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彼の物語/関係についての考察

 変わらないものは無い。どんな思いも風化して、どんな思い出も日常に埋没するように、絶対不変の存在なんて、世の中に存在していないのだろう。感情なんてものはその最たるもので、結局それは、どの時だけのものに過ぎない。

 大切だと思うこの心。それだって、いつまでも変わらないという事は無い。善し悪しはともかくとして、良いものだって悪いものだって、良い方にだって悪い方にだって変わりえる。それを薄情と呼ぶ人だっているかもしれないし、冷たいとか冷めているとか、そういう人だっているだろう。

 けれど、考えてみれば、どんなものだっていつまでも熱くなり続ける事は出来ないのだ。どこかで頭打ちになる時は来るのだし、それは、途方もないエネルギーを必要とする。太陽だって、別に熱くなり続けているわけではないのだから、人間である僕達にそれが出来る筈がない。

「だから、お前が言う近頃冷たいって言うのが事実だとしても、それは仕方がない事なんだよ」

「そんにゃことにゃいだろ」

 訳の分からにゃい理屈をこねるにゃよ、とネコは言った。

 ネコの言うとおりである。まあ、自覚がないにしても冷たくなったというのが事実であるのならば、そこにあれこれと言い訳をした所でいまさら何が動くわけではない。僕は即興でぶった持論をそれなりに気に入っているのだけれど、それは言っても仕方がないだろう。

「まあ、お前の言う通りなのだろうさ」

 僕が投げやりにそういうと、ネコはしたり顔で頷いた。

「ほらみろやっぱり冷たくしていたんじゃにゃいか」

「そこは認めない」

「そこを認めにゃいと意味がにゃい」

 そんな事を言われた所で、別に何が変わったという事もないだろう。そもそも、ネコとあってからこれまで、そこまで優しくしたという記憶だってないのだ。期間も短いしね。

 そもそも、ネコとやっていたことなんて、せいぜい散歩くらいのものだ。

「んー」

 頭をひねって考えてみるが、やはりどうにもこうにも、特に何も浮かんでこない。

「………」

「どうしたんだにゃん?」

 むう。こうして考えてみると、案外これはどうだろう。

「僕とお前って、そんなに仲好くなかったんじゃね?」

「……っっ!!」

 驚きに固まっている。声も出ないほどの衝撃というか、読んで字のごとく絶句という奴だ。絶句って、考えてみたらすごい言葉だ。

「………」

「ああ、そうか」

 眺めていると、どうやら猫の頭の中で何かの回路がつながったのか、それまで遠くを見ていた視線が焦点を結び、まるで頭の上で電球が光ったような顔をした。

 ぴんぽーん。

「嘘にゃん!」

 しかし、その流れもいい加減マンネリである。

 さらに今回に限って、確かにひどい事を言ったというのは自覚があるのだけれど、しかし嘘かどうかは微妙な所だ。言っていい事と悪い事があるのも知っているし、これが言って良くない事だという事も分かっているのだけれど、その上であえて言えば。僕たちそんなに仲よくなくね?

 散歩した位だしなー。

「おい、おいおい。おいおいおいおい」

「どうしたんだネコ、お前らしくないぜ。セリフの中に一つもにゃんがにゃいぞ?」

「いやいや、いやいやいやいや」

 動揺しすぎだろう。キャラクターが崩れている。

「一緒に寝たじゃにゃいか!?」

「まあなー」

 でもなあ。一度寝たくらいで彼女面するな、みたいなことを言いたくもないし、別にそういう意味でも無いのだけれど、しかしそれでいきなり仲良しになるのだろうかと、僕は言いたい。

 キャンプに行ったらいきなり仲良しになるのだろうか、と言いたい。

「それは実際仲良しににゃるんじゃにゃいか?」

「一理あるな」

 というか、ネコの言う通りだ。

「それで仲良しににゃらにゃかったら、気まずいじゃにゃいか」

「その通りだな」

 うーん。実際、上手い事を言ったようなつもりだったのだけれど、上手な例を出す事が出来なかったせいで頓珍漢な事を言ってしまったような感じである。

「まあ………この話はここまでにしておいてやろう」

「いいけどにゃん」

 見逃してやる、みたいな顔をされた。

「うーん」

「納得いかにゃいのか?」

 納得は言ったのだが了解できない気分だ。

「いや、まあ。そりゃあ、一緒にキャンプにでも行けば仲良くなるだろうさ。僕にはそういう経験がないから、まあ、責任をもって保証はできないけどな」

 保証はできないが、感覚として確信している。その程度の想像力はあるし、認めることだってできる。

「けどさあ、そういう綺麗なイベントならまだしも、大人というか、汚れた大人で言う所の一緒に寝るというイベントだとどうなんだろう?」

「そんな事をおれっちに聞いてにゃにが目的にゃんだよ……」

「うん。行ってからとんでもない事を聞いてしまったと後悔した所だ。まあ、流してくれ。でもさあ、結局それだって一緒に寝ている事は変わりないだろう?」

「まあにゃあ」

「うん。汚れた大人みたいな意味だけじゃなく、一緒に寝ていると思うんだよ。まあそこにいろいろな事情があることだって、想像できるさ。想像できないほど、子供でも無いからね。でも、やっぱりある程度仲良しになるべきだと思うんだよ。一緒に寝たら仲良くなる、と言うのならね」

「おれっちが怒られているのかにゃん?」

 社会に対して怒っているんだよ。この、ちっとも仲良しになろうとしない社会に対して、今僕は怒っているのだ。

「いやさ、他人の事に関してあれこれ言っても仕方がないことくらい、しっかり分かっているさ。そういう事は、しっかりばっちり分かっているし、心に刻んであるさ。でも、その上で言わなければならないことだってあるだろう。これはそういう事だと僕は考えているね。人と人が分かりあえないとしたら、それは分かりあう気がないか、それともさっぱり言葉が通じない時だよ。齟齬があって、それをほったらかしにしない限り、本来仲良くなれるはずなんだ」

「まあにゃあ。確かに言う通りで、そんにゃ事今更口にするまでもにゃく正しい事だにゃん」

「今更口に出す事じゃなくても、口に出して悪い事は無いさ」

「好きにするにゃん」

 好きにするさ。どうせ好きにするしかない。

「それで、だ」

「まだ続くのかにゃん」

「うん。それで、最初に戻るわけだよ。一緒に寝たら仲良くなるのかどうかって話」

「そこが最初にゃのか?」

 底が最初である。むしろそれ以外の最初があったならば教えて欲しいくらいだ。

「むしろこう思うわけだ。一緒に寝て仲良くならない事がおかしい」

「そうにゃのか?」

「そうだろうがよ。一緒のお布団で寝ておいて仲良くないってどういう事だよ。布団冷めきりすぎだろうが」

「ん?」

「どうした、何か疑問でもあるのか?」

 きっちりばっちり疑問は解消してやろう。何でも聞けよ、答えてやる。

「いや、まあ問題にゃいにゃん」

 そうかい。

「そもそも、一晩一緒に寝て仲良くなっていないから世の中には問題が絶えないんだ。そういう所できっちりと仲良くなってさえいれば、世の中の問題は半分くらい片付くんじゃないかと、そう思うね」

「ほほう……にゃん」

「詰まる所、一緒に寝たらもう、いっそ愛し合っちまえよ、と思う」

「ほう!」

「にゃんはどうした?」

「そんなもん重要か?」

「重要だろ!」

 誰が喋っているのか分からない。ゆゆしき問題である。

「にゃんをつけないお前とは喋らない」

「じゃあつけるにゃん」

 良い子である。頭を撫でてやろう。

「しかし今回は、少々生々しい話になってしまったな」

「そうでもにゃいんじゃにゃいか?」

 まあ、認めたくは無いが、経験の無い僕があれこれと語って見せた所で、そこにはちっとも重みが無いのだった。一体何のために一席ぶったのか分からなくなってしまうような結論である。

 しょうもないとはこのことだ。

「何にせよ、仲良くした方が言いに越した事は無い」

「そうだにゃん」

「なんなら今晩一緒に寝るか?」

「そうするにゃん」

 久しぶりの事である。前に一緒に寝たのはいつの事だっただろうか。デイが来てからは一度もないのだから、そう考えると少なくとも一カ月以上は一緒に寝ていない。とんだ仮面夫婦だ。夫婦の仲が冷え切っていると言われてしまう。

 そう、倦怠期とか言うのだ。

「そういえばそもそも、何の話をしていたんだっけ?」

「にゃにが?」

 いやいや。とぼけた顔をされても、いくらなんでも唐突に好きになるとかそんな話をし始めるほど、エキセントリックな性格をしているつもりはない。

「どうしてあんな話をしていたのかって事を聞いているんだよ」

「そんにゃもん、わすれたにゃん」

 はあん。

 ま、いつものことだ。本当に忘れていても、とぼけているのだとしても、どっちだってかまわない。本当に大切な事は忘れないものなのだし、忘れてしまった事は忘れてしまってもかまわないか、あるいはいつか思い出せる事だ。

「酷い事を言ったと思ったら、その時は嘘だと思えだにゃん」

「そんな事を言った事もあったな」

「実際、そんにゃもんだにゃん。でも、言った通り、アキナが酷い事を言ったと思った時はいつも嘘だにゃん」

 そうかなあ……。

 そもそもあまり、酷い事を言わないと思うのだけれど。まあ、酷い事は、言われた側がどう受け取るかによって、変わるのだろう。

 結論を言えば、僕とネコは、一緒に眠るくらい仲が良い。多分それは、これから先、僕達の関係が変わって行くのだとしてもそれ以下になる事は無いだろう。

 生憎僕はどんな話から始まった会話だったのか忘れてしまったのだが、そんなところである。


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