終わりの始まり
彼は、絞めつけられるような痛みによって、その意識を覚醒させた。
はじめは頭だった。ぎちぎちと潰さんばかりの勢いで内側に向かって絞められ、彼はあまりの痛みに身悶えした。振り上げた腕は、弾力のある壁によって阻まれた。
そこは、狭い空間だった。手足を広げても伸びきらないうちに壁に突き当たってしまう。ドン、と。力の入らない腕で柔らかい壁を叩いてみると、僅かな低反発が返ってくる。
―――――これは一体何だ。
彼は考える。どういうわけか開かない目は闇ばかりを映し出し、空間を見ることは出来ない。ドン、ドン。今度は足を動かして蹴ってみる。頭の痛みはまだ続いている。
痛みは頭だけでなく、首の方にもやってきた。頭からすっぽりと何かに覆われるように絞められ、もう何が何だかわからなくなった。痛みは徐々に体全体へと及んでいく。痛い。物凄く痛い。あと苦しい。暴れようにも痛みはもう腰のあたりまでやってきてうまいようにはいかなかった。
―――――なんなんだ、これは!!
声帯がうまく機能していれば叫んでいたことだろう。しかし、声をあげることは出来なかった。目も開かない。顔の上を何かが這っているのである。否、這っているのではなく、筒のようなところを体が通っている。柔らかく、襞があり、ヌメヌメとしている。とうとう身動きが一切できなくなった。
混乱の中、頭が外気に触れた。濡れている頭部が少しだけ寒い。次に、顔が同じく外にでた。外、と認識できたのは瞼の向こうが明るくなったからである。薄い皮が光にあてられ淡い肉白色の闇を作り出す。そうやって、彼の体は少しづつ、まるで吐かれるようにして外へと出されていった。
ひゅ、と唇を開いて酸素を肺に取り込んだとき、彼は漸く自身が置かれた状況を理解した。
自身が何者で、どうして眠っていたのか、なぜ締め上げられるような痛みに悶えなければならないのか。
理解して、歓喜に打ち震えた。
―――――ようやくだ。思わずほくそ笑む。
ようやく、この時が来たのだ。長い眠りから目覚め、復活する時が、ついに。待ちわびていた瞬間が、刻一刻と迫っている。
まずはじめに何をしてやろう?彼は考えて、ある若者のことを思い返した。
―――――くそ。あの、忌々しい若造め。
あの時のことを思い出して、そのあまりの憎々しさに思わず、唇を噛み締めた。が、うまくいかない。ん?と違和感を覚えて、何度か口を開いて閉じて、彼はとんでもないことに気がついた。
あるはずのものが、ない。
驚愕に目を見開いた彼の瞳が映し出した光景に、今度こそ彼は驚きのあまり声を大にして叫んだ。
「おんぎゃあああぁああああ」
しかし、彼の耳に言葉らしきものは聞こえなかった。確かに声帯を震わせたはずなのに、どうしてか耳に届いたのは言葉とも言えない母音だった。産声。古い古い記憶の中に眠っていた知識が、その音を産声だと判断し、―――――そして。
彼は、この世に産み落とされたのだった。