージを述べた。
「おめでとうございます!2860gの、元気な男の子ですよ!」