岡本翁
さて、前話とはガラリと変わるのですが、ある時、社長から電話がかかってきました。
私「はい」
社長「あの・・・」
私「何でしょうか?」
その依頼はある老人の方が小説の書き方を習いたいというもので私は笑って、快諾した。
その老人・岡本翁は教室にフラッとやって来た。
五木寛之先生の文庫本を持参した岡本翁は「この記号はどういう意味ですか?」といろんな記号について尋ね、私は「かぎかっこの中にさらに台詞を入れる時は二重かぎかっこを使うといいですね」など説明していた。
正直、記号の使い方などはどうでもいいことである。
私は雑誌に小説を載せてもらった時、日本語の読点のつもりで勘違いして英語の読点をうっていた。それは雑誌に載せる時、編集者が簡単な操作で直すだけである。それを生真面目に勉強しようとなさる岡本翁のお人柄が微笑ましく、私は教室のあるビルの喫茶室に誘ってお話をうかがうことにした。
好好爺の岡本翁とは談論風発となり、私は「五木寛之先生の作品を読んで印象的だった売血、血を売ることは昔は本当にあったのですか?」とうかがったところ、「私、やってましたよ」という想像以上のお答えが。「血液が検査されて、いい血液じゃないと買ってもらえなくてね、祈る気持ちでしたよ。買ってもらった後は増血剤をもらってね」
はっきり言って、私が岡本翁に教えられるようなことはなく、戦後のお話などをいろいろうかがった。
岡本翁の口も滑らかになり、小説の構想を教えて下さった。
「僕は大人の男と女の機微が分かる二人の話を書こうと思ってね、フォフォフォ。終戦記念日に二人が京都の祇園で出会います。そして半年後に北海道のむまんべつで再会するんです。フォフォフォ」
何かすごい作品になりそうである。(^O^)
何より、お年寄りの方が知的な趣味を持って、新しいことを勉強し、小説を書くことに挑戦してらっしゃることが素晴らしい。
岡本翁の大人の男と女の機微が分かる二人の小説、いつか読むのを楽しみにしている。