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小さな奇跡の童話箱  作者: ムーンキャット


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10/33

「とべないツバメ」

春になると、森の上をたくさんのツバメたちが飛び回ります。

ピューン、と風を切り、

くるりと空中で回り、

まるで空と遊んでいるみたい。

でも、その中に一羽だけ、うまく飛べないツバメがいました。

名前はチル。

チルは、みんなより羽が小さく、

高く、速く、長く飛ぶことができませんでした。

「また落ちたのか?」

仲間のツバメが笑います。

「ぼく、向いてないのかな……」

チルは巣のはしで、小さくつぶやきました。

それでも。

次の日も。

その次の日も。

チルは、何度も何度も羽ばたきました。

朝早く起きて、誰も見ていない時間に練習します。

風の弱い日を選び、少しずつ距離を伸ばします。

高くは飛べないけれど、

まっすぐ飛ぶ練習を。

速くは飛べないけれど、

長く飛ぶ練習を。

失敗して、地面に転がっても。

「まだ、できる」

小さな胸で、そう決めました。

ある日、突然大きな嵐がやってきました。

ビュオオオオオ!!

強い風で、森は大混乱。

一番小さなツバメのヒナが、巣から落ちそうになっています。

「だれか!助けて!」

でも強風の中、上手に飛べるツバメたちでも近づけません。

そのとき。

低く、地面すれすれを飛ぶ一羽の影。

チルでした。

高くは飛べない。

でも、低く安定して飛ぶことなら、誰よりも練習してきた。

風の流れを読み、

何度も何度も繰り返した羽ばたきで、

ヒナの下へ潜り込みます。

「つかまって!」

ヒナを背中に乗せ、

ぐらぐら揺れながらも、

まっすぐ、まっすぐ巣へ。

バサッ!!

無事に戻ったとき、森は静まり返りました。

嵐が去ったあと、

仲間のツバメが言いました。

「お前の飛び方、すごいな」

チルは少し照れました。

「ぼくは、みんなみたいに高くは飛べないよ」

すると、年老いたツバメが静かに言いました。

「高く飛ぶことだけが、すごいわけじゃない。

続けた者にしかできない飛び方がある」

チルの胸が、じんわり熱くなりました。

あきらめずに羽ばたいた日々。

誰も見ていない朝の練習。

くやしさでにじんだ涙。

それは、ちゃんと力になっていたのです。

その日から、チルはもううつむきませんでした。

空にはいろんな飛び方がある。

努力は、すぐには花咲かないかもしれない。

でも、根を張り、少しずつ力をたくわえていく。

そしていつか——

その人(その鳥)にしかできない形で、ちゃんと報われる。

春の空を、チルは今日もまっすぐ飛んでいます。

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