始まりの挫折
最初こそ混乱してはいたが、よくよく考えてみれば、マオにとって自身がゴミのように扱われるのは当然のことのように思えた。
なんたって、前世が魔王。記憶もある。しかも大量虐殺の首謀者。一人殺せば殺人者で一〇〇万人殺せば英雄になれると言うが、どう考えても殺しは殺しだ。わかっています、自分はただの悪党です!そんな風に考えてしまうもんだから、自身を産み落とした女に、散々憎まれ嫌われ、子種の男に嬲られた挙句に捨てられても、まあ、うん、そうなるわな、としか思わなかった。むしろ殺されなかっただけでも儲けものである。
この思考からわかるとおり、マオは前世の自分を恥じていた。いや、世界征服しようとしたことは後悔していないよ?してないけど、あんな自信満々に復活してやんぜ!と宣言しておいて実際に復活したのが一〇〇〇年後だったことに一生分の恥をかいたというかなんというか…とにかく身悶えしたくなるような感情を覚えてしまうのである。誰か。誰か!あの時の我を殺してくれ!!いや、もう死んでるけど!!でもお願いいっそのこと殺して!!なんだよ世界は我のもの!って。我って書いておれって読みますけど何か?平気で高笑いしてましたけど何か?黒マントかっけえええって思ってましたけど何か?ものっすごく恥ずかしくて地面の上を転げ回りたいですけど何か!?なんか文句ありますか!?ちょっとばかし他よりもイケメンで優秀で強い魔力持ってたから調子に乗っちゃったんです。勘違いしちゃったんです。だからお願い、そんなに笑顔で絵本を読み聞かせるのはやめてえええええええ!
と、女からの愛情を過去の恥のために突っぱねて突っぱねて拒絶して逃げまくってしまったがためのこれなので目も当てられない。自業自得とはまさにこのこと。むしろごめんなさいである。ほんと申し訳ありません。気を悪くさせて不快にさせて本当に申し訳ありませんでした。まあ男の方は許してやらないけどな!!
だから、マオは冷静になった頭で、仕方ないよな、と一人しみじみと思ったのだった。が、余裕ではいられない。なんたってまだ5歳。少女…いや、幼女である。
ど う や っ て 生 き て い け と ?
これが死んですぐの頃だったならばなんとかなっていただろう。部下だった奴を探し出すなりなんなりしてかなり危ない橋を渡ることにはなるかもしれないが、なんとか生きていくことはできたかもしれない。が、しかし。ここは一〇〇〇年後の世界なのである。一〇〇年後じゃないんだぜ?一〇〇〇年後だ。部下はとっくのとうに死んでいる。生きているんなら、もうお前が魔王でいいじゃんと言ってやりたい。文化レベルも一般常識も何もかもが変わっていると考えるのが妥当だろう。よって、今のマオに一人で生きていく力はない。
ど う や っ て 生 き て い け と ?
だから、マオは道の片隅でどうしたものかと呆然とするしかなかった。