コータロー!奔(はし)れ!
自分は最近、ある先輩に「お前は社会人なのか!?」と叱られ、ショックを受けていた。
教室のあるビルの喫茶室でクリームあんみつと珈琲を頼み、自分は社会人じゃないのかも、とうちひしがれていた。
「千の風の人はちゃんと音楽教育を受けているけど、若い子には魅力ない」と言うマユちゃんに「許されないっしょ!」と言い、「マクドナルドでバイトしたい」と言うカズマに「いいじゃん!」と言っていたが、シンヤに「あ~、若ぶってしゃべってるけど『何とかっしょ』とか『じゃん』とか年寄り~」などと突っ込まれていた。(-_-)
そんな感慨深い私のところにコータローが挨拶に来た。
一緒に「青春アミーゴ」を歌い、踊っていたコータローがもう就職活動なんだ。そう思うと私ももう若くないってことか。まだ生徒と「瞳のスクリーン」とか歌い、踊っているけど。
「コータローはどこ行くつもりなの?」
「はい、アパレルの仕事したくて、名古屋の駅ビルのデパートにエントリーシート出したいんですけど、これでいいでしょうか?」
「コータロー、パパがシェフやっている縁で寿司屋のバイトやってたけど、ルネッサンスホテルに引き抜かれて、松田聖子ディナーショーのホテル側の責任者にまで出世したでしょ。あれ、書いとくといいよ。アパレル業界の人喜ぶ」
コータローはタバコを吸いながら、書類を書いていた。
ああ、この子、本当に少年から大人の男になったんだ。
銘柄はキャメルだった。
コータローは挨拶回りで帰って行き、私は溶けたバニラアイスを口に含んだ。
本当はアパレル業界が今後、日の出の勢いになるのは難しい。アパレル業界より外資系の企業とか進めるのが本当は正しいのかも知れない。
しかし、本当にやりたいことをがまんすれば何かの悔いが残るだろう。若いんだから、中に入って限界を悟ったら、また再出発すればいい。奔れ!コータロー!
私は冷めた珈琲を口にした。ほろ苦だけど、美味しかった。心の中のBGMは「瞳はダイアモンド」