第6話
「きゃあっ!」
また悲鳴が聞こえる。声のする方へと、薄暗い洞窟を進んでいく。暗闇の中でも、グールの目は驚くほどよく見えた。岩肌の凹凸まではっきりと確認できる。
曲がり角を一つ、また一つと曲がっていく。
そして──。
「っ!」
俺は足を止めた。洞窟が広がった先の空間で、一人の少女が魔物に追い詰められていた。
金色の髪を、肩まで伸ばした美少女。純白のローブは裾が破れ、土で汚れている。それでも、淡いエメラルドグリーンの瞳が神秘的な輝きを放っていた。
少女の背後には岩壁。前には大きな魔物が立ちふさがり、逃げ場はない。
「うっ……!」
その時、鼻腔をくすぐる匂いが漂ってきた。少女の腕には傷があり、血が滲んでいる。
俺の中で「血の渇望」が強く反応し始めた。瞳の赤みが増していくのを感じる。
「く……」
理性が、かろうじて衝動を抑え込む。まるで獣のような本能と戦いながら、状況を判断する。
魔物は人の形をしているが、全身が黒い粘液のように蠢いていた。大きさは普通の人間の、倍以上はある。
刃物のように尖った腕が、少女に向かって振り下ろされる。
次の瞬間、俺は地を蹴っていた。
「うおおおっ!」
魔物の腕が振り下ろされる直前、俺は少女の身体を抱き寄せ、横に転がった。
「え……?」
少女が驚いた声を上げる。が、今は説明している暇はない。
「危ないッ!」
俺は咄嗟に体をひねった。魔物の腕が地面をえぐり、石の破片が飛び散る。
少女を抱えたまま、俺は一気に後退する。
「あなたは……?」
近くで見る少女の瞳が、俺の中の何かを揺さぶった。でも今は──。
「あとで話します。今は──」
俺は少女を優しく地面に降ろし、魔物の方を向く。
グールの体で戦うのは初めてだ。でも、さっきスケルトン兵長と戦った時の感覚が残っている。
魔物が俺たちに向かって襲いかかってくる。
「さっきみたいに、腕が外れたりはしないだろうけど……!」
俺は構えを取る。魔物の一撃を受け止めながら、拳を振り上げた。
「これでもくらえっ!」
渾身の一撃が、魔物の胴体を直撃する。
ドグシャッ!
まるでゼリーのような感触。だが、確実に効いていた。黒い体が大きくよじれ、うめき声を上げる。
「すごい……とても強い……」
少女が呟く。その声に、なぜか少し照れくさくなる。
「いや、これは──」
話している間も、魔物は攻撃の手を緩めない。次々と繰り出される一撃を、俺は新しい体の感覚を掴みながら避けていく。
グールの体は、ゾンビの時とは比べものにならないほど機敏だった。視界も広がり、反応速度も上がっている。
「もう一発……!」
魔物の隙を突いて、渾身の一撃を放つ。
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