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五十一話 目覚めてはいけないものに目覚めたらしい。

 祝日である。

 悠は、よくわからないが猪田と一緒に出掛けることになってしまった。

 理沙曰く元気づけるため。


 ――それなら休んでた方がいいんじゃないかな?


 疑問を覚えたものの、気晴らしは重要だと理沙に熱弁されてしまった。

 鹿山や蝶野では駄目なのかと尋ねたのだが


「悠さん、話をするいい機会じゃないですか。それに、普段ずっと一緒にいる同士だとわからないこともあるんです」


 まるで嗜めるように理沙は答えた。





「えっと、今日はよろしく」


 二人は駅で合流する。

 悠は、白いブラウスにミニスカート。

 このブラウスは、初めて身に着けた女の子の服装である。肌触りがよく、悠のお気に入りなのだ。


 一方、猪田は赤いデニムのシャツにジーンズと、ボーイッシュな出で立ち。

 目深にキャップまで被ってしまっている。


「お、おう」

「猪田さん、体調は大丈夫なんだよね?」

「まあな……」

「みんな心配してたよ?」


 悠は“みんな”を少しだけ強調。

 休んでしまったことを気に病んでいないかと思ったためである。


「悠は……」

「え?」

「悠は心配したか?」


 猪田の瞳は揺れていた。

 あまりにも心細げな様子に、つい悠は息をのむ。


「もちろん。猪田さん、ずっと元気なかったから」

「……サンキューな」

「うん。じゃあ、今日はストレス解消も兼ねて遊ぼう」


 そして、二人は改札を潜り抜ける。





 二人がついたのはリバーシティ。

 一応行き先については相談したのだが、結局のところ、このあたりで遊び場といえばここしかないのだ。


「まず、どこいこっか」

「そうだな。悠は行きたいところあるか?」


 悠は少し考えてみたが、特に思いつかなかった。

 本来、猪田を元気づけるのが目的であり、それに従えばいいと考えていたからだ。


「猪田さんが決めていいよ。少し前に来たばかりだし」

「……誰とだ?」


 しかし、意外なところに猪田は食いついた。


「え。慶二とだよ。二週間くらい前だったかな。一か月ぐらい前にミミちゃんとも行ったかな」


 ただし後者は苦々しい記憶なのだが。


「も、もしかして二人でか?」

「う、うん」


 何故彼女がそこを気にするのかわからなかったが、悠は正直に答える。

 すると、しょんぼりする猪田。


「そういえば、あのとき猪田さんも来てたんだよね」


 悠は、二週間前、鹿山と蝶野と出会ったことを思い出した。

 結局猪田とは会えずじまいだったものの、どうせなら誘ってみてもよかったかもしれない。


「……まあな」

「ゲームセンターで合流って言ってたけど、猪田さんはゲームよくやるの?」

「そうだな。クレーンゲームとかよくやるよ」


 あまりゲームセンターに行かない悠としては、ちょっと興味を惹かれる。

 彼女は、テレビゲームは嗜んでも、プレイ回数でお金が嵩むタイプは少し苦手なのだ。


「ちょっと行ってみたいかな」

「なら、悠の行きたいところはそこで決まりってことで。その前に、あたしは服を見たいんだけどいいかな?」

「じゃあ、午前中は猪田さんの方を回って、お昼からゲームセンターにいこっか」


 一度決まればとんとん拍子に話が進み、目的地が決まった。





 『ブラン』という服屋に着いた。

 かつて悠が実夏と共に向かったお店である。


「悠! これ似合うかな?」

「そうだね……こっちの方が似合うかも」

「試着してくる!」


 ピンク色のパーカーを猪田は提示したものの、悠が差し出したのは空色のものだった。

 活動的な彼女には、そちらの方が良いと考えたため。


 美楽による特訓の成果は実を結びつつあるようだった。


「じゃあ、僕もちょっと着てみようかな」

「……悠もか?」

「実は、あんまりお小遣いないんだけどね。ちょっと合わせるだけ合わせてみようかなって」

「そっか……。悠も女の子だもんな」


 複雑そうな顔をする猪田に


「猪田さん、試着したら見せ合いっこしようよ」


 そう悠は申し出た。


「……うん!」


 二人は、夢中になって昼ごろまでウィンドウショッピングを楽しんだ。





 悠たちがリバーシティに着く少し前のこと。

 ひょんなことから彼女たちを追いかけることになった男性陣三人。


 そう、三人である。あまり乗り気でなかった鹿山も、二人が行くのならと渋々ついてきた。

 曰く、ブレーキ役なのだとか。


「……姐さんが乗る電車はこの時間だから、俺たちは一つ先ので行くぞ」

「なんでだ? 悠たちと一緒の時間に、別の車両じゃ駄目なのか?」


 慶二は蝶野に疑問をぶつける。


 すると、蝶野は慶二に、わかってないとでも言いたげな顔をした。


「……同じ電車だと、見つかる可能性があるからな。二人きりなら、それを大切してやりたい」


 そして、これは心配りだと前置きして、スマホでリバーシティのマップを表示。

 猪田が行きたがりそうなところを説明していく。

 珍しく彼にしては饒舌である。


 それにしても


「――えらく手馴れてないか、蝶野」


 慶二は末恐ろしいものを感じた。

 時刻は仕掛け人の理沙に訊いたにしても、随分と猪田の行動を分析している。

 大体いつもここで服を買うとか、こういう気分のときは洋食を食べたがるとか、かなり詳細に。


 これは、洒落にならない。


「まあ、こいつは姐さん命だからしゃーない」


 すかさず鹿山がフォロー。

 ……フォローになっているのだろうか。


 慶二は同級生の暗黒面に触れてしまった気がして、安易な思いつきを口にするものではないと深く反省することとなる。

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