ぼくにだけ見える空⑤
「ぼくの空」
竜巻は、次の日も消えなかった。
学校でも、家でも、
スカイの頭の上で黒い雲が渦を巻いている。
誰にも見えない。
でも、確かにある。
友達の空は相変わらず変わり続ける。
曇り。
小雨。
遠い雷。
でも、今日は声をかけなかった。
かけられなかった。
胸の奥で、風が暴れている。
家に帰ると、母が夕飯を作っていた。
頭の上には、相変わらず重たい雲。
スカイは立ち止まる。
今までなら、
「無理してるでしょ」と言っていた。
でも今日は違う。
「……お母さん。」
包丁の音が止まる。
「なに?」
スカイは、深く息を吸う。
竜巻がごう、と鳴る。
怖い。
でも、目をそらさない。
「ぼくさ。」
言葉が震える。
「人の空が見えるんだ。」
母は少し笑う。
「また変なこと言って。」
「ほんとなんだ。」
強く言う。
声と一緒に、竜巻が大きくうねる。
「みんなの空、晴れとか曇りとか、見えるんだよ。」
沈黙。
母は包丁を置いた。
「……それで?」
その声は、やさしいけれど、まっすぐだった。
スカイは続ける。
「でも、ぼくの空は見てなかった。」
喉が熱くなる。
「ぼく、ずっと平気なふりしてた。」
風が荒れる。
「守らなきゃって思ってた。」
「分かってあげなきゃって思ってた。」
「でも、ほんとは……」
声が小さくなる。
「ほんとは、ぼくも苦しかった。」
その瞬間。
竜巻の中心に、小さなひびが入る。
母は静かにスカイの前に立つ。
そして、頭を撫でた。
「スカイ。」
ゆっくりと言う。
「お母さんはね、空は見えないよ。」
「でもね。」
まっすぐ目を見る。
「あなたの顔は見えてる。」
竜巻の風が、少し弱まる。
「最近、ずっと無理してたでしょう。」
スカイの目に、涙がにじむ。
「……うん。」
「守るってね、ひとりで抱えることじゃないよ。」
母は微笑む。
「自分の空を大事にできる人が、
ほんとうにやさしい人なんだよ。」
その言葉が、風の中に落ちる。
竜巻はまだある。
でも、勢いが落ちる。
黒い雲のすき間から、細い光がさす。
スカイは、初めて自分の空に向かって言った。
「ぼく、がんばりすぎてた。」
風が、静かになる。
完全な晴れじゃない。
でも、竜巻はただの強い風に変わっていく。
母の頭の上の雲も、
ほんの少しだけ薄くなっていた。
スカイは思う。
自分を大事にすることは、
わがままじゃない。
自分の空を好きになることは、
逃げじゃない。
ぼくの空は、ぼくのものだ。
晴れの日も、
曇りの日も、
嵐の日も。
全部、ぼくの空。
――おわり――




