さみしがりやの影
ぼくの影は、ちょっと変わっている。
晴れた日に外へ出ると、
ぴったりくっついてくるくせに、
夕方になると、やけに長く伸びてため息をつく。
ある日、ぼくは聞いてみた。
「どうしてそんな顔してるの?」
すると足元から、小さな声がした。
「……だって、ぼくはいつも“ついで”なんだ」
影は、さみしがりやだった。
「みんな君ばかり見るだろ?
ぼくは踏まれるし、またがれるし、気づいてももらえない」
たしかにそうだ。
ぼくは影のことなんて、ほとんど考えたことがなかった。
「でもさ、ぼくがいなかったらどうする?」
影は少し怒ったように言う。
「いないって、どういうこと?」
次の日は、めずらしく曇り空だった。
太陽が出ないから、影は現れない。
足元を見ても、そこには何もいない。
なんだか落ち着かない。
走っても、
ジャンプしても、
いつもの“もう一人のぼく”がいない。
「……さみしいな」
思わず、つぶやいた。
その瞬間、雲の切れ間から光が差し込んだ。
すっと、足元に黒い形が戻ってくる。
「……帰ってきた」
影は、少し照れくさそうに揺れた。
「いないと困るだろ?」
「うん。困るよ」
影は、ぼくの動きに合わせてぴたりと動く。
ぼくが右手を上げれば、影も右手を上げる。
ぼくが転びそうになれば、影も一緒に転ぶ。
「ぼくはね、君がいるから存在できるんだ」
影は静かに言った。
「光があって、君がいて、やっとぼくになれる。
だから本当は……君と離れたくない」
夕方になり、影はまた長く伸びた。
でも今日は、ため息じゃなかった。
ぼくはそっと足を止めた。
「いつも一緒にいてくれて、ありがとう」
影は何も言わなかったけれど、
少しだけ、形がやわらかくなった気がした。
それからというもの、
ぼくはときどき足元を見るようになった。
影は今日も、ぴったりとついてくる。
目立たないけれど、
いなくなって初めてわかる存在。
さみしがりやの影は、
本当は、だれよりもそばで見守ってくれているのだ。




