幸運の女神
何の取り柄もないまったくもって平凡な男がいた。男は呟いた。
「ああ、幸せになりたいな」
ここのところ、これが男の口癖となっていた。自分の人生を悲観しているわけではないが、あまりにも平凡過ぎる人生もつまらなく、やはり何かが起こるべきだし、その何かは『幸せ』でなければならない。男のその様な考えが、自然と口癖として表れていたのだった。
ある日、男がいつものようにため息混じりで口癖を言葉にすると、いつの間にか男の側に一人の美しい女が立っていた。女が言った。
「私は幸運の女神です。あなたに幸せを届けにきました」
見ればなるほど、女に漂う不思議な雰囲気、音もなく突然現れた様子、確かに女は女神のようだった。
「本物の女神様なのですね。僕を幸せにしてくれるのですか? ありがとうございます!!」
男は喜び、女神にお礼を言った。
「ではこれから、あなたに幸せの魔法を掛けますね…」
女神はいざ男に魔法を掛けようとしたが、そこでふと動きを止めた。男が不安げな表情で女神に尋ねる。
「どうなされたのですか? 早く僕に幸せの魔法を掛けてください」
「すいません、やはりあなたより幸せになるにふさわしい人がいる気がするのです」
「そんな、酷い!! 大体僕よりふさわしい人って誰なのですか!?」
女神は少し考え、この話の読み手に幸せが訪れる魔法を掛けた。