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小さな奇跡の童話箱  作者: ムーンキャット


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30/33

ぼくにだけ見える空⑤

「ぼくの空」

竜巻は、次の日も消えなかった。

学校でも、家でも、

スカイの頭の上で黒い雲が渦を巻いている。

誰にも見えない。

でも、確かにある。

友達の空は相変わらず変わり続ける。

曇り。

小雨。

遠い雷。

でも、今日は声をかけなかった。

かけられなかった。

胸の奥で、風が暴れている。

家に帰ると、母が夕飯を作っていた。

頭の上には、相変わらず重たい雲。

スカイは立ち止まる。

今までなら、

「無理してるでしょ」と言っていた。

でも今日は違う。

「……お母さん。」

包丁の音が止まる。

「なに?」

スカイは、深く息を吸う。

竜巻がごう、と鳴る。

怖い。

でも、目をそらさない。

「ぼくさ。」

言葉が震える。

「人の空が見えるんだ。」

母は少し笑う。

「また変なこと言って。」

「ほんとなんだ。」

強く言う。

声と一緒に、竜巻が大きくうねる。

「みんなの空、晴れとか曇りとか、見えるんだよ。」

沈黙。

母は包丁を置いた。

「……それで?」

その声は、やさしいけれど、まっすぐだった。

スカイは続ける。

「でも、ぼくの空は見てなかった。」

喉が熱くなる。

「ぼく、ずっと平気なふりしてた。」

風が荒れる。

「守らなきゃって思ってた。」

「分かってあげなきゃって思ってた。」

「でも、ほんとは……」

声が小さくなる。

「ほんとは、ぼくも苦しかった。」

その瞬間。

竜巻の中心に、小さなひびが入る。

母は静かにスカイの前に立つ。

そして、頭を撫でた。

「スカイ。」

ゆっくりと言う。

「お母さんはね、空は見えないよ。」

「でもね。」

まっすぐ目を見る。

「あなたの顔は見えてる。」

竜巻の風が、少し弱まる。

「最近、ずっと無理してたでしょう。」

スカイの目に、涙がにじむ。

「……うん。」

「守るってね、ひとりで抱えることじゃないよ。」

母は微笑む。

「自分の空を大事にできる人が、

ほんとうにやさしい人なんだよ。」

その言葉が、風の中に落ちる。

竜巻はまだある。

でも、勢いが落ちる。

黒い雲のすき間から、細い光がさす。

スカイは、初めて自分の空に向かって言った。

「ぼく、がんばりすぎてた。」

風が、静かになる。

完全な晴れじゃない。

でも、竜巻はただの強い風に変わっていく。

母の頭の上の雲も、

ほんの少しだけ薄くなっていた。

スカイは思う。

自分を大事にすることは、

わがままじゃない。

自分の空を好きになることは、

逃げじゃない。

ぼくの空は、ぼくのものだ。

晴れの日も、

曇りの日も、

嵐の日も。

全部、ぼくの空。

――おわり――

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