「笑わなくなった太陽」
ある日、空の上で大変なことが起きました。
太陽が、笑わなくなったのです。
いつもはにこにこ顔で、ぽかぽか光を届けてくれる太陽。
でもその日は、ぼんやりと曇った顔をしていました。
地上ではすぐに異変が起きました。
ひまわりは首をかしげ、
洗濯物はなんだか元気がなく、
子どもたちの影も、どこかさびしそう。
雲が心配してたずねました。
「どうしたの?いつもの君らしくないよ」
太陽は小さく答えました。
「……がんばってるのに、気づいてもらえてない気がするんだ」
毎日同じ時間に昇り、
同じように光り、
暑すぎると言われれば控えめにし、
雨が必要なら雲に場所をゆずる。
それなのに。
「暑い」「まぶしい」
そんな声ばかり聞こえてくる気がしたのです。
月が夜空からそっと言いました。
「それでも、君がいないと困る人はたくさんいるよ」
太陽は首を横に振ります。
「本当にそうかな」
そのころ、地上の小さな町で。
一人の女の子、ひなたが窓の外を見ていました。
「最近、なんだか寒いね」
おばあちゃんが編み物をしながら答えます。
「お日さま、元気ないみたいだねぇ」
ひなたは少し考えてから、画用紙を持ってきました。
クレヨンで大きな丸を描き、
にっこり笑顔を描き足します。
「いつもありがとう」
たどたどしい字で、そう書きました。
それを窓辺にぺたり。
「届くといいな」
その瞬間——
空の上で、太陽がふっと目を見開きました。
小さな、小さな声。
「ありがとう」
確かに聞こえた気がしたのです。
地上をよく見ると、
窓辺に揺れる一枚の絵。
上手とは言えない、
でも一生けんめいな笑顔の太陽。
太陽の胸が、じんわり温かくなりました。
「……そっか」
気づいていないように見えても、
ちゃんと見てくれている人はいる。
ゆっくり、ほんの少しだけ。
太陽の口元が上がりました。
その日、町は久しぶりにぽかぽかとした光に包まれました。
ひなたは窓を開けて、にっこり笑います。
「笑った!」
空の上で、太陽も小さく笑いました。
毎日がんばることは、
すぐには気づいてもらえないかもしれない。
でも、どこかでちゃんと届いている。
それを思い出した日、
太陽はまた、やさしく笑えるようになりました。
そして今日も、
誰かの窓辺を、そっとあたためています。




