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脱獄のススメ  作者: 真弥
1/6

-始まり-

人はよく、ちょっとしたことで怖いと感じます。


 ホラー映画を見たとき。真夜中に人気のない道を一人で歩くとき。


 テストで赤点を取り、親に見せるとき。

 

 確かに怖いのかもしれませんが、真の恐怖を知る人はそうはいません。

 

 真の恐怖。


 例えば、ナイフを持った変人に襲われたり、お墓で火の玉や幽霊を見てしまったり、数年間付き合っていた恋人が自分と同性だと気が付いたときなど、いろいろあるのかもしれません。

 

 今回、俺は真の恐怖を味わうことになる。


 


 夏休みだ。学校へ行かなくてもいい。俺たち中学生にとって、夏休みは最高のプレゼントだ。


 宿題はかなりの量出るが、たいしたことはない。


 夏休みラスト一週間ぐらいで終わらせればいいのだから。


 そう言って結局、始業式前日に涙流しながら徹夜で宿題を終わらせる生徒は数多い。

 

 でも、その危険をわかっていながらも、ついつい遊びたくなるのが、夏休みの恐ろしいところである。


 別に朝早く起きる必要もないし、夜は遅くまで遊んでいられる。


 部活もほとんど休み(と、勝手に思っている幽霊部員な俺)だし、今日は一日中家でごろごろ出来る


 ……そう思っていた。

 

 現実はそう甘くないらしい。


「ピンポーン」


 インターホンが家に響いた。こんな日に訪問客とは正直ムカついた。


 両親はもう仕事のため家にはいなかったので、俺が対応しなければいけない。


 どうせ親の客なのだから俺が出る必要もない。

 

 そうだ、居留守を使おう。


 俺はそう決めて、今まで見ていたテレビ番組であるドクタースランプアラレちゃん(夏になるとよく再放送されている)に目線を戻した。


「ピンポーン、ピンポーン」


 インターホンは続いた。


 どうせもうすぐ帰るだろうと思い、車をおいしそうに食べるガッちゃんを見つめていた。


「ピンポーン、ピンポーン」


 しつこい客だ。この家には誰もいませんよ。


「ピンポーン、ピンポーン」


 しかし、インターホンのラッシュは続いた。


 これでは気が散って、アラレちゃんを見られないではないか。

 

 しょうがない、とっとと帰ってもらおう。

 

 俺は嫌々立ち上がると玄関に向かった。そして、ドアを開けた。

 

 それが恐怖の始まりだった。

 

 ドアの前にリーゼント頭が立っていた。


 俺は一瞬頭の中が真っ白になった。状況が理解できない。


 何なのだ、こいつは……。そうか、両親の知り合い(それも奇妙だが)に違いない。


「あの~、両親は今留守ですが……」


 リーゼントは笑った。恐ろしいほど酷い顔で。


「何言っているの~? 私、貴方に会いに来たに決まっているじゃない☆」


 思い出した。思い出したくなかった。一応、このリーゼントは俺のペンフレンドだ。


「やっぱりかっこいいね!」


 俺はかっこいいと言われるのは好きだが、人は選ぶ。目の前のリーゼントに言われても嬉しくない。


「あ、ありがとう」


 心とは別に、勝手な言葉が出てきた。


 リーゼント頭に黒いサングラスをかけたそいつは、俺の顔を見てニコニコと笑った。

 

 俺はテンションが下がった。


 リーゼントはピンク色のブラウスを着て、赤いミニスカートを穿いていた。


 あえてもう一度言わせてもらう。


 リーゼントはピンク色のブラウスを着て、赤いミニスカートを穿き、俺の前で立っているのだ。


「ねぇ、家にあがっていいかな?」


 一瞬、リーゼントがサングラスの奥で、獲物を狙うかのような鋭い目をしたのを俺は見逃さなかった。




「男の人の部屋初めて~☆」


 リーゼントは俺の部屋に入るなり、そう言ってはしゃいだ。


 俺はというと、初めて部屋に連れ込んだ異性(まだ認めてないが)が、このリーゼントだということに、悲観していた。


「ねぇ、今日一日中、私の相手をしてね☆」


「う、うん」


 やった~! と言って、リーゼントは飛び跳ねた。


 俺は引き攣った笑顔で、リーゼントを呆然と眺めた。


「何か飲み物持ってくるよ」


 俺がそう言うと、リーゼントは嬉しそうに笑い、大きく頷いた。


 リーゼントの髪がブンと音を鳴らし、空間を縦に切り裂いた。




「さて、これからどうしようか」


 俺は、冷蔵庫にあった麦茶をコップに注ぎながら、考えた。


 そうなんだ、今から俺の、リーゼント乙女という牢獄からの脱獄が始まるのだ。

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