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三十六話 フードコートは騒がしい。

 話し合いの結果、昼食はフードコートでということになった。


 理由は三つ。


 まず、財布が心許ないこと。

 この後映画に行くことを考えると、中学生の小遣いでは少し厳しいものがある。

 リバーシティの場合、レストランとフードコートでは値段で差別化を図っているため、格安で済む。


 次に、お互いの好みが合致しなかったこと。

 悠としてはハンバーガーやサンドイッチといったパンが食べたかったのだが、慶二の望みはこってりとしたラーメンだった。

 そもそも、汁物は服を汚す可能性がある。

 二人の意見は割れた。ならば双方の要求を満たすところへ行けばよいとなったのだ。


 最後に、食事量の違い。

 少食でインドア派の悠と、運動力が多く食べ盛りの慶二では差が大きい。

 同じ年だというのに三倍ほど食事量に差がある。その分、好きなだけ食べられるフードコートはうってつけだった。


「混んでるね……」


 とはいえ、フードコートは万能ではない。

 学生客や家族連れが多く、混雑していた。同じことを考えたのは悠たちだけではないのだ。

 それに、セルフサービスなので注文の度、席を外さなければならない。

 当然、どちらか一人が席取りをしなければならず、その分注文が遅れる。


「まあ、仕方ないんじゃないか?」

「うーん」


 実はフードコートという案を出したのは悠なのだが、早くも辟易してきた。彼女は人ごみは得意ではないのだ。

 一方、慶二はすすっと空いたスペースに入っていく。

 このあたり、サッカー部員の実力を発揮しているのかもしれない。


 だが、残念なことに空きスペースは殆どなかった。


「どうしよう?」

「安めのファミレスにでも入るか?」


 二人が諦めようか相談し始めたそのとき。


「よー、慶二に悠!」


 軽薄そう声が後ろから聞こえてきた。





「鹿山君?」


 悠の声で慶二は振り返る。

 そこにいたのは学友である鹿山 銀だった。


「なんだ、銀か」

「『なんだ』って、ご挨拶だな、おい!」


 相変わらず無駄にテンションが高い。

 兄である金の方を見習ってほしい。口には出さないものの、慶二はそう思った。


「お前、一人か?」

「いやー? 修平と一緒。お前らは二人なのか? ひょっとしてデートってやつ?」


 からかうような鹿山に、慶二は否定しようと口を開く。


「違うよ。買い物と、映画を見に来ただけ」


 ――だが悠に先を越された。

 同じことを言おうとしていたのに、何故だか釈然としないものを感じつつ口を噤む。


「ふぅん。……ああ、もしかして席がないってやつ?」


 二人が右往左往していた理由を察したのか、鹿山が訊いた。

 頷けば、彼はにっこり。


「なら、相席しよーぜ!」





 鹿山に案内された席は、角地の六人掛けの席だった。

 そこに、蝶野が一人。

 ずっしりと腰を下ろしていた。


 おおよそ中学生とは思えぬ威圧感。

 慶二はつい身構えるが、悠はそれを無視して近寄っていく。


「蝶野君、久しぶり」


 彼女が軽く挨拶をしてみれば、ぎろりと睨まれた。


「二学期になってからあんまり話す機会なかったよね」

「……そうだな」


 だが悠には一切、物おじした様子はない。平然と言葉を交わしていく。

 信じられないことにこの二人、馬が合うのだ。


「話は後々! 先に注文しないと、いつまで経っても飯が食えねーべ!」

「そうだな。誰が待つ?」


 見れば、鹿山も蝶野もまだ何も頼んだ様子はない。恐らく、鹿山は注文しに行く途中に慶二たちと出会ったのだろう。

 公平にじゃんけんか何かで決めるべきだろうか。

 慶二がそう言いだそうとした瞬間。


「……」


 蝶野が手で制した。


「待っててくれるんだ? ありがとう」


 当然のように悠が通訳。

 何故無言で会話が成り立つのか、慶二には理解しがたい。


「お前、今のわかったか?」


 不安に思い、鹿山に質問。


「おうよ、もちのろん」


 事も無げに返す鹿山。

 悠も、彼の困惑を余所に、手提げのバッグを机に置くと財布を取り出していた。

 慶二は酷い疎外感に襲われ、蹲りたくなるのを必死で我慢する。





 数分後、慶二は宣言通りとんこつラーメンを手にしていた。

 大盛りにコーンのトッピングを追加したもの。

 別段名店の味というわけではないが、不思議と慶二はこのスープの味が好きだ。


 値段の手ごろさがちょうどいい。

 何とも言えないチープさに舌鼓を打ちながら、ずるずると麺を掻きこんでいく。


「悠に訊きたいんだけどよ」


 有名チェーン店のハンバーガー片手に鹿山が言った。

 だが、悠はそれどころではない。


 何故か彼女は前言を撤回し、たこ焼きを頼んでいた。たったの一船だけで、食べ盛りには物足りない量。

 不用意に一個丸ごと口に入れては、熱かったのか、はふはふと必死に冷ましている。


「……ちょっと待ってやってくれ」


 見るに堪えず慶二が間に入ると、鹿山は苦笑した。


「別に急いでるわけじゃねえって。ちょっと学校の話だから」

「……そうだな」


 めったに見られない真面目な顔をする彼に、蝶野が追随する。

 そんな会話をしているうちにようやく悠は落ち着いたようで


「どうしたの?」


 と聞き返していた。


「姐さんのことなんだけどな」


 薄々慶二は察していたが、やはり猪田についてだった。

 彼女が悠に対し辛く接しているのは、実夏と理沙から聞いているからだ。

 きつい暴言を吐くわけではないが、何かと追い立てる様なことを言うらしい。

 勿論、彼女のことが気に入らない実夏が若干の誇張を加えている可能性もあるが。


「猪田さん? どうかしたの?」

「いや、まあ。最近色々と機嫌悪いだろ? 実夏とも険悪だしよ」

「あ、うん……そうだね」


 思うところがあるのだろう。

 悠は言葉に詰まっていた。


「出来ることなら、嫌わないで欲しいんだよ。姐さんなりの乙女心というか……」

「うん、わかってるよ」


 珍しく明瞭でない鹿山に、悠は満面の笑みで返す。


「ほ、ホントか?」

「女の子だったら、いきなり男の子に着替えを覗かれるのは複雑だと思う。僕も、なんとなくわかるよ」

「……まあ、そういってくれるなら」


 慶二には理由がわからないが、何故か目の前の男子二人は明らかに落胆していた。

 悠が許容で返したのにである。

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