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三十五話 落ちぶれた相棒が物悲しい。

 悠が説明した内容は簡潔だった。

 体育祭が終わるまで、魔力供給の頻度を上げて、その代わりに供給量を減らしてほしい。

 ただそれだけ。


 理由がわからず、慶二は首を捻る。


「それ、なんの意味があるんだ?」

「……えっと」


 悠は言葉に詰まる。

 だがすぐに


「一種のダイエットみたいなものだよ。この時期、あんまり一度に貯めこむのはよくないんだって」


 と返してきた。


 ――嘘だろ。


 慶二は早々に見抜いてしまった。

 明らかに怪しい。

 そんななんてことのない理由なら、間を置く必要がない。


 だが追及は避けた。

 そもそも悠という人間は腹芸の出来るタイプではないのである。

 それは幼馴染にとって公然の事実。悠本人としても気づいているだろう。


 だというのに嘘をつくというのだから、然るべき理由があるのだと察したのだ。

 それに、女性が関係ある事柄であれば、藪をつついて蛇を出す可能性もある。


 窓の外に目をやれば、景色が高速で過ぎ去っていく。

 とりあえずこの場は返事は了承の意を一言で示すことにした。


「そうか」

「ごめんね、迷惑かけて」

「……なんか、今日は謝ってばかりだな」


 慶二はしょぼくれる少女に笑いかけ


「そろそろつくぞ」


 とだけ言った。





 リバーシティについた二人は一目散にゲームショップへと向かった。

 有名なチェーン店ではない。

 ショッピングモールの端にある、寂れた個人経営の店である。

 元々は別の個所に店舗を開いていたのだが、新たなアミューズメント施設の展開に移転で勝負をかけたらしい。

 ……結果は推して知るべし。


 別に二人がこの店を贔屓にしているわけではない。

 人気ゲームのため、殆どの店が早々に予約を閉め切ってしまっていたのだ。

 つまり消去法でここが選ばれた。


 目的のものは予約済みなので素直にレジに向かうだけでいいのだが、なんとなく悠は棚の方へと向かった。

 壁には昔流行ったカードなどが飾られている。

 時代の流れか、今となってはゲーム一本では成り立たないのだ。


 休日だというのに客は少なく、いても若い男性が一人二人いるだけなので、悠はショーケースに近寄っていく。

 小学生三年生の頃、夢中になったカードゲームを見つけると、なんだか懐かしくて悠は目を細めた。


「懐かしいな」


 気づけば慶二も傍に来ている。

 ボルブレード・マジシャン。パックでたまたま引き当てたカードで、当時の悠の切り札だった。

 アニメの主人公が使っていたため、同級生から羨望の眼差しで見られたのを覚えている。


「意地悪で取ろうとした上級生と、取っ組み合いの喧嘩したよね」

「あーあったなあ、そんなこと」


 勿論、喧嘩をしたのは慶二。

 悠だけだと多分泣き寝入りしていただろう。


「あのとき、慶一さんが来てくれなかったらと思うと肝が冷えたよ」


 慶二は同年代に比べ体格は良かったが、それでも年上相手では多勢に無勢。

 次第に追い詰められてしまっていた。


 そのとき現れたのが慶一で、彼は上級生を仲裁しつつ言った。


『――ならサッカーで決着をつけよう』


 さっぱり意味が分からないが、有無を言わせぬ迫力があり、全員従ったのである。

 とりあえず結果は慶二の勝利だった。

 少年たちの宝物は守られたのだ。


 悠が遠い目をしていると


「たまに兄貴は意味わかんねえからな」


 何故か不機嫌そうに慶二が口を尖らせていた。


「あはは……それにしても、今じゃ100円かぁ」


 悠は乾いた笑いをもらすと、往年のレアカードの値札を確認しため息をつく。

 四年近く前のものとはいえ、ここまで暴落しているとは。

 一抹の寂しさを感じなくもない。


「買うか?」

「……いいよ。多分、僕のは押入れのあたりに眠ってるから」

「そういうならいいけどよ」


 慶二の申し出を断ると、周囲の客が全員自分を見ていることに悠は気づいた。

 そしてようやく自分の格好を思い出す。

 中学生ぐらいの女の子がカードについて語り合う姿は中々にミスマッチ。衆目を集めるのも当然だった。


「い、行こうか」

「お、おう」


 二人は急いでショーケース前から退散するのだった。





 二人は予約券を提示すると、店員へと手渡す。

 少し前にゲームコーナーを見たところ、目的のソフトはすでに売り切れてしまっていた。


 ――予約しておいてよかった。


 店員がカウンター裏から二本のソフトを取り出すのを見て、悠は胸をなで下ろす。

 まず先に会計を済ませたのは慶二。

 次に悠が五千円札を取り出すと


「あれ? 君女の子だっけ?」


 店員は首を傾げた。

 悠は思い出す。そういえば、一月前に予約したときの店番も彼だった。

 どう答えればいいかわからず、つい慶二の顔をちらりと窺う。


「彼女は、彼の妹です」

「あ、そういうことね。ごめんごめん、ナンパとかじゃないからそっちの彼も睨まないでくれ」


 慶二の言葉に、笑いながら店員はお手上げのジェスチャー。

 そのあとは恙なく会計も終わり、二人はゲームショップを後にした。





「ありがと、慶二。どう応えたらいいのかわからなくて」

「確か、平電さんの「魔法」とやらは学校とか家の近くだけなんだろ? 多分、説明しても無駄だったんじゃないか」


 確かにその通りだと思って悠は納得する。

 わざわざその場限りの人間に事情を説明する必要はないのだ。


「……少しお腹すいたね」

「もう十二時過ぎだな。昼飯、行くか」


 思ったよりゲームショップで時間を潰してしまったらしい。

 悠はこくりと頷くと、モール内の案内板へと向かった。

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