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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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成功の代償 守られなかった声は、遅れて届く


異変は、数字だけでは見えなかった。


犯罪率、生活安定度、就労継続率、どれも王女アリシアの前に並べられた報告書には、全て「想定内」と書かれていた。数字上は順調に見え、問題はなさそうに思えた。

しかし、現場の空気はまるで違っていた。


---


最初にそれに気づいたのは、リリアだった。


「これ、おかしい」


魔法学院の研究室で、彼女は机に広げられた資料を見ながら眉をひそめていた。


「何がだ?」


俺は対面に座りながら、どうして呼ばれたのか理由を探っていた。


「実験区画の男性たち」


リリアは紙を一枚抜き出すと、指でその項目をなぞる。


「数は安定してる、犯罪も起きてない。就労状況も順調だ、でも」


「でも?」


俺が問い返すと、リリアは指で叩いた欄を示す。


「医療利用率が異常に低い」


「低い?」


リリアははっきりと言った。


「怪我しても病院に行かない、魔力疲労の自己申告もゼロ」


「それって、良いことじゃないのか?」


リリアは即答で首を振った。


「違う」

「これは、”我慢してる数字”だ」


胸の奥がゾクッとした。


(それは)


医療施設に行かず、問題を抱え込んでいる――

それが”正常”のサインになっているという事実に、何かが引っかかる。


---


その日の午後、俺は再び倉庫街へ向かった。

あの少年がいる区画。

その足取りは重かった。


(嫌な予感がする)


倉庫の裏手、人目に触れない場所に、しゃがみ込んでいる人影があった。


「おい」


声をかけると、顔がゆっくりと上がる。

あの少年だ。


顔色が明らかに悪い。


「あ」


弱々しい声で返事が返ってきた。


「どうした」


近づくとすぐ分かる。

右腕をかばうようにしている。


「荷物、落とした」


「病院は?」


首を振る少年。


「金、かかる」


「無料枠があるだろ」


「女が優先」


その言葉が胸に突き刺さる。


(制度の盲点だ)


守られなくなった男は、助けを求める場所も同時に失う。


「動くな」


俺はしゃがみ込むと、少年の腕を慎重に調べる。

打撲。

だが――魔力反応が明らかにおかしい。

内部がやられている。


「なあ」


少年がぽつりと呟く。


「俺さ」

「ここ、嫌いじゃない」


「・・・」


「でも」

「“守られない”って」

「こういうことなんだな」


その言葉に、返す言葉がなかった。


---


治療はリリアが引き受けた。

正式な医療ではない。

研究室での応急処置。


(グレーだな)


「文句は王女に言って」


リリアは険しい表情で言う。


「これは制度の設計ミス」

「あなたのせいじゃない」


「分かってます」


分かっている。

でも――見なかったことにはできない。


少年は、処置台の上で眠っている。


「なあ」


リリアが小さく言う。


「この制度、続ける?」


「続けます」


即答だった。


リリアは、驚いた顔をする。


「迷わないんだ」


「迷ってます」


正直に答える。


「でも」

「ここで止めたら」

「“出口”はまた塞がる」


「代わりに」

「修正します」


「どこを?」


一拍の沈黙が続き、俺は答える。


「“守られない男”が声を出せる場所」


リリアは目を細めて、少しだけ笑った。


「面倒ね」


「はい」

「すごく」


「でも」

「研究者としては嫌いじゃない」


---


その夜、王女アリシアとの三度目の対話が行われた。

今度は、王城の回廊にて。

書斎ですらない場所で、彼女と向き合う。


「報告は、受けた」


アリシアの声は低く、冷静だ。


「失敗ですか」


「いいえ」


首を振り、続ける。


「想定通りの問題発生です」


(さすがだな)


「あなたは」


アリシアは俺を見つめる。


「止めに来ましたか」


「いいえ」

「修正案を持ってきました」


「聞きましょう」


俺は、はっきり言う。


「男性専用の“低負荷医療窓口”を作ってください」


「費用は?」


「最小限で」


「場所は?」


「既存施設の空き時間利用」


アリシアは即座に言う。


「優遇だと反発が出る」


「出ます」


即答だった。


「でも」

「“守られない代わりに自己申告できる場所”がないのは」

「切り捨てです」


アリシアは、しばらく黙っていた。

やがて、ぽつりとつぶやく。


「あなたは」

「制度を“甘く”しようとしていない」

「“現実的”にしようとしている」


「はい」


「だから」


結論が下される。


「修正を許可します」

「ただし」

「公表は、しません」


「え?」


「“弱い男性のため”と言えば」

「制度全体が揺らぐ」

「だから」

「“労働者保護の試験施策”として処理します」


(政治だな)


「それで、構いません」


アリシアは、少しだけ疲れた顔で言った。


「あなたは」

「英雄にならずに」

「ずいぶん面倒な仕事を増やしますね」


「慣れてます」


そう答えると、彼女は小さく笑った。


---


翌日。

少年が目を覚ました。


「あ」


「生きてるな」


「ああ」


少し、気まずい沈黙が流れる。


「なあ」


少年が、少し躊躇いながら言う。


「俺」

「弱いままでいいのかな」


即答はできなかった。

だから、こう言った。


「分からない」

「でも」

「弱いままでも」

「選び直せる場所は」

「少しずつ、増やしてる」


少年は、ゆっくり頷いた。


「じゃあ」

「今は、それでいいや」


その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなった。


---


成功には、必ず代償がある。

だが、見える代償は修正できる。

見えない代償より、ずっといい。


この世界で、男は弱い。

その事実は変わらない。

でも――

弱さが、即“切り捨て”に繋がらない世界は作れる。

英雄にならなくても。

希望にならなくても。

ただ、面倒な存在として。

俺は、その場所に立ち続ける。


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