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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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王女アリシアの政治的敗北 正しさは、常に勝てるわけではない

決定は、驚くほどあっさりと下された。


王城中央議場。

白い石で造られた半円形の会議室。高い天井には王家の紋章が刻まれ、中央には玉座。その前に、円弧状に並ぶ議席。


貴族、軍部、行政官。

全員が手元の資料に目を落としている。


紙をめくる音だけが響く。


顔を上げる者は、ほとんどいない。


(もう結論は出ている)


議論ではない。確認だ。

そういう空気だった。


玉座に座る王女アリシアの表情は変わらない。

だが、肘掛けに置いた指先が、わずかに強張っている。


---


「――以上を踏まえ」


静かな声が、会議室に広がる。


発言者はヴァレリア・グラント。

灰色の軍服に身を包んだ、国防強化派連盟の代表。


「試験的施策は、一定の成果を認めつつも」


「国家運営における優先順位と整合しない」


丁寧な言い回し。

だが、刃のように鋭い。


「よって、全面停止ではなく」


書類を持ち上げる。


「規模の縮小と、対象の再選定を提案する」


配布された資料には、具体的な項目が並んでいる。


・医療窓口の限定化

・雇用区画の新規受け入れ停止

・既存対象者の段階的整理


(撤退だ)


全面否定ではない。

だが、確実に後退している。


アリシアは、黙って聞いている。


「王女殿下」


ヴァレリアが視線を向ける。


「この案は、殿下の施策を全否定するものではありません」


わずかな間。


「ただ、持続不可能な理想を切り離す、現実的判断です」


“理想”。


その言葉が、空気をわずかに震わせる。


---


反論は、確かにあった。


行政官の一部、市民代表。

医療利用率の改善、犯罪抑止の成果、労働安定の数字。


だが。


弱い。


軍事予算の逼迫。

補給線の緊張。

魔導資源の不足。


「戦線補給が逼迫している」

「魔導資源の再配分が必要だ」

「配慮は理解するが今ではない」


その一言が、決定打になった。


“今ではない”。


未来に回された正しさは、ほとんどの場合、削られていく。


---


「殿下」


議長が、アリシアを見る。


「ご判断を」


静寂。


すべての視線が、玉座に集まる。


(ここね)


アリシアは、ゆっくりと立ち上がった。

背筋は真っ直ぐ。視線は揺れない。


「――承認します」


短い一言。


それで、会議は終わった。


拍手も歓声もない。

ただ、椅子を引く音だけが響く。


形式上は合意。

実質は敗北。


---


会議後。


王城の奥にある長い回廊。

夜の光が窓から差し込み、床に細い影を落としている。


アリシアは一人で歩いていた。

足音が、やけに大きく響く。


(負けた)


完全ではない。

だが、押し返せなかった。


背後から足音。


「殿下」


エリスだった。


「結果は知っている」


振り返らずに言う。


「はい」


短い返答。


「あなたのせいではない」


エリスが即座に言う。


「分かっています」


アリシアは立ち止まる。


「彼が前に出なかった。だからこそ、この敗北は政治の敗北です」


象徴の敗北ではない。


それだけは守られた。


「それでも」


エリスは、慎重に続ける。


「彼は、“失う側”に回りました」


アリシアは、静かに息を吐く。


「ええ」


「だからこそ」


彼女は低く言う。


「私は、彼の選択を裏切れない」


---


その夜。


正式通達が、王都全域に流れた。


《試験的施策の一部終了について》

《対象者の再選定を行い、段階的に整理する》


穏やかな文面。

だが意味は重い。


倉庫街ではざわめきが広がる。


「俺たち、どうなるんだ?」

「すぐじゃないって」

「段階的って言ってた」


希望ではない。


延命だ。


---


俺は、その報を宿の部屋で聞いた。


机の上の通達。

やはり、名前はない。


(そうか)


胸の奥が静かに痛む。


(分かってた)

(これは実験だ)

(成功しても、潰される可能性はあった)


それでも。


(全部じゃない)


窓の外に広がる王都の灯り。

そのどこかで、今日も誰かが切り捨てられずに生きている。


扉がノックされる。


エリスだ。


「殿下は負けました」


「でも?」


「全ては失っていない」


俺は頷く。


「はい。“前例”は残りました」


一度でも実行された制度は、存在した事実になる。


「それだけで」


一拍置いて続ける。


「次は、もっとやりにくくなります」


エリスは静かに言う。


「だが、不可能ではなくなった」


その通りだ。


今回は縮小。

次は微修正。

その次は、また別の形。


正しさは、負けた。


だが、消えてはいない。


---


翌朝。


王城の書庫。


アリシアは、一枚の記録用紙に静かに書き込んでいた。


《試験施策・第一期終了》

《成果:限定的》

《課題:多》

《再検討:次世代王政期に持ち越し》


そして最後に、小さく付け加える。


《記録:“余剰を減らす試み”として価値あり》


それは、歴史書の片隅に残る一文だ。


誰も読まないかもしれない。

すぐには意味を持たないかもしれない。


だが――

歴史は、そういう一歩から、確実に動き出す。


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