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鶴の恩返し(4)

「すいませんでした!」

 土下座なう。

 どうしようもなく、否定しようも無く、言い訳のしようも無い。洗いざらい、ぶちまけました。げろったというやつだ。

「ほら、ネコ。お前も関係ないみたいな顔をしていないで、一緒に土下座しろ。ぶちのめして済みませんでした、って」

「にゃんでだよう………」

 罪の意識がまるでなかったのか。

「ああにゃんだ、嘘か」

「都合のいい解釈しようとすんな、一体今僕の言った事のどこが酷い事だったよ!?」

「怒るにゃよう。軽い冗談じゃにゃいか」

 そんな小芝居を入れつつ、僕たちは土下座をした。どうしてこうなってしまったのだろう。僕たちは一体、どこで間違えてしまったのだ。

 多分、手足を縛ったあたりだな。自分で自分をだますことすらできない、どうしようもなく自業自得な状況だ。なんだかもう、ネコとは一周回って絆を感じていると言っても過言ではない。一番仲良し。

「あの、顔を上げてください」

「いえ、いえ。そんな滅相も無い!」

「にゃんだ、もう良いのかにゃ?」

「この馬鹿ネコ、はっ倒すぞ!」

「酷い………つまり嘘だにゃん!」

 嘘だよ!

 畜生。こうして僕一人が、駄々っ子みたいに頭を下げ続けているような状況になってしまった。

「本当に、もう良いのです」

「こんな僕を許してくださるのですか?」

 なんだかもう、酷く卑屈になってしまっている。ツルさんが輝いて見えた。普段の自分を取り戻すためには、かなりのリハビリが必要になるだろう。良心の呵責が、あまりにも重すぎた。重ね過ぎた嘘の下から這い出すための時間をください。

 重すぎて抱えきれなくなって、もう、足腰がガタガタ。

「もうお分かりでしょうが、私はあの時あなたに助けていただいた鶴です」

 うん知ってる。

 名前もあからさまだし。ツルって言っちゃってる。隠していたつもりかもしれないけれど、すでに自分で恩返しをしようと思ったとか、最初に言うってしまっている。正直この町の人って、名前で自分の事をぶっちゃけすぎ。個人情報駄々漏れ、名が体を表しまくっている。

「本当は昨日の夜にこっそり侵入して、こっそりと恩返しをしようと考えていたのですが。そのせいでこのような事になってしまいました」

 なぜこっそり。

 あれか、今は機織りなんてしないから、恩返しの方法も変わってしまったのだろうか。世知辛い世の中だ。恩返し一つ、碌にさせてもらえないだなんて。

「こっそり済ませてしまおうというのが、おこがましかったのですね」

 ツルさんは言った。

「決めました!」

 名案を思いついたかのようなその顔に、どうしようもなく不安を覚えてしまうのは、なぜなのだろうか。頭の上に電球が見えるようだ。それからこの人、なんだか、ネコに似ている。

 とことんマイペース。

「私もここに下宿して、アキナさんの身の回りのお世話をさせていただきます!」

 結局、僕は彼女のこの決断を、どうにか押しとどめる事が出来なかった。当然である。彼女が決めた事に対して、僕が立ち入ることのできる余地など、在りはしないのだ。恩返しがどうとかを抜きにしてしまえば、結局ただ、こっくり荘の一室を借りたいと言っているだけだから。

 それに、今回の一件に関しては、ネコのとき以上に自分の責任を感じている。思慮深くなったとか、そんな事を言いながら、危うく着かなくても良い嘘を一生つき続ける事になる所だった。どちらにしても、ツルさんはこのこっくり荘に住んだだろうから、そうなったとき、僕の良心はどうなってしまっただろう。

 そう考えれば、確かにネコは、僕にとって最高の相棒だったのかもしれない。トラブルを呼び込みはしたけれど、本当に決定的な所では、助け船を出してくれたのだから。感謝したくはないけれど、感謝するべきなのかもしれないとも、思う。

 そうしてツルさんは、その日のうちにこっくり荘の住人になってしまった。そう言えば、僕がツルさんの手足の縄をほどいた時に、こっくり荘に住まわせて欲しいとか言っていたけれど、考えてみればあれは、嘘だったのか。住まわせてもらいたい人が、わざわざ夜中にやってくる理由も、無いだろう。

 鶴の恩返しは、鶴であるという正体が露見した時点で、終わりを迎える。ならばその正体が最初から露見していたなら、何をもって終わるというのだろうか。もしも、ツルさんの言う、こっそりと恩返しをする、という事が成功していたなら、彼女をめぐる物語は、きっと短い期間で完結していたのだろう。

 そんな彼女は、恩返しの第一弾として、料理の腕をふるっている。こんな日々はいつまで続くのだろうか。もしかしたら、その終わりは、僕がそう定めない限りやってこないのではないだろうか。定めたとしても、ツルさんがこっくり荘からいなくなる話であるとも、限らない。

 物語を紡ぐのは、確かに人間だ。けれど動き出した物語は、あっという間に僕の手から離れていく。それに対して何か思うというのではなく、きっと、現実はそうあるべきなのだろうと思った。生きているのなら、何かに縛られるべきでは、無いのだから。

 まあ、何にせよ、結局はこれも、僕の物語であると、そう言う他ないのだろう。恩返しの鶴は、恩返し先で、家族になった。

 そして、それこそが、僕にとっては本当の恩返しだったのだ。



ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。ここから後四話で区切りにしようと考えています。それで完結にするかどうかは分かりませんが、間が開くかもしれません。何か気が付いた事などありましたら、コメントをお願いします。

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