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小さな奇跡の童話箱  作者: ムーンキャット


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28/33

ぼくにだけ見える空③

「言えなかったこと」

数日後の放課後。

スカイは家に帰る途中、校門の前で立ち止まった。

見覚えのある後ろ姿。

ミオだった。

友達の前で、明るく笑っている。

でも、頭の上には薄い雲が広がっていた。

雨は降っていない。

けれど、晴れてもいない。

そのとき、友達のひとりが言った。

「この前さ、先生に怒られてたよね。」

ミオは笑った。

「あー、あれ? べつに平気だし。」

軽い声。

でも空の奥が、ぎゅっと暗くなる。

「てかさ、泣きそうだったじゃん。」

「泣いてないって。」

笑っている。

でも、雲が重く沈む。

スカイの胸がざわついた。

(あの夜の雨だ。)

ミオは続ける。

「家では言わないよ。スカイ、すぐ変なこと言うし。」

友達が笑う。

「変なことって?」

「なんかさ、“雨降ってるよ”とか言うの。」

また笑い声。

ミオは少しだけ視線を落とした。

「……あいつ、分かってる顔するから。」

その瞬間。

ミオの空に、細い雨が降った。

ほんの一瞬。

誰にも見えないくらいの、小さな雨。

スカイの足が止まる。

分かってる顔。

守れるつもり。

でも、本当は。

ミオは、助けてほしくなかったんじゃない。

「分かったつもり」になられたくなかったんだ。

家に帰ると、ミオは自分の部屋にいた。

ドアは少しだけ開いている。

スカイは立ち止まる。

迷う。

それから、小さくノックした。

「なに。」

ぶっきらぼうな声。

スカイは、ゆっくり言う。

「この前さ。」

間が空く。

「……オレ、分かったつもりだった。」

沈黙。

「でも、ほんとは分かってなかった。」

ドアの向こうで、空気が動く。

「オレには空が見えるけどさ。」

初めて、自分から言った。

「気持ちまでは見えないんだよな。」

しばらくして、ドアが少し開く。

ミオの目は、少しだけ赤い。

頭の上には、薄い雲。

でも、さっきより軽い。

「……別に、助けてほしかったわけじゃない。」

小さな声。

「たださ、ちゃんと聞いてほしかっただけ。」

スカイはうなずく。

「うん。」

それ以上言わない。

雲のすき間から、細い光がさす。

派手な晴れじゃない。

でも、やわらかい光。

スカイは気づく。

守るって、

全部背負うことじゃない。

隣にいることかもしれない。

その夜。

鏡の前に立つ。

自分の頭の上を見る。

風は、まだ吹いている。

でも前より、少しだけ穏やかだった。

――つづく――

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