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53話 鮫の襲来

※戦いによる少し過激な表現があります。ご注意下さい※


「白狼騎士の皆、出撃だ!」

「はい!」


 オーウェン団長の一声で、里の魔物の討伐にあたる。

 ルトガー殿下とヴェイン団長も討伐に加わるが、魔物は次々と地面から湧き出てきて、一向に数が減らなかった。


「この地は魔女の森同様聖域、魔物が自然に湧くはずはありません。どこかに意図的に魔物を発生させている者がいるはずです」

 巫女様にそう言われ、魔物を討伐しながら気配を探ってみるけど、なかなか見つからない。


 しかし、オーウェン団長が集落の外れの木に向かって槍を投げ飛ばすと、その槍を避けようとした人影がドサッと地面へと落ちてきた。


 その人は……。

緑鮫(りょっこう)騎士団のハンネス・フリーデン団長!」

 陰気臭かった団長だ。

 彼が木から落ちたことで呪文が途切れたのか、魔物の出現が止まる。


 そして間髪を入れずにヴェイン団長が飛びかかり、木に刺さっていたオーウェン団長の槍を抜いてフリーデン団長の肩を貫き、そのまま馬乗りになった。

 私たちもすぐにその周辺へと駆け付ける。


「フリーデン、今までずっとコソコソしてきたくせに、ここへ来て強行突破に出たか。狙いは巫女か、それともルカか」

 と、ヴェイン団長。え、私? 何で?

 フリーデン団長は苦しそうに答える。

「ふっ、愚問だな……。そんなの両方に決まっておろう」

「ルカの事を誰から聞いた? アルフォンソか?」

「さぁな……赤鷹の餓鬼も役に立たんし、敵対していたはずの貴様らはいつの間にか手を組んでやがるし……一体どこから歯車が崩れて……」


「赤鷹の餓鬼って……アベルとチェスターのことか!?」

 と、オーウェン団長。

 そうだ、そういえばラインハルト団長が緑鮫について調べるって言ってた。


「名前なんぞ知らん。ヴェインに口止めされてた赤鷹の餓鬼を見張ってたら口を割ってたからな……それを利用してヴェインと仲違いをさせようとしたのに……ハインツェルは俺の策に気付きやがった。だから取引を持ちかけたが……アイツは応じなかった」

「一体ラインハルトとなんの取引をした!?」

 声を荒らげるオーウェン団長。


「魔女の森の生き残りと引き換えだ。だがアイツはそれを無視して無謀にも1人で我が宿舎へと乗り込んできた。我が宿舎は改造により強化された魔物の巣窟。閉じ込めてやったよ。今頃その身体を食い尽くされているところだろうな」

 フリーデン団長はそう言ってケタケタと馬鹿笑いをする。


「魔女の森も貴様の仕業か」

 ヴェイン団長は刺している槍を更にグッと押し込む。


「ぐああっ! ……俺一人であんなことできるはずがないだろ。もうすぐアイツがこの島をひっくり返すところが見れると思ったのに……あぁ、残念だな……俺は、ここで散る……」

 フリーデン団長の身体が突如光り出し、ヴェイン団長の「伏せろ!」の合図で伏せた瞬間、フリーデン団長の身体が爆発した。


⸺⸺


「大丈夫か、ルカ……」

 気付けばオーウェン団長が私の身体へと覆い被さっていて、私は擦り傷等の軽症だった。

「はい……オーウェン団長は?」

「咄嗟で驚いたが、大したことはない。こんな威力の爆発で仕留められると思われたのは心外だな……ごほっ!」

 オーウェン団長の口から血が飛び出す。

「全然大丈夫じゃない!?」


「はいはい、好きな子の前で強がる男子ですかあなたは。皆さん回復しますから、ジッとしていて下さい」


 そう言ってテオは魔法杖を構え、白魔法を唱えた。


⸺⸺中級範囲白魔法⸺⸺


「ホールクラティオ!」


 テオの優しい魔力が一帯に降り注ぎ、皆の傷が癒やされていく。

 テオを庇ったルトガー殿下、セシル皇帝陛下を庇ったヴェイン団長、私を庇ったオーウェン団長。そして巫女様を庇ったブラッドに、誰にも庇ってもらえなかった後衛のラスさん。

 皆の傷が一瞬で回復していった。


「……テオの白魔法……イイ……ッ!」

 ルトガー殿下はそう言って気を失った。

「……何でルトガー兄さんだけ回復間に合ってないんでしょう……まだ鼻血出てるし……これ以上続けると兄さんの体力が持ちませんね」

 テオは難しい顔をして兄を見つめている。


「白魔法は被術者の体力を使って回復するからね、もうとっくに回復してると思うからその辺でいいんじゃない?」

 私がそう提案すると、テオは不思議そうな顔をして白魔法の発動を中断した。



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