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三十三話 親友の行動が訝しい。

 土曜日。

 部活を終え、バッグを持った慶二が部室を出たところ、上級生含め部員達の様子がおかしかった。

 どこかそわそわしている。

 周囲を窺えば、同級生の一人が声をかけてきた。


「慶二、お前のこと待ってる女子が来てる」

「……?」


 慶二には誰のことだかわからない。

 いつもなら悠なのだが、休日の部活に彼女がいるはずがないのだ。

 もしかしたら、一学期のように告白されるのかもしれない。

 そんなことを考えながら向かったところ


「ミミ?」

「少し、話しない?」


 実夏は勝気な瞳で見つめながらそう言うと、中庭の方角を指差した。





 二人は、学校の中庭にあるベンチに腰かけた。

 図書館も近くにあるが、閉館時間が迫っている。落ち着いた話は出来そうにないし、そもそも図書館は騒がしくしてはならない。


「……なんでわざわざ?」


 訝しげに慶二が問うた。

 陸上部の部室はサッカー部のものとは正反対にあり、偶然とは思えなかったのだ。

 少なくとも世間話という雰囲気は感じ取れず、自然と探るような声色になる。


「べ、別になんでもないわよ」

「はぁ?」


 呼び出した当人の台詞とは思えず、慶二が不満を隠せない。


 ――腹減ったし帰りてえ。


 彼の思考は、年頃の少女に呼び出しを受けた少年のものとは思えないほど即物的であった。


「なら帰っていいか?」


 彼女は元より、遠慮のいらない相手。

 だというのに探り合いをする必要が見受けられず、自然とぶっきらぼうな口調となる。


「ちょ、ちょっと待って! 明日、あんた用事ある?」


 慌てるように実夏。

 慶二はようやく話が進むのかと呆れつつも、答えてやった。


 明日、悠と一緒にリバーシティへ向かうこと。

 買い物を済ませた後は映画へ行き、そのあとの予定は未定。

 友人同士の気軽な付き合いを端的に説明する。


「……それ、デートじゃない?」


 実夏の声には驚きの色が混じっていた。


「いや、違うだろ……」


 少なくともこの約束は悠が男のときにしたものである。

 だから関係ないと考え、慶二は否定する。


「いいえ、きっとそうよ!」

「お前な、それだけ聞きに来たのか?」


 少女の中に興味が加わったのを感じ、慶二はため息をついた。

 益々面倒くさい。


 そもそも、それがどうしたというのか。

 少なくとも今回は二人で遊ぶ約束をしていて、実夏は関係ない。


 ――そうだ。


 一つの結論に思い至り、慶二は彼女に質問する。


「もしかすると、お前も来たいのか?」

「違うわよ!」

「お、おう……」


 一閃だった。

 叱られてしまい慶二は困惑。

 気心の知れた相手とはいえ異性は異性ということか。彼はそう自分に言い聞かせる。


 目をやれば、実夏はもじもじ。

 さっぱり理由がわからず、慶二は本当に帰りたくなってくる。


「もういいか? 腹減ったんだが」

「わかった、言うわよ……」


 意を決したのか、実夏はぼそぼそと話し始めた。





「お帰り、遅かったな慶二」


 帰宅した慶二を迎えたのは兄である慶一だった。

 彼の通う高校は一駅先にあり、いつもなら慶二の方が迎える――とはいえ、ぶっきらぼうに挨拶を返すだけ――立場である。


「……まあ、野暮用で」

「ふーん? 飯にしようか」


 慶一の言葉に慶二は同意し、手分けして冷蔵庫からおかずを取り出していく。

 余計な時間を取られた彼は空腹の限界に達しているのだ。

 買い食いしてもよかったが、残念なことに明日のことを考えると手持ちが心許なかった。


「あ、兄貴。俺、明日出かけるから」

「了解了解。どこ行くんだ?」


 一間家にお裾分けしてもらった煮物をレンジに入れつつ言葉を交わす。

 余ったスペースに冷や飯も突っ込んでいく。


「リバーシティ。悠と一緒」

「ほうほう……」


 兄の相槌にどこかいやらしいものを感じ、慶二は彼の顔を見る。

 ……ニヤついていた。


「なんだよ」

「いや、デートか。弟にも春が来たと思ってな」

「だから違うっての」


 どいつもこいつも!

 そう思い、慶二は苛立ちを隠せない。

 単に遊びに行くだけで何故そこまで言われなければならないのか。


「そういう兄貴は明日、用事あるのか?」

「ん? いや、ないぞ」

「そうか。そりゃちょうどよかった」

「どういうことだ?」


 意味が分からないのだろう。

 慶二を見つめる慶一の目には疑問が宿っていた。


「ミミ知ってるだろ?」

「ミミ……。ああ、実夏ちゃんか」 


 いつの頃からだっただろう。

 兄の言葉に慶二は想起する。


 小学校のころは慶一も実夏のことをミミと呼んでいた。

 慶二と仲のいい幼馴染は、当然兄とも面識がありよく遊んでいたのだ。


 恐らく慶一が中学校に上がったあたり。

 学校が変わってからは出会うことも少なくなり、自然と疎遠になっていったのだと慶二は思う。


 それでも近所だったころは良かった。

 地域の交流などで話す機会はあったからだ。


 しかし今となっては精々出会うのは幼馴染が慶二の家に集まるときぐらいであり、そしてそれはそう多くなかったのである。


「あいつが兄貴に訊きたいことがあるんだってさ」

「……あの子、サッカー部だったっけ? 女子の」

「いや、違う。陸上部」


 慶一の疑問も最もだった。

 一体彼女に何の目的があるのか、慶二にはさっぱりわからない。

 実夏はただ、絞り出すように


「明日、慶一さんって用事ない……?」


 の一言しか言わなかったのだから。


「ま、とにかく話聞いてやってくれよ」

「……わかったが、なんだろうな。フォームについてとかなら、あの子の方が詳しいと思うけど」

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― 新着の感想 ―
今更だけど幼馴染で告白されてお友達でいましょうってかなり都合いい答えじゃないか……? ハルカから言うならわかるけど、告られた側が言うのは違う気がする 大して面識ない相手からの告白じゃないんだし、なんか…
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