表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

ガーフィールド領






第2話


「ガーフィールド領」











草花の香りに混じって、魔物の持つ独特な匂いが漂う。魔の森に立ち入りを許可されてから、アリスはほぼ毎日家族に連れられて魔物討伐に明け暮れていた。今日は入口までは皆と一緒だったのだが、何かの気配を察知し、馬を飛び降りて駆け出した。ガーフィールド家の馬は、森も悪路も踏破出来るよう鍛えられているのだが、アリスの脚はそれを凌駕する。初発の瞬発力、それからある程度ならばアリスが勝る。飛矢の如く駆けるアリスの背中は、あっという間に見えなくなった。

「お嬢!一人で行ったら危ねえぞ・・・って、もういねぇ」

エドガーもアレックスも、アリスの俊敏さに苦笑する。

「ロイ、ハンクはアリスを追ってくれ。それ以外は騎乗したまま森を周るぞ」

『はっ!!』

エドガーの指示に皆が応え、名指しされた2人は一足早く馬を駆けさせる。

その頃アリスはというと、狼型の魔物『ウルフ』の群れと対峙していた。アリスが察知した気配の元に駆けつけると、最弱と名高い『スライム』がウルフに襲われている真最中だった。ぷるぷるな身体を震わせて、飛んだり跳ねたりでなんとか攻撃を避けている。だが多勢に無勢、スライム1匹に対してウルフは4匹もいる。即座に抜刀し割って入り、周りを睨みながらもエドガーの言葉を思い出していた。

「いいか?アリス。俺達は毎日のように魔物を狩るが、覚えておいてほしいことがあるんだ。魔物も俺達人間のように、個性がある。俺達を見ても襲ってこないこともあるんだ。そういった個体は討伐する必要はない。やり過ぎると魔物の生態系に影響して、森の外の村やら街にまで魔物が出てきかねん。深追いはせず、襲ってくる好戦的な魔物を狩る。それが魔の森でのルールだ」

言い聞かされた森でのルール。

『んー、こういった場合は判断に困るなぁ』

ウルフの群れはアリスを睨み、ジリジリと近づいてくるが間合いには入ってこない。スライムはアリスの足元に隠れ、それは見事にぷるぷる震えている。

『効くかどうか、試してみるか』

アリスは襲ってこないウルフを撃退する為、意識を集中する。

「ッ!?」

アリスは内に秘めた闘志や士気の類のものを、外に放ち相手の戦意を削ぐ。前世の頃から気がついたら自在に出来るようになっていた為、大いに活用している。アリスの中で『威圧』と呼んでいるこの技は、主に格下相手に威力を発揮する。

「くぅううううん」

威圧に当てられると、呼吸が早くなり、身体が重くなる。何よりも、いつでも殺れると言わんばかりの恐怖感に支配される。ウルフ達は耐えきれなくなり、慌てた様子で鬱蒼とした木々の中へ飛び込んでいく。無闇に命を奪うことなく、事なきをえた。

「ふぅ、なんとかなったかな。君」

「きゅー!」

アリスはしゃがんで、小さなスライムに語りかける。優しい声音と先程のことに、スライムはどうやら感謝しているらしい。人間でいうところの、身振り手振りでそれを伝えている。

「ありがとうって言ってるの?君一人みたいだけど、仲間のとこには帰れる?」

「きゅきゅ〜!」

雰囲気的に、どうやら大丈夫らしい。

「きゅっ」

お辞儀のような仕草をして、スライムもぴょんぴょん跳ねて森へと消えていった。

「はは、なんだか礼儀正しい子だったな。その内喋れる魔物に挨拶されたりして」

妙な経験に苦笑いしていると、馬脚の音が聞こえてきた。

「ちょっとちょっとお嬢、急に飛び出しちゃ危ないっしょ」

「ロイ、ハンク!」

「そうっすよ。お嬢が暴れたら生態系がめちゃくちゃになります」

「えへへ、ごめんごめんて」

アリスの身の危険よりも、森の生態系が危惧される。アリスは申し訳なさそうに苦笑しているが、それもそのはず。剣の腕前の確認とどれ程戦えるかを知りたかったアリスは、手当たり次第魔物を狩ったことがある。エドガーやアレックスが制止したのだが、その声が届く前に多種多様な魔物が死屍累々と積み上げられた。今の実力の確認の為、手加減一切無しのぶっちぎり全力を出した結果。エドガーでさえ顔を覆う程の量の魔物が討伐された。

魔物が減るのはいいことかと思われたのだが、どうやら国の許可なく狩りすぎるのはよろしくないらしい。害したり敵対しない限り、魔物といえど程々にというのが国の方針のようだ。だが悪い事ばかりではなく、アリスの大量討伐は森の魔物に畏怖の対象として認識された。余程のことがなければ、アレに近づくのはやめておこう。エドガーも魔物に恐れられているが、アリスとは程度が違う。えらく強いおっさんに連れられてきた女の子は、ネジの外れた化け物でした。それが森の魔物の総意となった。その為、アリスはエドガーに色々とお叱り等を言い含められ、深追い禁止を徹底することとなった。ちなみに、ロイとハンクの2人は大量討伐時に必死にアリスの後を追って止めようとした。

「きゃっほ〜い!魔物討伐パーティーだーい!」

「ダメダメお嬢止まって!隣国とか王様とかに迷惑かかるかもしんないから!」

「怒られちゃうっす〜!!ってか、お嬢強すぎ!魔物がバターみたいに斬られていく〜!」

屈強な魔物がまるでバターのようにスパスパ斬られていき、返り血を浴びながらも戦闘の熱で満面の笑みの令嬢、それを号泣しながら追いかけ止めようとする部下。そんな姿を見てきたので、森に入るとまずアリスの動向が注意されるようになった。

「ごめんなさい、前みたいに無茶はしないよ〜」

「ならいいんですが、しっかり見張らせていただきます!」

ロイが、アリスが入口に放置していた馬を連れてきてくれていた。軽々と跳躍し、騎乗する。

「では、旦那様達と合流しましょう」

ロイの言葉に首肯するや否や、雷鳴が轟いた。程近い場所で、雷魔法が炸裂したらしい。

「はぁ〜!!あれはお父様の雷魔法。ってことは、あっちには魔物が!」

「待ってお嬢!」

今にも馬を繰り出そうとしたが、2人に瞬時に止められる。

「やりすぎずに、深追い禁止!」

「冷静に、旦那様の言うことをちゃんと聞くっす」

「はぁ〜い!」

元気よく返事をし、馬を走らせる。2人が先導し付いて行く。アリスの目にも、エドガーらの姿が見えてきた。だがどうやら、あらかた終わった後のようで、エドガーが得意とする雷魔法の餌食になった魔物が転がっているだけだった。

「お父様〜!大丈夫ですか〜?」

「おーアリス。無事合流出来たな」

呑気にこちらに手を振るエドガーと、雷魔法の威力を目の当たりにして苦笑いしているアレックス。得意気な顔でエドガーは、近づいてきたアリスの頭を撫でる。屠られた魔物の亡骸を、控えていた兵士達が慣れた手つきで捌く。

魔物の生態は未知数で、まだ知らないことの方が多いのだが、原則として食用ではない。その為、皮や鱗、牙などを主に加工して流用する。ガーフィールド領では魔物討伐が日常茶飯事なので、わざわざ持ち帰らず、その場で片すことが多い。

「うん。変わらず見事な手際だ、周りに気配無し。特に大きな異変も無さそうだ」

エドガーの目は周囲を警戒していたが、目下の危険は無いようだ。アリスもそうなのだが、ガーフィールド家の戦士はあらゆる気配や敵意に敏感だ。森で長く魔物と戦うので、当たり前のように培われた素質だ。

「さてとぉ、俺らは砦に行くがアリスも同行するかい?」

「すみませんお父様、今日は街の鍛冶屋に行こうかと」

「謝ることじゃないぞアリス。武器の手入れに余念がないのは良いことさ」

そう言うとエドガーは、また頭を撫でる。恥ずかしいが、有り余る愛情を感じる。

「遠くないとはいえ、気をつけるんだよ。夕食までには戻るからね」

「分かりましたお兄様。そちらもお気をつけて」

アレックスにも優しく撫でられたので、優しく丁寧に返す。森の入り口近辺に建造された砦は、兵が常駐しており、門戸の役目をしている。兵の士気の為、エドガーらは不定期に砦に顔を出すのだが、この砦を魔物が襲った例はない。それは魔の森の魔物の特性である、ガーフィールドの人間になるべく関わらない、それが大きく作用している。砦はおろか、街に魔物が現れた報告すら少ない。ガーフィールド家の人間が、その地に存在するだけで魔物への牽制になり、領地の安寧に繋がるのだ。

「ロイ、ハンク。引き続きアリスに付いてやってくれ。他の皆で、砦の兵を労うとしよう。じゃあアリス、また夕食でな」

「はい!」

砦へ向かう一行と別れ、アリスは街へ向けて馬を走らせる。アリス達が暮らす屋敷よりも南に、エドガーが領主を務める街がある。屋敷から街へと繋がる道は丁寧に舗装されており、それは街全体に及ぶ。大きすぎず小さすぎず、王都より栄えてはいないが、辺境にしては廃れていない。広大な緑地は肥沃な大地であり、農作に耕作や畜産に適していた。それだけでは立ちいかないのが辺境の厳しいところなのだが、それすら解決する手があった。

それは、ガーフィールド家執事グライトによる、転移魔法陣の設置。転移魔法を扱える者は少なくないが、魔法陣を描き遠方と繋げられる人材は大陸でも少ない。その転移魔法陣は王都に繋がっており、その王都には各地方の魔法陣が集結している。これは、グライトが各地方に一度は赴いている証左にもなっている。

魔法陣を介することで、輸出入が劇的に楽になった。物理的な距離の問題が解決された為、ガーフィールド領はまずまずの土地になった。それに加えてエドガーの兵らも街に定住している事実と、王国内でも指折りの規模の農地。産出される小麦や野菜類は、豊作の年は近隣の領に分け与える余裕がある程だ。それだけで人を引き寄せるには充分だが、ガーフィールド領はそれだけではない。

その答えたる風景を目に、アリスの頬は緩む。不思議と馬の足取りも軽やかに感じた。

「今日も賑やかだねー」

街に到着したアリスには、領民の賑やかな声が聞こえてくる。屋台で軽食を売る猫獣人の威勢のいい声、井戸端会議に花を咲かせる龍族の御婦人方。そう、ガーフィールド領は多種多様な種族が集う街だ。実はこれも魔法陣の齎した功績なのだが、ここまで多様な種族が揃うのはここだけだ。

というのも、未だに根強い種族差別が存在している。取り分け王都は酷いと、アリスは家庭教師のロレイン婦人に教えられた。婦人は良識ある人なので、差別は恥ずべき行いだと口酸っぱく教えられた。

「お嬢様、今日もいい天気ですね!」

「アリス様、今日も凛としていて素敵です」

「おぉ、お嬢様。後で新作の甘味を味見してってくれ」

エドガーの人柄のように、この街は暖かい。アリスもその寵愛を受け、何故かロイとハンクの方が満足気な顔だ。

「へっへっ、お嬢が愛らしいなんぞ当たり前だ」

「そうっすそうっす。いやー、しかし大人気っす」

「悪い気はしないわね!でもお父様の人気の方がすごいんだから!」

こちらも何故か、アリスが自慢気な顔をしている。そうこうしている内に、一行は目的としていた鍛冶屋に到着した。

武器防具が肝要な戦闘が重視される為、この鍛冶屋は街では1、2を争う大きさの建物だ。馬を繋ぎ置き、アリスは扉を開く。

「じっちゃーん、武器見てちょーだい!じっちゃーん!」








続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ