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八十三話 未来予想図はとてもファジー。

 なんて悠が考えていると、声をかけてくる少女が二人。

 藤真と水島のコンビである。


「空気読まなくて悪いけど、一間さん。お疲れ様」

「先輩たち、お疲れ様です」

「わかっているのならやめましょうって言ったんだけど」


 ちょっと呆れた風な水島。

 悠としてはいつもの様に慶二と話していただけなので、別に気にしたわけでもない。


「今、歌唱グループの子たちみんなに声かけてたところなの。……ありがとう、一間さん。最後の体育祭で錦を飾れて良かった」

「いえ、グループだけでなく組全員で頑張った結果だと思います。僕も楽しかったです」


 悠は本心からそう思う。

 それぞれが自分の個性を出し、それでいて調和がとれた演目だったからこそ優勝できたのだろう。


 それほどまでに悠にとっては記憶に残る舞台だった。

 思い出すだけで熱いため息が零れそうになる。


 間違いなく自分は全力を出し切ったと胸を張れるし、級友たちもみんな楽しそうだったのだから。


「悠ちゃんの歌聞きたいし、今度部活のメンバーでカラオケにでも行きましょうか。お隣の彼も誘ってもいいし」

「はい、またいつか……」


 逡巡があったものの、悠は水島の誘いを好意的に受け取った。

 慶二との思い出があればきっと呪歌も制御できるはず。そんな信頼から。


 ……ただし、隣で慶二が少しぎくしゃくとした動きになっていたのには気づかなかった。 


「やっぱり、一間さんも合唱部に入らない?」

「……藤真先輩!」


 相変わらずの勧誘に、殺気立つ水島。

 本当に無頓着なのか、それともわざと素知らぬふりをして煽っているのか。

 どうにも悠には判断の付かない案件である。


 そもそも、疾うに藤真は引退してOBのはずなのだが。


「じゃあね。また機会があったら一緒に遊びましょう? 受験が終わらない限り、アレだけど……」

「はい。改めて、お疲れ様でした」


 そうして、藤真たちは去っていく。

 恐らく、他の生徒の元へ行くのだろう。


「どうしよう。まだ時間あるけど」

「俺は別に用事はないけどな」


 悠が尋ねると、慶二はそう答える。

 ならもうちょっと彼とこうしていようかな。

 なんて悠が考えていると


「悠、ちょっといい?」


 また呼びかけが。

 今度は実夏だった。


 そういえば、悠は実夏の変貌について教えてもらっていない。

 十分間の空白になにがどうなったのだろうか。


 何か言おうとする慶二に先んじて


「慶二はついてこないでね」


 実夏は静止する。


 置き去りにされる慶二は可哀そうだが


「女同士の話だから」


 と線引きをされてしまえば仕方ない。

 手で謝罪を表すと、悠は実夏と共に人気のない物陰へと向かった。





「そ、そうなんだ……」


 慶一と出会い、そんなやり取りをしていたとは。

 予想外すぎて悠はそう呟くことしかできない。


「おめでとう。心配したけど、それならよかった……」


 それでも祝福の言葉は忘れない。

 二人が結ばれるのは悠にとって願いどおりの結末。


「……ありがとう。悠。きっと、上手くいったのは悠のおかげだと思う」

「え……」

「悠に慰めてもらって。後押ししてもらって。……だから上手くいった。そんな気がするわ」


 それだけ言って本当に幸せそうに笑う実夏。


「悠は、あたしの一番の親友。一生ずっとね」


 その微笑みを前に、悠の頭の中が真っ白になる。


 涙がほろり。

 うれし涙と、ちょっとだけの悔し涙。


 もしかしたら、最後の最後でほんの小指の先ほど残っていた未練が顔を出したのかもしれない。


 でもそれは涙と共に流されていく。


「……僕も、ミミちゃんとずっと親友でいたいと思う」


 悠が女の子になってしまったあの暑い夏の日。

 恋心が打ち砕かれてしまいとても辛かった言葉。


 今度こそ、悠は友情の約束を交わすことが出来た。





 そろそろ後片付けが始まる時間。

 悠たちは遅れないよう、集合場所へと歩いていく。


 実夏の足取りは軽い。

 スキップ交じりで悠より先行している。


 彼女は帰り道、慶一と一緒に下校するのだという。

 それだけのために待っていてもらうのは心苦しかったが、長年の夢と漏らせば彼も二つ返事で快諾した……と照れながら語っていた。


 そんな帰り道、立ち止まってぼそりと実夏。


「いつかあたしが慶二の義姉になるのかしら」

「……それって」


 悠は、彼女の言わんとすることを察し、同じく歩みを止める。

 二人はまだ学生。

 それも、実夏は中学生だ。


 大分気が早い話……というより、付き合った初日にする話なのだろうか。


 ちょっと悠はツッコミを入れたくなったのだが、妄想を前に実夏は嬉しそう。


 秘め続けた恋心が報われた日なのだ。

 浮かれてしまうのも無理はないのだろう。


「それで悠が義妹になってくれたらいいのに」

「流石にそれは、難しいんじゃないかなぁ」


 確かに慶二を通し、慶一とは兄弟同然に暮らしてきた。

 とはいえ、悠は家が隣なだけの赤の他人。異世界からやってきたのだから血のつながりなどあるはずがない。


 それでは兄妹としてはカウントされないと思って、苦笑い。


 この親友たちといつまでもずっと一緒にいたいと考えるのは同じなのだが。


「わかってないわね。……ま、いっか。じゃ、行きましょ」


 実夏に促され、悠は再び歩き出す。

 祭の終わりに対し、一抹の寂しさを噛みしめながら。

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