36話 女嫌いの真相
盛り上がっていた皆がようやく落ち着いてそれぞれのテーブルに戻っていったところで、私もようやく元の席に戻ることができた。
私のいるテーブルには、オーウェン団長にラスさん、そしてラインハルト団長に同期の2人。更に完全に仕事放棄をした女将さんも椅子に座って輪に入り始めた。
「で、団長様は結局“女性好き”なんです?」
と、女将さん。それに対し顔を赤らめるオーウェン団長。
「“女性好き”という言い方は、何か下心を感じる気がして今忠誠を誓ったばかりのルカに対し失礼なので、“女性嫌いではない”と回答しておきます」
「なんだぁ、そうだったんですねぇ。じゃぁ、さっき立派に忠誠を誓っていましたけど、ルカちゃんのことは好きなんですね?」
「うえぇ、女将さんなんてこと聞くの!?」
私は思わず文句を言う。
「だって、ルカちゃんがさっき、自分のこと嫌いじゃないかって聞いたとき、ちゃんと答えて下さらなかったじゃないか」
女将さんは引き下がらない。
「ははは、言動で示したつもりですが、上手く伝わっていませんでしたか」
「団長様、女性はハッキリと言ってもらうのが一番嬉しいんですよ?」
と、女将さん。
「そう、なのですね。ルカ、それはすまなかった。俺はお前のことは嫌いじゃない、どころか、生涯を捧げようと思うくらいには愛しているぞ」
団長は顔を赤らめながらそう言って微笑んでくる。
「あ、愛っ!?」
ボンッと顔が熱くなる。
「やだもー団長さんったら!」
なぜか女将さんも照れて私をバシッと叩いてくる。
「うおぉぉ、あのオーウェンからそんなセリフが飛び出すとは……なんか俺痒くなってきたぜ……」
ラインハルト団長はあっちこっちかき始める。
「あはは、俺もびっくり~。だって、オーウェン、一生結婚しない~とか言ってたよね?」
と、ラスさん。
「あっ、そうだ! 私の面接の時にもそうやって言ってましたよね? ま、まさか私、都合のいい女ですか……!?」
私は涙目になる。
「いやお前ら面接で何の話してんだよ。俺ですらちゃんと面接っぽい話したってのに」
と、ラインハルト団長。それは……ごもっともです。
「ルカ、お前は都合のいい女なんかじゃないぞ」
オーウェン団長はさっきの女将さんの言葉があったからか、すぐにハッキリと否定してくれた。
そして、続きを話す。
「生涯結婚するつもりがなかったのは、俺が非力だったせいで魔女の森の皆を救うことができなかったからだ。彼女らが全員女性だったと言うこともあり、他の女性と幸せになってしまっては後ろめたい、そんな気持ちになる気がしたからだ」
「なるほどね~、オーウェンらしい……」
と、ラスさん。
団長は、当時新人騎士だった。
その非力さを憂いていて、だからきっとたくさん努力をして、だからこそこんなに強いんだ。
私は彼に対し、こう告げた。
「魔女の森のみんなは、仲間を助けてくれた恩人に対して、後ろめたいなんて思ってほしくないと思ってますよ。恩人だからこそ、幸せになってほしいんじゃないかと、思います」
「ルカ……お前にそう言ってもらえると、心が救われる思いだな」
オーウェン団長は泣きたいのを堪えるような、そんな表情でそう言っていた。
「なら、騎士団全員が男なのは何でなんすか?」
と、ブラッド。
「当時、女性団員の中に子供を身ごもったまま消息不明になってしまった方がいてな。それを避けたくて、どうしても女性が採用できずにいる。女性蔑視とか、そういうつもりは全く無いんだ」
「あぁ、確かにいたよね……。旦那さんは騎士じゃなくて現地に行っていなかったから、自分だけ生き残ってしまったって、めちゃくちゃ泣いてたの覚えてるわ……」
と、ラスさん。
ここで女将さんが口を挟む。
「あたしらには、当時急に全員死んでしまったって、そう伝わっているのですが、消息不明、なんですねぇ」
「ええ、死体が1つも残されてはいませんでした」
「まぁ、そうだったんですねぇ……」
オーウェン団長の女性嫌いの裏には彼のそんな思いがあったことを、皆はこの時初めて知った。