第一話
―風が枝を揺らし、薄く色づいた花弁を空へと舞い上げていく。
その様子を見上げながら、彼女は愁い顔を隠しもせず、木の下に座り込んでいた。
校庭では、部活に励む生徒達の声が響いている、その声も校舎裏のこの場所までは届いてこない。
まるでこの場所だけ切り離された空間のようだ。
青空に舞う雪のような花弁、それが地面に降り積もり、まるで絨毯のようだ。
美しいと感じる景色に心を和ませながら、雪華は、瞳を閉じた・・・
唯一、安らげる場所・・・この大切な時間を壊されたくない・・・だが、それも叶えられることはないだろうことも解っていた。
自分は解っていながら何故、この場所に来てしまったのか・・・
避けて通ることの出来ない未来、同じ事が繰り返される日々から開放される時がくるのだろうか。
それだけが、そのことだけが・・・わからない・・・・
小石を踏みしめる音がする。
それは、安穏とした時間を終幕へと誘う、足音だったのかもしれない―
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「ねえ、ユキ!」
「きゃっ!?」
後ろから友人の麻子が飛びついてきた、覗き込む瞳は隠しきれない好奇心み満ちている。
この友人は何度言っても自分ことを「ユキ」と呼ぶ、「セツカ」では他の人と一緒で嫌なのだそうだ。
「やっぱり行くの?」
「だって行かなければ失礼だし・・・でも、物好きよね」
「はあ~相変わらず真面目だね。それに自分のこと解ってないし・・・。あんな人気の無い場所、ほいほい行くんじゃないっ!行かなきゃソレが答えになるじゃないっ」
興奮し、捲くし立ててくる麻子に気後れしながら、言い訳するように口を動かす。
「自分の事くらい解ってるわよ。私はあなたと違って、普通の女の子です」
「なにそれっ私が普通じゃないというわけっ!」
「女性にモテる女は、普通じゃないわ。自分のこと解ってないのは、そっちじゃないの?」
「もおーっ可愛くない!」
「お褒め頂き、ありがとう」
「っ!!」
ふふんっと答える私に、友人が視界いっぱいに迫ってきた。
この辺りで、からかうのを止めないと本気で怒り出すかもしれない。
「まあ~、冗談はここまでにして」
「冗談っ!?また、私のことからかったの!!」
なぜかもっと怒りだした・・・どこで失敗したのかわからない。
「あぁーもう、いいわよ。でも、本当に気をつけてよね。心配してるんだから」
気を取り直した麻子が、手を振りながら、過保護な言葉を呟く。
そんな友人の言葉に苦笑返しながら、自分には「大丈夫」な理由がわかっていても答えられない。
麻子は、苦笑を返してくる友人に「やっぱりわかっていない」と思いながら、そんな顔をしてもやっぱり「綺麗だな」と思う。
腰まで届く絹糸のような黒髪は、動きに合わせサラサラと流れ、夏の制服から覗く白磁の肌は、さらにその黒髪を引き立てている。
黒曜石を思わせる少し切れ上がった大きな瞳、小さな唇は、肌とは対照的に紅を指したような赤色だ。
「美少女」という言葉があるが、まさにそれ以外の言葉では言い表せない顔立ちをしている。
だが、本人にまったく自覚がない、「美少女」らしからぬ言動をして周りを驚かせている。
なぜ、こうなってしまったのか。
普通なら周りが放っておかないと思うが、雪華に高校で出会ったときからこうだった。
何かあるのだろうが、雪華が話さない限り聞き出そうとは思わない。
はあっとため息をつき、雪華に向けて微笑む。
雪華は突然黙り込み、微笑んできた友人に怪訝な顔をしながらも、時間になるといつものように別れの言葉を告げ歩き出す。
麻子は、その後ろ姿を見送りながら、自分も汗を流すため部活に向かうのだった。
この時、二人は知らなかった・・・このときが話をする最後の時間だことを・・・・・