「信さん」(;_;)
(映画の話ですが)
「告白」があった。「悪人」があった。「キャタピラー」があった。
どれも人間の悪の面、病んだ部分、陰を見つめた力作だった。
これが2010年の日本かと思った。
しかし、今日、ふらっと入った劇場で私の年間ベストワン作品を見つけた。号泣した。ワンワン泣いた。(;_;)
平山秀幸監督の「信さん」である。
ほとんど宣伝もされていない作品だったが、監督とキャストにひかれて観た。
それが大傑作だった。
下旬に年間ベストテンを選定するけど、多分、これが1位で内定。
作品が始まり、15分ぐらいでノックアウトされた。
私は山崎貴の「ALWAYS」には大いに疑問を持っている。
昔の日本の貧しさは暴力や哀しみもつきまとっていたのではないか?北野武もヴェネツィア映画祭に出品した作品でそういうことをほのめかしていたが、国内で正面きって異を唱えたのはこの作品だけだろう。
昭和38年、上品な婦人美智代(小雪)が子供を連れて炭鉱町にやってくる。東京の子はすぐいじめられそうになるが信さんという手のつけられない不良が子供、守を助けてくれる。
実は信さん自体、天涯孤独で家では鬼ババアの継母にめちゃくちゃ虐待されている。
信さんは守をかばい、美智代に抱きしめられ、人間のぬくもりを知り、泣きじゃくりながら恋に落ちる。
もうこの始まりだけで一年分ぐらい泣いた。小雪は大根役者だが、信さんに憧れられるだけでセリフも少ないので、このキャスティングは絶妙であった。
九州北部の炭鉱町で労働組合のことや在日の子がいじめられることが描かれ、守は逞しく成長していき、怒りを知り、正義を感じる。
信さんは学校の花壇の花や農作物を盗んで美智代に贈ったりぎこちない形でしか愛を示さない。
そして7年の時がたち、守(池松壮亮)は高校生になり、信さん(石田卓也)は妹(継母の娘)を進学させるため炭鉱で働いている。
そしてある時、信さんは長年の愛を美智代に打ち明け、結ばれるのだが・・・
この先、結末まで書いてしまうので、NGの人は引き返して下さい。
信さんの幸福はつかの間、鉱山が爆発してしまい、信さんは死んでしまう。
鉱山もなくなり、人々も去っていき、街もなくなる。
美智代と守も街を去っていくが、美智代の宝物は信さんが描いた下手くそな肖像画だけだった。
そして空と海はどこまでも青く、人間の喜怒哀楽をよそに永遠なのだった・・・
映画評論家としては信さんをいじめる継母役の大竹しのぶの演技は鬼気迫るものだったと特筆しておきたい。
彼女も非常に暴力的な愛しか持っていない。信さんが死んでしまっても何事もなかったかのように、ジャッジャッとお米を洗っている。
しかしちゃぶ台には信さんのお膳がある。
この演出は反則だろう!!本当に声を上げて泣いてしまった。
貧しさの中で傷つけあいながらもぬくもりを求めて生きる人間の歓びと哀しみを描いて、ハッピーエンドでないのに、私は確かに希望を感じた。
逞しく生き残る人々の姿に。バラバラになりながらも未来を求めて生きていく人々の姿に。
この作品は平山秀幸監督から未来へのラブレターである。