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轍を遡りし自由の荒鷲  作者:
第1章:Climb Mount Whitney 1207
1/3

気付き

小説初投稿です

火葬戦記になると思いますが大目に見ていただきたい…!

2023/12/07/02:30 米国、ハワイ州、ホノルル


「つまるところ何だね、君は我々の知らぬ間に核戦争で世界が滅亡したとでも?」


黒いスーツに身を包んだ恰幅の良い男がそう尋ねる。彼の机には半分ほどコーヒーが入ったカップが置かれているが、既に冷めてしまったようだ。


「いえまさか。そのような事では無いでしょうが…少なくとも緊急事態であるということに変わりはありません、州知事閣下。」


そして彼の部下だろうか、目にクマを浮かべた、30代前半と思われる細い男が発言する。


「そんなことは分かっている。問題は何が起こったか分からん、という事だ。

民間の気象会社なら兎も角、頼みの綱の軍すらも何も出来ないんだぞ。」


州知事、と呼ばれた男はそう言いながら、やけに苦いコーヒーを飲み干す。

冷えちまったな、と呟き、大きな溜息をつく。


「全ての衛星からの交信が途絶、おまけに本国と連絡も取れない…か。なんで俺が州知事の時にこんな事が起こりやがんだ。」


「まもなく軍が周辺海域の捜索を開始します。

ただ、GPSが使えない以上遠出は出来ないでしょうがね。

…良い知らせが入るまで、出来ることをやりましょう。それでは。」


若手の男が部屋を退出する。部屋には空調設備の稼働音と倦怠のみが残っていた。



同時刻 米国、ワシントンD.C.

ホワイトハウス


自由の国、アメリカ。旧世界の植民地帝国から独立を果たし、フロンティアを開拓し、次第に国力を増強。ドイツ第二帝国を撃破し、極東の大日本帝国と欧州の全体主義勢力を破壊。そして超大国の座を奪い合ったソビエト連邦との長きにわたる冷戦に勝利し、唯一無二の超大国として世界に君臨する。


そんなアメリカ合衆国のトップたる、ロヴァート=ケニー大統領その男もまた、冷えたコーヒーを飲んでいた。

彼の前に座る数人の男女も皆、神妙そうな面持ちであった。


1人の男が口を開く。

「新しい情報です。国境警備隊からの報告によりますと…

北西部バーチ•ベイにてカナダ軍と接触。ただ、カナダ軍の装備は80年ほど前の骨董品と言って差し支え無いようなものでした。

バンクーバー市街も見える範囲では80年ほど前と同一の風景です。

そして彼らもまた、こちらのヘリコプターを見て、あれは貴国の新兵器か、と驚いたような顔で尋ねてきたようで…

その後いくつか確認した所、現在は1942年の12月7日である、との回答が得られました。」


状況を整理しよう、との前置きの後に大統領は話し始める。


「ハワイ時刻で日付が変わった途端、突然衛星が使えなくなり、他国や海外領土との連絡も付かなくなった。

隣国のカナダからは、今日が1942年であるとのふざけた報告。

結論には早計かもしれんが…我々は第二次世界大戦へタイムスリップしてしまったという事か?しかもパールハーバーの日付に!」


この空間にいる誰もが薄々勘付いていた事ではあったが、いざ口に出して言われるとなると馬鹿げた冗談にしか聞こえない。

大統領の言う通り結論には些か早計ではあるが、集まった情報はその馬鹿げた事実を裏付けるのみである。

その事実もまた、全員を沈黙させるには十分であったようだ。


「大統領閣下。」


発言した男の太った体からは信じられないほどの澄んだ声が沈黙を破る。


「進言いたします…直ちにハワイ及びグアムに兵力を派遣するべきです!

ハワイは兎も角、この時代のグアムはもはや日本の勢力圏内と言っても差し支えありません。

80年前の艦隊と言っても、継続的な攻撃に遭えば国民が被害に遭いかねません。」


「私からも同じく進言いたします。海外領土との接触も必要です。海軍のみであれば時間はかかりますので、少なくともハワイまでは空軍機を派遣するべきでしょう。」


ザ•キャリアウーマンとも言うべき、ブラウンの丸メガネを付けた女がそう補足する。

続けて、大統領閣下、Mr.President、という声が響いた後、再び暫くの沈黙が訪れる。


「派遣の用意は?」


「偶々ではありますが、カリフォルニアのビール空軍基地にF-15Eが待機しています。

またエドワーズ基地にもF-22がいます。

幸運なことに、これらの機体はすぐにでも派遣が可能です。

空中給油機も途中まで同伴すると考えると、数時間後にはハワイに到着します。」

「サンディエゴ海軍基地においては、タイコンデロガ級2隻およびアーレイ・バーク級5隻が即応可能です。

さらに、数日以内にキトサップ海軍基地よりニミッツ空母打撃群を派遣できます。」


映画のファイナルカウントダウンじゃ無いですがね、との冗談を言いつつ着席する。


これじゃまるで、ハワイを救えグアムを救えという神の掲示を受けたみたいじゃないか、と大統領は苦悶の表情を浮かべる。

もう12月となるが、気温はあまり下がっていない。というのにもガンガンと効いている暖房がまた煩わしい。

勿論国家の一大事であるため、さっさと会議を終わらせたいなどとは微塵も思っていないが、さらなる苛立ちを呼び起こすものであることに変わりはない。


体温が上がる。心拍数が上がる。

これからの自分の一言で、アメリカに、そしてこの世界に更なる混沌を齎しかねない。


何回目かも分からない幾ばくかの沈黙の後、大統領は口を開く。


「…分かった。我々は国民を護衛する。可能な部隊をハワイとグアムへ派遣しろ!戦争を早期に終結させるための作戦も練るんだ!欧州のナチスの相手もせにゃならんが全部やってやるぞ!議会の相手も忘れるなよ!」


「大統領閣下」

「どうした」

「…国民のお相手もお忘れ無きよう」


大統領はコートを乱暴に脱ぎ、会議室の隅に投げ飛ばした。

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