ぼくにだけ見える空③
「言えなかったこと」
数日後の放課後。
スカイは家に帰る途中、校門の前で立ち止まった。
見覚えのある後ろ姿。
ミオだった。
友達の前で、明るく笑っている。
でも、頭の上には薄い雲が広がっていた。
雨は降っていない。
けれど、晴れてもいない。
そのとき、友達のひとりが言った。
「この前さ、先生に怒られてたよね。」
ミオは笑った。
「あー、あれ? べつに平気だし。」
軽い声。
でも空の奥が、ぎゅっと暗くなる。
「てかさ、泣きそうだったじゃん。」
「泣いてないって。」
笑っている。
でも、雲が重く沈む。
スカイの胸がざわついた。
(あの夜の雨だ。)
ミオは続ける。
「家では言わないよ。スカイ、すぐ変なこと言うし。」
友達が笑う。
「変なことって?」
「なんかさ、“雨降ってるよ”とか言うの。」
また笑い声。
ミオは少しだけ視線を落とした。
「……あいつ、分かってる顔するから。」
その瞬間。
ミオの空に、細い雨が降った。
ほんの一瞬。
誰にも見えないくらいの、小さな雨。
スカイの足が止まる。
分かってる顔。
守れるつもり。
でも、本当は。
ミオは、助けてほしくなかったんじゃない。
「分かったつもり」になられたくなかったんだ。
家に帰ると、ミオは自分の部屋にいた。
ドアは少しだけ開いている。
スカイは立ち止まる。
迷う。
それから、小さくノックした。
「なに。」
ぶっきらぼうな声。
スカイは、ゆっくり言う。
「この前さ。」
間が空く。
「……オレ、分かったつもりだった。」
沈黙。
「でも、ほんとは分かってなかった。」
ドアの向こうで、空気が動く。
「オレには空が見えるけどさ。」
初めて、自分から言った。
「気持ちまでは見えないんだよな。」
しばらくして、ドアが少し開く。
ミオの目は、少しだけ赤い。
頭の上には、薄い雲。
でも、さっきより軽い。
「……別に、助けてほしかったわけじゃない。」
小さな声。
「たださ、ちゃんと聞いてほしかっただけ。」
スカイはうなずく。
「うん。」
それ以上言わない。
雲のすき間から、細い光がさす。
派手な晴れじゃない。
でも、やわらかい光。
スカイは気づく。
守るって、
全部背負うことじゃない。
隣にいることかもしれない。
その夜。
鏡の前に立つ。
自分の頭の上を見る。
風は、まだ吹いている。
でも前より、少しだけ穏やかだった。
――つづく――




