第17話
「俺は、もともと、この世界の人間じゃないんだ」
静かに、言葉を紡ぐ。
「日本っていう、別の世界で暮らしてた。プログラマーとして、毎日のように働いて……」
「『ぷろぐらまー』?」
リシェルが首を傾げる。この世界にパソコンはないから、どう説明したらいいものか
「機械に命令を与える仕事のようなものかな。でも、AIっていう新しい機械が流行り始めて、会社は人員を減らしていって──」
深いため息が漏れる。
「AIに仕事を奪われた人も多かった。でも俺は『必要な人材』として残された。それが、地獄の始まりだった……」
「『ぷろぐらむ』? とか『えーあい』? とかよく分からないけど、ずっと、大変だったのね……」
「三人分の仕事を、一人でこなさないといけなかった。もう限界だって分かってたのに、断れなかった」
暗い記憶が蘇ってくる。徹夜続きの日々。終わらない仕事。家にもあまり帰れない。
リシェルが黙って聞いている。
「そして、ある日。画面の前で、心臓が止まって──」
リシェルが、まるで祈るように両手を胸の前で合わせる。
「気が付いたら、ゾンビになってた。どれくらいの時が経ったのかも分からない。ただ、またすぐに働かされることになって……。でも、我慢の限界がきたときに現場リーダーをぶっ飛ばしたおかげで、グールに進化できた。リシェルと出会えたのも、その直後だったね」
そう言うと、リシェルが少し体を寄せてきた。
「シュウの手って、冷たいね」
「ごめん。グールだから、体温が──」
「ううん、冷たくても温かい」
リシェルの言葉に、思わず言葉を詰まらせる。
「私ね、聖女として大切に育てられたけど、寂しかった。でも、シュウと一緒にいると、なんだか心が落ち着くの」
「俺も……リシェルと一緒にいると、安心する」
お互いの手が、自然と握り合う。
「これからは、ゆっくり生きていこう」
「うん。もう誰にも縛られない、私たちの人生」
そう言ってリシェルは、少しずつ目を閉じていく。疲れていたのだろう。
「おやすみ……シュウ……」
囁くような声。その寝顔は、とても穏やかだった。
「おやすみ、リシェル」
俺も目を閉じる。まだ眠れそうにないけど、この静かな時間が心地いい。
ふと、リシェルが無意識に俺の手を握り締める。温かい。なんだかくすぐったい気持ちだ。こんな、誰かと手を握って眠る経験。前世でも、ゾンビの時代でも、一度もなかった。
「う……」
眠りかけたリシェルの体から、かすかに聖なる光が漏れる。肌が少しヒリヒリするけど、今はそれも愛おしく感じた。
(シュウ……)
リシェルが寝言で俺の名を呟く。その寝顔に、思わず微笑みがこぼれる。
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