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轍を遡りし自由の荒鷲  作者:
第1章:Climb Mount Whitney 1207
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ハワイ沖海戦—前哨戦

◾️1942/12/07/06:00 ハワイ近海

日本海軍第一航空艦隊旗艦 HIJMS 赤城


艦橋は重苦しい雰囲気に包まれていた。

祖国に尽くすため、将兵たちはそれぞれの職務へ取り組んでいる。

その中でも特にオーラを放っている、海軍の軍服に身を包んでいる老けた男が腕を組み発言した。


「そろそろ特殊潜航艇が仕事を始める頃だろうかね、三河くん。」


「仰る通りであります。彼らの健闘を祈りましょう。」


三河と呼ばれた、冬の太平洋に負けず劣らずの冷酷な目を持つその男は、余計な言葉を足す事なく返事をした。


「…南雲中将。本官は少し胸騒ぎがするのですが、一体なんでありましょうか。」


南雲忠一-史実でも真珠湾攻撃の総司令官を務め、アメリカ太平洋艦隊を一時的に撃滅する事に成功した-その男は、らしくないね、と訝しむ。


「あんまり作戦前にそんなことは言わんで欲しい。だが奇遇だね、私も何か引っかかるのだよ。得体の知れない巨大なものというか…

ああ、すまない。士気に関わるからこの話はここまでだ。」


その「得体の知れない胸騒ぎ」の正体を、彼らは今じきに知ることになる。



◾️同日 06:45 ハワイ近海

アメリカ海軍第三艦隊 USS ハルシー


この時代にはまるで似つかわない、ポリゴンで出来たかのような艦が海を進む。

艦内では、これまた時代に不相応である高性能な電子機器類が音を鳴らし、作戦行動をサポートしていた。


「CICより艦橋、2時の方向、深度330ft、速度20ノットで潜航する所属不明艦を捕捉。」


「こちら艦橋、了解した…が、そりゃ一体なんだ?潜航艇か何かか?」


報告を耳にした艦橋要員の間に緊張が走る。

しかし同時に、アメリカ海軍の庭であるハワイ近海で、そんな簡単な潜航艇で何をしているんだ、との疑問も湧き上がった。

まさか隠密行動をしているわけではあるまい。

次から次へと湧き出てくる疑問を解決するため、艦の主である艦長はある判断を下す。


「そいつの正体を確かめるぞ。針路転換、面舵60°、最大戦速!」

「面舵60°、最大戦速!」


復唱の後、艦は潜航艇の元へ向かった。

幾ばくかの後、潜航艇とハルシーの距離がさらに縮まる。

潜航艇の司令部は海上に顔を出し、そしてそれはハルシーの艦橋からもハッキリと視認できるほどの大きさとなっている。

艦長命令により、駆逐艦が持つ指向性スピーカーによる潜航艇への呼びかけが試みられた。


「こちらアメリカ第三艦隊所属、USS ハルシー。貴艦の所属と目的は何か。繰り返すー」


何回かの呼びかけは全て無視され、潜航艇は真っ直ぐに此方へ向かってくる。

乗員の間の緊張は更なる高まりを見せた。

本国との通信途絶と言い、絶対に何かがおかしい。

ハルシーは回避行動を決定するが、潜航艇もそれに追従して向きを変える。


「所属不明艦に告ぐ、直ちに貴艦の所属と目的を公表されたし!これ以上の接近は攻撃とみなし、撃沈する!」


潜航艇はそれでも頑なに針路を転換しない。

乗員の緊張は更に高まり、遂に最高潮へと達する。

痺れを切らした艦長により、威嚇射撃の命令が下された。


「まだ当てるんじゃないぞ!あくまで威嚇だ!…撃てぇっ!」


Mk.45 5インチ砲が回頭し、潜航艇の方向に砲身を向ける。

号令と共に解放された砲弾は、その海の荒れ具合にも関わらず、艦に搭載された射撃管制システム(FCS)により正確な位置ー潜航艇の50m前方に着弾した。

刹那、立ち上がるは水柱。

しかし、潜航艇はまるで海の猪かのように突っ込んでくる。

そして更なる衝撃。


「こちらCIC、所属不明艦が魚雷2本発射!」

「面舵いっぱい!回避行動!!」

「面舵いっぱい!」


アスロックでの魚雷迎撃は間に合わない。

さればと思い、海中にデコイを投射する。

…しかし、潜航艇の発射した魚雷は、ハルシーの回避行動にもデコイにも興味を示さずに、海中に一直線の航跡を残すのみとなった。

この時代に無誘導魚雷だと?と、疑問を浮かべるのは束の間。

そして、ハルシー側の反撃が始まる。


「今度は直撃させる、沈めろ!っ撃てぇ!!」


艦長が興奮した様子で叫ぶ。しかしその狙いは極めて正確であった。

再び砲身を離れた5インチ砲弾は直ちに「敵」に着弾。爆炎と共に水柱が上がる。

視界が良好となった後、砲弾の着弾地点に残っていたのは海面に浮かぶ油のみ。

それは明らかに、「敵艦の撃沈」を表していた。


2023年のアメリカと1941年の日本の、時代を超えた接触は、最悪な形で始まってしまった。

拙作お読みいただきありがとうございます。

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