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七話 一間家の食事はおいしい。

 本日二話目です。

 美楽の説明が終わった。

 話がひと段落ついたところで、慶二は湯飲みを傾け――空になっていることに気付くと、そっと机に置いた。


「えっと、本気ですか?」


 夢魔とか、魔法とか。

 慶二には、全く現実味のない虚言としか受け入れられなかったのだろう。


「けいじぃ……」


 悠はもう泣きそう。

 悠自身、まだ納得はいっていない。だが、十年来の親友に受け入れてもらえないというのは、彼女の心に暗い影を落とした。


「悠、しゃんとしなさい。あんたがそんなだから、こういう事態になったのよ?」

「う、うん……」


 原因は自分の弱い心。

 昨日、悠自身も痛感した答えだ。


 ――そうだ、僕は変わらなきゃ。


 ヘタレかけた心が持ち直す。


 ――気合を入れろ! 親友に信じてもらえなくてどうするんだ!


 悠は自分の頬をぱちんと叩き、気合を入れなおし――


「――悠?」


 慶二の口から、もっとも彼女が望んだ言葉が漏れた。





 自分の頬を自分でビンタし、鼓舞する姿。

 それは、例え性別が変わったとしても、慶二のイメージする悠の象徴だった。

 たった今、慶二の中で、親友の姿と少女の姿が重なった。


 自他とも認めるヘタレでありながら、性根だけはまっすぐな彼。

 そのイメージと、目の前で――涙目になっているが――懸命に涙を堪える少女の姿が一致したのだ。


「やっぱり、悠なのか?」


 一度認めてしまえば、不思議なほどすんなりと受け入れることが出来た。


「けいじぃ……信じてくれるの?」

「ん、なんか、今の姿見てたらすごい『悠だな』って思えた。……散々疑っといて悪いけど、信じるよ」

「あら、一件落着?」


 美楽は二人を見てにやにや。


「いえ、それとこれとは別です。確かに目の前にいるのが悠だとは認めますけど、魔法とかオカルトは信じられない」


 しかし慶二はきっぱりと断言。

 彼として譲れない一点があるようだった。


「そうだよ、お母さん! 全然魔法効いてないじゃないか! 本当に魔法なんてあるの!?」


 悠も慶二に加勢した。

 彼女としては、親友に受け入れてもらえれば一安心なのだろう。

 しかし、事前情報との食い違いが不信を招いていた。そもそも、本当に魔法があればこんな手間は必要なかったはずである。


「あるわよ。……百聞は一見にしかず、っていうものね」


 それだけ言って、美楽の雰囲気が豹変した。

 茶髪だったのが、黄金へと変化していく。黒目が赤く煌めき、尋常でない雰囲気を帯びる。

 ごにょごにょと呪文を呟き――


「【火種(ファイア)】」


 と宣言した。

 白魚のような手のつま先に、小さな灯がともる。

 揺らめく炎は、まるで人間ライター。


「私は簡易的なものしか使えないのよ。平電さんが帰ってきたら、家が吹き飛ぶぐらいすごいの見せてあげられるんだけどね」


 手品と断ずることもできただろうが――慶二にとって、信じるに値する出来事だった。

 悠を受け入れた時点で、彼はすでに非日常へと片足を突っ込んでいるのだ。


「……信じますよ」


 渋々と慶二は頷く。

 一方、悠はまだ納得がいかない様子。


「で、どうして慶二に――ええと、それとミミちゃんも? 魔法は通じないの?」


 認識をずらす魔法について、慶二も説明を受けている。

 確かに、気になる疑問点の一つだ。


「慶二くんたちは地球の人にしては体内の魔力が強いのよね。だから、最低限の魔術は通用しないんだと思うわ」

「俺が、ですか?」

「そ。まあ、悠にとって、却って都合がいいんだけどね」

「それって、どういう……?」

「すぐにわかるわ」


 美楽はそれだけ告げると、曖昧に笑った。





 いつの間にか時計は十一時を疾うに過ぎていた。

 結構長い間話し込んでいたらしい。


「折角だし、お昼食べてく?」

「ええと……」


 慶二は遠慮しようかと思い、断ろうとして――

 手を引っ張られた。


 悠だった。

 帰らないでくれ、と上目づかいで懇願されている気がする。


 慶二も自分の目的を思い出した。

 そういえば、昨日の内容を問いただそうと訪ねたのではなかったのか。


「いただきます」

「そ。素麺でいいわよね? うち、私も悠も少食だしつい余りがちになっちゃうのよねえ」


 美楽の手料理が食べられないのは残念だ。慶二はそう思った。美楽はここら一帯でも料理上手として評判なのだ。

 近所のよしみで泊まり込むことが多い慶二にとって、第二のお袋の味といえる。

 とはいえ、ごちそうになる以上贅沢は言えない。

 慶二は


「はい。大丈夫です」


 とだけ返した。





「ごちそうさまでした!」


 素麺を綺麗に平らげ、慶二が宣言する。


 一間家の素麺はやはり格別だった。 

 シイタケやエビで出汁をとった自家製のつゆである。

 つゆの中にオクラやとろろなど、大量の薬味が投入されている。精がつくようなチョイスは、少食の悠が夏バテしないための策らしい。


 例え素麺といえど、ここまでお手間いりであれば旨い。


「いい食べっぷり。男の子はこうでないとね」


 満腹に腹をさすっていると、美楽が麦茶を入れてくれた。

 一方、悠は殆ど食事に手を付けていない。


「悠、体調悪いのか?」


 普段から少食とはいえ、これは異常である。

 慶二が心配すれば


「ううん……なんだか、昨日から食欲あんまりないんだよね」


 彼女は儚げに微笑む。

 失恋の影響だろうか。慶二がそう考えていると


「夢魔に覚醒した影響ね。多分、少ししたら食欲も回復するから安心しなさい」

「うん……」


 やはりどこか辛そうだ。

 慶二からすれば、悠は弟分である。これは、彼女が夢魔とわかっても、そして性別が変化しても変わらない。


「ちょっと、横になってくるね」


 悠は椅子から立ち上がり――眩暈に襲われた。

 ふらり。

 体勢を崩し、しな垂れかかる。


 慶二の対応は早かった。

 悠が体を床に打ち付ける前に支え、抱きかかえる形になる。


 ――うおっ。


 首筋に顔が近づき、シャンプーのいい匂いがする。つい仰け反りそうになった。


「だ、大丈夫か、悠?」


 そんなことを考えている場合ではない。

 出来る限り平静を装い、声をかけた。


「う、うん。あれ、力が入らないや……」


 返事はか細かった。

 しかし美楽は想定内なのか、慌てず見守るだけ。


「そろそろだと思ってたわ。魔力切れね」

「魔力切れ、ですか?」


 聞きなれない単語に、訝しげな顔の慶二と悠。


「そ。すでに性転換のとき大量の魔力を消費してるのよ。人間でいう栄養失調みたいなものかしら」

「どうすれば、治るの?」

「夢魔は自力で魔力を作れないのよ。だから、他者から吸い取る必要がある」

「えっと、つまり?」

「ふふふ、慶二くん、食べた分、働いてもらうわよ?」


 慶二は、何故だか背筋がゾクリとするのを感じていた。

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