前章.始まりの夜
昔から、古いものが嫌いだった。
音楽、漫画、ゲームから食べ物、衣類、雑誌までジャンルを問わず古いものは避けてきた。どういう『古い』かというと、それは賞味期限や出版年のみならずブームや製造年数や保存時間であったりと様々なので、基準は自分でもよく分からない。現にそれでも特に支障は無かった。しかしこれもたった今までの話である。
僕は今、一言で言うと危機に、二言でいうと死の危機に直面していた。
「お前、今この状態を死の危機だなんて思っていないだろうな。」
隣に両手両足を縛られた形で座っている原響太がこちらを睨んでくる。なんて勘の鋭い奴なんだ、と驚いたが、顔には出さない。出そうにも出せないのだ。
「じゃあ、お前は今の状態を何だと思ってるんだ?」
「チャンス。」響太は前を向いたまま即答した。
「ピンチはチャンスって昔から言うだろ。つまり俺らは今人生最大のチャンスに出会っているわけだ。こんな出会い滅多にないぜ?」
「…そうか。」
それは人生最大のピンチに陥っているという事でもあるよな、とは口にしなかった。
「それより、今は何時なんだ。」
響太が不自由な体を思いっきり曲げて僕の腕時計を覗きこんでくる。対して僕は両手を軽く縛られただけだったので、簡単に文字盤を見ることが出来た。
「…ちょうど午後7時、だな。」
それ聞いて響太が何とも言えない苦い表情を返してくる。僕も思わず苦笑する。互いに無言になった後、響太がぽつりと呟いた。
「そろそろアイツらのお出ましと言ったところか。」
目を、閉じる。こうなった全ての事の始まりはささいな反論から────時は、3時間前にさかのぼる。