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四十九話 親友たちの心配が嬉しい。

「悠、大丈夫だったのか?」


 昼休みが始まってから少しして、悠が教室に戻ってくると、一番に声をかけたのは慶二だった。


「う、うん。ちょっと貧血みたいな感じ」


 流石に慶二の前で本当のことを言う気になれず、悠は言葉を濁す。

 それきり、慶二は黙り込んでしまったのだが、悠としてはそれより大事なことがあった。


 悠は教室を見渡す。

 しかし、意中の人物は見当たらなかった。


 猪田のことである。

 先ほど、大事な話があると言っていたが、中断されてしまった。

 時間が経つにつれ、悠は彼女の目的がなんだったのか、気になって仕方がない。


「悠、お昼食べられそう?」

「ミミちゃん……」

「少しでも何か入れた方がいいですよ」


 どうやら、いつもの親友たちは悠のことを待っていてくれたらしかった。

 三人ともが食事に手を付けている様子もない。


 全員食べるペースは遅くはないが、このままでは食後の休憩時間は余裕がなさそう。

 そう考え、悠は猪田を探すのをいったん諦め、昼食をとることにした。





「いきなり悠が倒れるんだから心配したわよ?」


 特盛の弁当をぱくつきながら、実夏が言うと


「うん、僕も気絶したのは初めてかも」


 悠は他人事のように頷く。

 彼女としては、あっという間の出来事だったので現実味に欠けるのだ。


「でも、あの愛子が助けるなんて、意外だったわ」

「そうですか? 私は、当たり前だと思いますけど」


 流石の悠も薄々感づいていたのだが、三人目の女の子とは猪田のことのようだ。

 心底意外そうな実夏とは対照的に、理沙はうむうむと首を縦にしていた。


「む、肩を持つじゃない」

「まあ、それはですね。見てたらわかりますから」


 ふふんと理沙が鼻高々。

 実際に彼女の鼻筋は通っているので、驚くほど様になっている。

 しかし、すぐに様子を変え


「それで、悠さんは本当に大丈夫なんですよね?」


 と聞いてくる。


「薬のおかげで平気みたい」


 幸いなことに、鎮痛剤が効いてきたのか食欲は――普段より劣っているものの――それなりにあった。

 それなりといっても、元より悠は少食なので、そうなると本当に少量なのだが。


「病気とかじゃないのよね?」

「う、うん。……お母さんに言ったら、夕ご飯が豪華になるかも」

「……なるほどね」


 仄めかすと、女の子二人共は察したようだった。

 慶二だけが理解できていない風に首を傾げる。

 そのせいか、先ほどから彼は一度も会話に参加していない。


「無理はしないでくださいね」

「うん。それで、さっき話題に出てた猪田さんのことなんだけど」

「愛子がどうしたの?」

「四時間目、怪我したんだよね?」


 悠は質問をしつつポテトサラダを一口。

 そして、もうお腹一杯なので蓋を閉じる。

 代わりにデザートのゼリーを取り出した。


「短距離走だったけど、こけてたわ。遠目だからわからないけど、結構酷い感じだったみたい」


 実夏はそう答え


「リレーに影響でないといいけど」


 とだけ付け加えた。


「結局、それから戻ってきませんでしたね」


 引き継ぐ形で理沙。

 悠は疑問に思った。

 確か、彼女は授業に復帰すると言って出て行ったはずである。


「にしても、どうしてですか?」

「えっと、保健室で会ってね」

「……何か言われたのか?」


 ここでようやく慶二が話題に参入。

 いつもならこういった話題で食いつくのは実夏なので、悠は意外に感じる。


「大事な話があるって。結局最後まで聞けなかったんだけど。でも教室にいなかったし……」

「……そういうことですか。道理で。多分、教室にも帰ってきてないはずです」


 理沙には大まかな推測が出来ているようだったが、悠は見当もつかない。

 予想だけでも教えて欲しいと申し出たのだが


「本人から聞かないと駄目だと思います」


 とすげなく断られてしまった。


 結局、悠の疑問は解消されないまま、昼休みは過ぎて行った。





 部活も終わった放課後。

 だというのに、悠は一度も猪田に話しかけることが出来なかった。


 彼女は浮かない顔をして、ふらふらとすぐに何処かへ行ってしまう。

 どうにも機会に恵まれぬまま、慶二との待ち合わせの時刻になっていた。


「悠、待たせたか?」


 適当な席に腰かけて小説を読んでいると、慶二の声がした。

 悠は、別段驚いた様子もなく本を片づけて振り向く。

 読書中だというのに、別のことが気になって集中できなかったためである。


「ううん。……どうだった?」

「どうだった、って猪田のことか?」

「うん」


 あまりの様子に、告白の内容より猪田自体が心配になってしまった。

 そのため、悠は慶二に彼女を窺うよう頼み込んだのだ。


「そうだな……まあ、練習自体は珍しく落ち着いた感じだったな」


 曰く、実夏と猪田の間にひりついた空気はなく、全体的なメンバーの雰囲気も良好だったとか。


「でも、覇気がなかった」

「覇気?」

「猪田だけ、心ここにあらずって感じだな。実際、タイムもあんまり良くなかったし」


 それでも、いつもの様にバトンを落とすより大分マシ、

 慶二はそう補足する。


「そっか……心配だね」

「俺としては、お前の方が心配なんだが……」

「僕?」


 悠が問い返すと、慶二はこくり。


「本当に、魔力を減らす必要あるのか? 倒れるまで行くと、逆に体に悪いとしか思えん」

「う、うん。大事なことだから。……それに、別のことが原因で体調悪くなっただけだし」


 悠としては、二重の意味でいいたくない。

 魔力を減らす原因も。

 どうして倒れたのかも。


 特に後者は、顔を赤くするしかない。


「……本当に危ないときは、ちゃんと言えよ?」

「わかってるよ、慶二」


 親友の心遣いに感謝しつつ、悠は心配をかけないよう笑いかけた。

 それは今朝とは違い、心からのものだった。

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