うそがつけないオオカミ
森のはずれに、オオカミが住んでいました。
名前はグレイ。
見た目は、立派なオオカミです。
鋭い目。
大きなキバ。
低くてこわい声。
けれど――
ひとつだけ、大きな問題がありました。
グレイは、うそがつけないのです。
ある日、子ヤギたちの家の前に立ちました。
本当は、ちょっとだけ驚かせてみたかったのです。
「ガルルル……おまえたちを食べに来たぞ!」
ドアの向こうで、子ヤギたちが震えます。
「ひぃぃ!」
グレイは続けました。
「でも本当は、昨日焼いたクッキーが焦げて落ち込んでいるだけなんだ!」
……。
ドアの向こうが静かになりました。
「え?」
子ヤギがそっと聞きます。
「焦げたの?」
「うん。黒こげだった」
「どれくらい?」
「石みたいだった」
沈黙。
そして――
くすっ。
小さな笑い声がもれました。
ドアが少し開きます。
「入る?」
グレイは正直に答えました。
「うん、ちょっと入れてほしい」
森では、オオカミはこわい存在のはずでした。
でもグレイは、
「今ちょっと強がってます」
「本当はさみしいです」
「そのスープ、すごくいい匂いです」
全部、口に出してしまいます。
だって、うそがつけないのです。
ある日、森の会議が開かれました。
「最近、オオカミが怖くない!」
キツネが言いました。
「威厳が足りない!」
シカも言いました。
グレイは立ち上がります。
「ぼくも、威厳がほしいです」
森のみんなが、ずっこけました。
「せめて、こわい声くらい出せないのか?」
クマが聞きました。
グレイは胸を張りました。
「ガオーーー!」
森が静まり返ります。
なかなか迫力があります。
みんな少しだけ震えました。
グレイは続けます。
「今のちょっと自分でもかっこいいと思いました!」
……。
森のみんなは顔を見合わせました。
そして。
ぶはっ。
大笑い。
その日から、森で困ったことがあると
みんなグレイのところへ行くようになりました。
「本当のことを教えて」
グレイは言います。
「それは、ちょっと言いにくいけど……」
でも、ちゃんと伝えます。
優しく、まっすぐに。
オオカミは、こわい生き物のはずでした。
でも森でいちばん信用されているのは、
うそがつけないオオカミでした。
今日もグレイは、胸を張って言います。
「ぼく、今ちょっと誇らしいです!」
森のどこかで、
またくすっと笑い声が広がりました。




