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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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25/25

第25話:英雄は、その輝きを鏡に残して

 激突する光と闇。


 僕の内側から溢れ出す『すべての英雄の力』と、魔王の底なしの魔力が玉座の間で激しく拮抗する。


「見事だ、人間ッ! ならば、これはどうだ!」


 魔王が叫ぶと、王都を覆っていた禍々しい瘴気と、これまでの戦いで散っていった野心的な魔族たちの悪霊が、魔王の身体へと一気に収束していく。


 みるみるうちに魔王の輪郭が歪み、僕より2回り以上も巨大な、漆黒の怨念の鎧を纏った姿へと変貌した。


「これが、血に飢えた我が同胞たちの渇望! 受け止めてみせよ!」


 振り下ろされる、城の柱をも砕く巨大な闇の剛腕。

 だが、僕の『死霊術師』の眼には、分厚い怨念の鎧の奥底で、魔王自身の魂が悲痛に耐えているのがはっきりと見えていた。


「僕は、絶対にあなたを殺さないっ! その怨念を断ちますっ!」


 僕の脳内で『料理人』の思考が、最難関の段取りを弾き出す。


 かつて、ガランを浄化した『精霊十字斬』。

 すべての英雄の力を束ねた今の僕なら、あれ以上のことができる!


「風よ!」


 左手のジェミルから吹き上げる竜巻が、魔王の巨体を僅かに宙へと浮かす。


「土よ!」


 右手のジェミルを突き立て、巨大な岩の十字架を形成し、魔王を磔にする。


「氷よ、捕縛せよ!」


 傭兵女王から受け継いだ絶対零度の氷が、岩の十字架ごと魔王の四肢を完全に凍結させ、その動きを封じ込める。


「これで最後だ……光よ!」


 僕は、勇者ルクスから受け継いだ絶対の正義を貫く『光』を、双剣の刀身に極限まで圧縮した。


 対象を焼き尽くす炎じゃない。

 悪意だけを分子レベルで消滅させる、究極の浄化の刃。


「悪しき魂のみ滅せよっ! ――『真・精霊十字斬』っ!」


 僕が大地を蹴り、無防備な胸元に放った光の十字軌道が、漆黒の鎧だけを正確に両断した。


 その瞬間、王都全体を震わせるような絶叫が上がった。

 魔王の肉体に食い込んでいた悪霊たちが、光の刃によって強制的に引き剥がされ、浄化されていく。


 爆散する漆黒の破片。

 あまりの衝撃に、魔王は折れた木々のように吹き飛んだ。


 光の渦が収まった後。

 石畳に膝をつき、激しく肩で息をする魔王の姿があった。


 漆黒の外套は無残に裂け、剥き出しになった肌には悪霊が寄生していた赤黒い痕跡が痛々しく残っている。


 その口端からはどろりとした闇が零れ、王としての威厳を辛うじて保とうとする指先は、小刻みに震えていた。


 無理やり限界まで引き出した魔力の反動と、ミラルの浄化の一撃。

 それは魔王という『器』を壊さずに、漆黒の怨念から供給されていた魔力を空っぽにするほど苛烈なものだった。


 僕は震える足で一歩踏み出し、項垂れる魔王の首元に、静かに双剣を突きつけた。


「……はぁ、はぁ……見事だ、人間。……いや、ミラルよ」

 魔王は力なく微笑み、ゆっくりと顔を上げた。


 その瞳から禍々しい光は消え、かつて荒野で見せた、静かで深い知性が戻っていた。


「私を殺さずに、打ち倒すとはな……感謝する」

 魔王は満足そうに目を閉じると、僅かに残っていた闘気までも完全に霧散させた。


「私は、生涯『魔王の盾』を使わないことを、ミラルに誓おう。……君の瞳が映し出した答えを、信じてみようではないか」


 彼もまた、同胞たちの呪縛から解放される「終わりの時」を、心の底では求めていたのだ。


 背後から、セリアが駆け寄ってくる足音が聞こえる。


「ミラル! やったのね……!」


 セリアの声には安堵の色が混じっていた。

 けれど、本当の戦いはここからなんだ。


 広大な魔王領すべてを恒久的に封印する。

 それは、人間の限界を遥かに超えた神の領域の業だ。


 僕は右の剣を鞘に収め、空いた手で迷うことなく懐から一つの小瓶を取り出した。


 竜殺しの英雄キラドが、己の人生のすべてを賭けて作り上げた『竜のポーション』。


「待って、ミラル! それ、キラドさんから貰った……! ダメよ、それを飲んだらアンタの寿命が……っ!」


 劇薬の正体を知るセリアが悲痛な声を上げ、僕の手を止めようと手を伸ばす。

 僕は彼女に背を向けたまま、どろりとしたその液体を一気に飲み干した。


 ドクンッ!!


(これが……命を燃やす痛み……! 意識を、保て……!)


 心臓が破裂するかのような激痛が走り、全身の血管が内側から焼け焦げる感覚に襲われる。


 寿命が、生命力が、暴力的なまでの魔力へと強制変換され、僕の身体から白熱のオーラが黄金となって爆発的に溢れ出した。


 燃えるような熱に焼かれながら、僕の視界の端で、一房の髪がハラリと落ちた。

 それは、生命を削り落とした証である、透き通るような純白。


「ミラル……髪が……っ! 嘘でしょ、そんなの……嫌よ!」


 セリアの悲鳴のような声が響く。

 彼女は僕に駆け寄ろうとした。


 僕は白濁し始めた視界の中で、心の中で精霊達に願いを伝えた。


(精霊たち……今まで一緒に戦ってくれたのにごめん……最後のお願いだ。僕の大切な相棒を、魔族領の外へ連れて行って。……それから、この魔王の盾を維持するために力を貸してほしい)


 僕は、左手のジェミルを振るった。

 斬るためではなく、守るために。


 風の精霊が僕の意を汲み、優しい、けれど抗いようのない突風となってセリアの身体を包み込んだ。


「えっ……きゃっ!?」


 彼女の身体が、抗えない突風に乗せられ、人間領側へと大きく吹き飛ばされていく。


「ミラル!! 待って、降ろしてよ! 最後まで見届けてって……約束したじゃないっ!」


 空中で必死に手を伸ばし、遠ざかる僕に向かって彼女が叫ぶ。

「私だけ置いていくなんて……ミラルの、嘘つきぃっ――!」


 その悲痛で、愛おしい響きに。

 僕は、白くなった髪を振り乱しながら、彼女へ向けて最後に一度だけ笑った。


 そして、二振りの愛剣――双剣ジェミルを手に取り、大地へと深く突き刺した。

「――魔王の盾、最大展開!!」


 黄金の光が王都を中心に爆発的に広がり、魔王領の境界線に沿って天を突く巨大な結界が形成されていく。


 結界の外側にいるセリアが、黄金の壁を叩き、叫んでいるのが聞こえた気がした。


「セリア……さようなら」


 大地に刺さったジェミルの刀身から、四大精霊の力が永続的な供給源となって結界へと注ぎ込まれ続ける。光の壁は完成した。



 生命をすべて使い果たした僕は、そのまま意識を失うように冷たい床へと倒れ込んだ。


   ◇ ◇ ◇


 魔王領を覆い尽くした黄金の結界は、世界に確かな平穏をもたらした。


 長期間続いていた魔族と人間の戦争が終わったのだ。澄み切った青空の下で、人々は失われた日常を少しずつ取り戻し始めている。


 恐怖に怯える夜は終わり、街には活気ある喧騒と、子供たちの笑い声が響くようになった。


 その平和の象徴である黄金の壁を遠くに見据える、鬱蒼とした森の奥深く。


 かつて惨劇によって灰色に塗り潰され、ミラルが己の絶望を斬り裂いた『廃村』に、彼女の姿はあった。


 無残に朽ち果てていた家屋や焼け焦げた柱の隙間からは、新しい緑が芽吹き始めている。


 広場の中央に並ぶ無数の墓石の前に立ち、セリアはぽつりと呟いた。


「……バカ、ミラル」


 あの日、結界の外側へと弾き出された彼女は、泣き叫びながらも、最後にミラルが見せた穏やかな笑顔を脳裏に焼き付けていた。


 命を燃やし尽くし、純白の髪となった彼の姿を。


「……アンタが、ここで終わるようなヤツじゃないってこと、私が一番よく知ってるんだから」


 世界中が、彼を『命と引き換えに結界を張った尊い犠牲』として悼んでいるかもしれない。


 けれど、セリアだけは信じていた。

 あの不器用で、誰よりも優しい『英雄』が、必ず自分の元へ帰ってくることを。


「……待ってるからね。ずっと、ここで」


 黄金に輝く地平線に向かって、彼女は静かに祈りを捧げた。


   ◇ ◇ ◇


――魔王領が封印されてから数週間後。


 人間界の中枢、傭兵女王の謁見の間に、一人の少年が現れた。


 真っ白に染まった髪と、どこか超越したような穏やかな眼差し。

 その腰には、もはや美しい双剣もなかった。


 彼は静かに膝をつき、玉座の主へと頭を下げた。


「報告に……来ました。魔王に奪われた人間領は取り戻せません。しかし、完全に封印しました。これ以上奪われる事はありません」


 女王は、目の前の少年の変わり果てた姿を見て言葉を失っていた。


「……土地を奪われた善良な方々には、申し訳ないと思っています。僕の力では、これが限界でした」


 ミラルが静かに立ち上がったその時、女王が問いかけた。


「……ミラル。一つ聞かせてくれ。この王都に留まる気はないのか。……お前は、これからどこへ行くつもりだ?」



 その問いに、少年は足を止めた。



 真っ白に染まった髪を揺らし、彼は窓の向こう――かつて二人で歩いた、懐かしい旅路の先へと視線を向ける。


 その口角が、あの日以来初めて、穏やかな曲線を描いた。


「大切な人の元へ。……待たせているので」


 女王は、少年の背中を見つめ、傍らの部下たちに言い放った。

「聞けっ! 皆の者。ミラルは、誰一人殺すことなく、この絶望的な戦争を終わらせたのだ」


 どよめきが広がる謁見の間で、女王はさらに高く声を上げた。


「見よ! あれこそが、英雄の『(かがみ)』である。全員、その目に、その魂に、あの姿を焼き付けておけっ!」


 少年は、自分が英雄と呼ばれていることを気にも留めない様子で、ただ真っ直ぐに、開かれた扉の向こう側へと消えていった。


 外れスキルと蔑まれた『英雄の鏡』は、この日を境に『英雄の鑑』として語り継がれることになる。



 そして人々は、畏敬を込めて彼をこう呼んだ。



 ――『白き英雄』と。



 その鏡が最後に映し出したのは、自分自身の内側にある、本物の輝きだった。


(完)

ここまでお読みいただきありがとうございます!

これにて本編、堂々の完結となります。

一つの区切りまでお付き合いいただいた皆様、ページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして完結を祝っていただけると泣いて喜びます!

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