終わりの終わり
世界は、闇に支配されていた。
暗雲が蒼天を覆い、太陽の存在を隠すようになって一〇年もの年月が過ぎた。少しづつ闇は大地を侵略し、世界は一歩、一歩と荒廃へと近づいていく。荒廃と共にやってくるのは、悪しき心より生まれ落ちた恐ろしい魔獣たちだった。死んでしまった、或いは他の地へ逃げてしまった動物たちの代わりに、更地となった地を駆け抜け、或いは飛び、行く先々の村でその牙を爪を存分にふるって血を啜り肉を喰む。
獰猛な魔獣に、人はあまりにも無力だった。魔獣に襲われた村々は一夜で滅んだ。逃げ惑う背に爪を立て、悲鳴に震える喉へと牙を食い込ませる。脆弱な人間の体はいとも容易く、魔獣たちの腹の中へと収まった。
滅んだ村に住み着いたのは、魔獣を束ねる種族である魔族たち。魔族を束ねるのは、世界の闇を生み出した魔王である。彼はこの世のありとあらゆる悪の根源であり、権化だ。その瞳は血よりも紅く、闇のように深い色をしている。魔王は世界を我がものとせんがために、悪しき心を持って人間を滅ぼしにかかった。
魔族は魔獣と違って高度な知能を有する。姿も人間のそれと変わらない。人間と違うところを挙げるとするならば、高い魔力を有し、それを以てして魔術を行使するとこだった。
人間は魔力を持たない。そのために、人間には闇の軍勢から身を守る術がなかった。唯一対抗し得るのは魔術師のみだったが、彼らが立ち上がった頃には全てが手遅れだった。
人間の嘆きによって魔王の力は強大なものへと膨れ上がり、数少ない魔術師も闇に飲み込まれ、世界に絶望が満ちた。
そうして、世界は闇に喰われていった。
嘆き、悲しみ、恐怖、混沌。人心は惑い、恐慌が訪れた。
救世主は、ある日突然現れた。
救世主は、自らを勇者と名乗り、世界を旅し、仲間を集め、古より伝わる聖剣の力で魔獣や魔族たちを退治しながら魔王の住む城へと進んでいった。
魔王の城に辿り着いた勇者一行は、多くの犠牲を払いながら魔王と死闘を繰り広げた末、世界を賭けた戦いに見事打ち勝った。
戦いに敗れた魔王は一つの予言を残し、砂となって散り消えた。
魔王は滅び、彼に従っていた魔族は逃げ去り、世界を覆っていた闇は消え去った。
世界に、再び平和が訪れたのである。人々の顔には笑顔が浮かび、空には太陽が輝き、大地には緑が戻った。
けれど、不安だけは拭い去ることは出来なかった。
魔王は死の直前に予言を残したのである。
一〇〇年後、世界は再び闇に支配されるだろう、と。
それは、魔王の復活を意味していた。