日本人と文学③
いろんな人間がいる。いい人間もいる。悪い人間もいる。いい人間でも好きになれない時もある。悪い人間でも好きになってしまうこともある。それでよいのだと思う。そして人間がいろいろいる以上、文学者もいろいろいると思う。
ただ好みは刻々と変わる。
震災が起こって、格下げされたというと誤解を招くが例えば古典美を追求した与謝蕪村などはしばらく二軍行きの気もする。
逆に今、凄みを持って迫ってくる文学者もいる。
戦前の文豪・前川佐美雄の弟子で塚本邦雄とライヴァル関係にあった巨匠山中智恵子、彼女の神話的スケールの大作が気になる。
生きて負ふ哀しみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ
桜花、陽に泡だつを目守りゐるこの冥き遊星に人と生まれて
我ら鬱憂の時代に生きて恋せしと碑銘に書かむ世紀更けたり
鳥髪とはスサノオという神が日本を作るため降り立った土地である。(一応、島根県にありますが、山中智恵子は神話世界を歌っているんだと思う(-.-;))
そこに雪が降り続き、人間が生きる間背負う哀しみを感じる。
今までこの歌は第二次大戦の敗北を歌ったものと思っていたけれど、もっと深い日本人の心や歴史を歌っていたのかもしれない。
二首めもそうです。桜花という明るく美しいものを歌いながら地球を冥き遊星と歌う。その時、悲しい現実は美しい神話に高められているようだ。
また三首めの歌は晩年の作品と思うが、いろいろな歴史的事件を見つめた作者の凄みが感じられる。そしてそれでも生ききって、恋もしたのだという少し誇らしい感じすら漂っている。
私はしたたかに生き抜いて、自分の命を見つめなおすことが出来るだろうか?
震災が起こって十日。希望を感じるニュースと、悲観的なニュースが入り混じっている。私はなるべく希望を信じて復興に協力していく。そして日本人が受け継いできた文芸を未来にリレーする。そんな覚悟で毎日生きている。