「とべないツバメ」
春になると、森の上をたくさんのツバメたちが飛び回ります。
ピューン、と風を切り、
くるりと空中で回り、
まるで空と遊んでいるみたい。
でも、その中に一羽だけ、うまく飛べないツバメがいました。
名前はチル。
チルは、みんなより羽が小さく、
高く、速く、長く飛ぶことができませんでした。
「また落ちたのか?」
仲間のツバメが笑います。
「ぼく、向いてないのかな……」
チルは巣のはしで、小さくつぶやきました。
それでも。
次の日も。
その次の日も。
チルは、何度も何度も羽ばたきました。
朝早く起きて、誰も見ていない時間に練習します。
風の弱い日を選び、少しずつ距離を伸ばします。
高くは飛べないけれど、
まっすぐ飛ぶ練習を。
速くは飛べないけれど、
長く飛ぶ練習を。
失敗して、地面に転がっても。
「まだ、できる」
小さな胸で、そう決めました。
ある日、突然大きな嵐がやってきました。
ビュオオオオオ!!
強い風で、森は大混乱。
一番小さなツバメのヒナが、巣から落ちそうになっています。
「だれか!助けて!」
でも強風の中、上手に飛べるツバメたちでも近づけません。
そのとき。
低く、地面すれすれを飛ぶ一羽の影。
チルでした。
高くは飛べない。
でも、低く安定して飛ぶことなら、誰よりも練習してきた。
風の流れを読み、
何度も何度も繰り返した羽ばたきで、
ヒナの下へ潜り込みます。
「つかまって!」
ヒナを背中に乗せ、
ぐらぐら揺れながらも、
まっすぐ、まっすぐ巣へ。
バサッ!!
無事に戻ったとき、森は静まり返りました。
嵐が去ったあと、
仲間のツバメが言いました。
「お前の飛び方、すごいな」
チルは少し照れました。
「ぼくは、みんなみたいに高くは飛べないよ」
すると、年老いたツバメが静かに言いました。
「高く飛ぶことだけが、すごいわけじゃない。
続けた者にしかできない飛び方がある」
チルの胸が、じんわり熱くなりました。
あきらめずに羽ばたいた日々。
誰も見ていない朝の練習。
くやしさでにじんだ涙。
それは、ちゃんと力になっていたのです。
その日から、チルはもううつむきませんでした。
空にはいろんな飛び方がある。
努力は、すぐには花咲かないかもしれない。
でも、根を張り、少しずつ力をたくわえていく。
そしていつか——
その人(その鳥)にしかできない形で、ちゃんと報われる。
春の空を、チルは今日もまっすぐ飛んでいます。




