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二十四話 部活の面々はどこかおかしい。

悠が廊下に躍り出ると、丁度理沙がいた。


「悠さん、もう(・・)部室に行くんですか?」

「う、うん」


 まさかばったりと出くわすとは思わず、つい及び腰になってしまう。


「文芸部は夏休みの活動ありませんでしたから、久しぶりになりますね。少し気合を入れないと」


 そんな悠を無視して、理沙が話題を振る。


「……そうだね。マークたちとは一か月も会ってないのかあ」

「多分、驚かれるんじゃないでしょうか」


 理沙の言葉に悠は複雑な表情。

 部内の人間関係は良好。心配はないと思いつつも、受け入れてもらえなかったらどうしようかと少し不安になる。


「大丈夫ですよ」


 歩みを止めず、理沙が慰める。

 文芸部の部室は図書館に隣接した三棟にある。一年B組の教室からは結構な距離があるのだ。


 ちなみに、学生たちの教室があるのが一棟、音楽室や実験室など専門分野の教室があるのが二棟である。

 三棟は随分小さく、一階までしかない。


「先輩たちにとって、私たちは空気みたいなものですから」

「え?」


 聞き捨てならない台詞だった。

 が、立ち止まる悠を無視して理沙はどんどん進んでいてしまう。

 急いで悠は彼女を追いかけた。





「久しぶり、悠ちゃん、理沙ちゃん」

「……久しぶりだな」


 部室に入ると、男女二人の先輩が出迎えてくれた。

 女子の名は水島(みずしま) (あずさ)。二年生。二学期に入って先輩たちが引退し、新部長に就任したばかりの少女だ。

 おかっぱ頭に眼鏡の、いかにも文学少女といった出で立ち。


 男子の方は火野(ひの) 源馬(げんま)。文芸部に似つかわしくない、強面の男である。

 筋肉隆々で体格もいい。

 もし、彼が軽く腕を一薙ぎしたら、その衝撃で自分は紙のように飛んで行ってしまうかもしれない。

 悠はそう思った。

 二年生は彼らの二人しかいないので、必然的に火野が副部長となる。


「本当に女になったのか」


 火野が悠を見てしみじみと呟いた。


「は、はい」


 対する悠は緊張気味。

 体格差に怯えているのではない。常に威風堂々としている火野は、悠にとってあこがれの先輩なのだ。生き様の師匠といっていいほど。そんな彼の値踏みするような視線が怖い。


 ――がすぐに火野の目は緩み、父性を感じさせるものに変わる。


「……悠は悠だな」


 悠の頭を包めるかと錯覚するほど大きな手で、火野は彼女の頭を撫でる。

 まるで幼子に対するような手つき。


「あ、ありがとうございます!」





 何に礼を言っているのか。

 悠が火野に尊敬の意を示しているのは知っているが、理沙は目の前の少女が少し心配になった。


「駄目よ、ゲンちゃん」


 火野の手を抑えながら水島が言った。


「男の子のころならまだしも、女の子に対して頭を撫でるのはセクハラよ」


 実際にそうなのかは兎も角、当の悠はまんざらでもない様子。むしろ、目を細めて心地よさそう。

 しかし、水島は不満げだった。


「撫でるなら私を撫でてよ」


 口を尖らせてそう言うと、彼の手を自分の手へと強引に移す。


「……うむ」


 火野はそんな少女に、なでなでで返した。

 先ほどの悠同様、水島の表情がうっとりとしたものに変わる。

 完全に二人だけの空気が出来上がり、大よそ文芸部とは言い難い、状況が部室に展開していた。


「……相変わらずですね」


 理沙が頭を押さえながら呟く。

 火野と水島は、公言はしていないが恋人同士なのだ。ところ構わずいちゃつくタイプではないが、何故か部室に限ってそのタガが外れる。

 それで部員にも隠しているつもりなのだから、呆れるほかない。


 あまりにもマイペース過ぎる二人。理沙は人間的に嫌いではない。だが、少しぐらいは自重してほしい。

 せめて、からかうと赤面するタイプのバカップルなら話は別なのだが。


「二人とも、仲良いよね」


 うんうんと頷きながら悠が言った。

 そういえば、彼女の両親も結構イチャイチャしている。だから耐性があるのだろう。

 理沙はそう考えた。


「ええ……そうですね」


 ――私も、悠さんみたいにこういう状況に慣れないといけませんね。


 素直に感心。

 理沙は大人びているようで、やはりまだ少女。付き合うまでの過程は見てて楽しいが、付き合ってからのイチャイチャは少し刺激が強すぎる。

 何せ、目の前の光景は恋愛小説よりよほど甘い。


 しかし――


「やっぱり幼馴染だもん。性別が違っても親友でいられるんだよ」

「え?」


 続く言葉に唖然とするしかない。


「あの、もしかして気づいていないんですか?」

「何が?」


 可愛らしく首をかしげる隣の少女。

 理沙は、仕方がないので耳元で小さく囁いてやる。


「えーっ!?」


 どうやら、悠は一学期中、一切気づかなかったらしい。

 そんな彼女を見て、理沙は頭を抱えるしかなかった。





 悠が新事実に衝撃を受けていると、男子生徒が一人入室してきた。

 鮮やかな金髪に日本人離れした白い肌。

 海のように深い碧眼と通った鼻筋。まだ男になっていない線の細い体つき。

 まるで、絵本に出てくる王子様のような整った顔立ちの少年だった。


「マーク! 久しぶり」


 彼は柵谷(たなや) マーク。

 悠たちと同じクラスの一年生で、容姿からわかるとおりハーフである。

 彼は、悠が駆け寄ってくるのに気が付くとスマイルで応えた。

 年頃の少女であれば見惚れてしまいそうな甘い笑顔だ。


「久しぶりやねー、悠。女の子になったってほんまやったんや」


 ――が、口から飛び出したのはこてこての関西弁。


「おいも、見るまでは信じられんかったわ」


 だというのに一人称は鹿児島弁。

 意味不明の取り合わせ。それが、彼の美の調和を全て破壊していた。


「うん。……っていうか、始業式のときに言ったと思うんだけど」


 しかし、悠は慣れたもの。この口調に一切突っ込むことはない。

 そんなことより、何かおかしいと思い、悠はマークを問いただす。


「いやー、すっかり寝てたわ。夏休み最後の日やからって夜更かししすぎたんよ」

「……始業式だからって居眠りは駄目だよ」

「すまんすまん」

「お久しぶりです、マークさん」


 理沙も先輩たちから目を反らしたいのか、マークに近寄っていく。

 マークは、彼女に対し、特上のスマイルをお見舞いする。悠に向けたものとは比べ物にならない輝きだった。


「これ、旅行のお土産です。どうぞお受け取りください」


 が、完全にスルー。

 悲しいほど事務的に包みを渡す。

 しかしマークはそれでも嬉しそう。

 柵谷マーク。彼は理沙のことが好きなのだ。……理沙本人としては全く嬉しくない好意だったとしても。

 変人でないつもりだったのに悠が一番変人になりました(人ですらないけど)。

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