武漢肺炎で失業したので異世界に就業することにしました。
第一話『エンジニア失業する』
某月末日
タイマーでテレビが付く。
キャスター「おはようございます、○月×日です。
武漢肺炎の感染者が国内で一万人を超えました。」
世間では中国武漢で肺炎が流行って中国だけでなくアメリカ、EU、ロシア等世界中に広まり日本でも徐々に感染者が増え始めてる。
そんな事態に対しても日本政府は国民を守る最高の選択を取ることなく、最良?と言う選択肢を取り今日も外国人の入国者を受け入れている。
そう、これから国を挙げた呆れた大茶番劇が始まる頃だ。
男は気だるそうにYシャツ・スラックスを履いて写真に手を合わせる。
何かを祈る様に念仏を唱えた後ただ一言
『行ってきます。』
そう写真に言って玄関に施錠して駅に行く。
男は駅の改札を抜けてホームに立ち電車に乗る。
さて、電車が目的地に着くまでに男の紹介をしよう。
彼の名は「新郷 一輝」技術派遣のエンジニアだ。
彼は今日を最後に現在の派遣先企業での派遣が終了する。
本来なら試作品評価・量産などの後工程があるので契約延長になると思いきや、今回の武漢肺炎で先月末に契約終了を言い渡されたのだ。
今度の武漢肺炎を機会に各企業ともに在宅テレワークに急速に切り替える企業が増えてきた。
所が、順次その在宅ワーク様に各企業が資産や機材を導入していたかと言うと技術系の場合はそれを行っていない企業がほとんどで、彼の派遣先企業もその一つだったのだ。
在宅に切り替える場合必要になるのが社内ネットワークアクセス用のwifi・それ用のセキュリティ設定がされているPC端末等がある。
ただし、彼はIT・ソフト系のエンジニアではなくハード所謂ものづくり系と呼ばれるタイプのエンジニアでソフト・回路とは少し違うタイプだったりするからさぁ大変。
特に3D-CADを使うタイプのエンジニアだから情報流出のリスクを考えると企業出勤が必須の業務形態。
それでも国が在宅推進するもんだから予算は直ぐに底を尽く。
そして見直しを図る時に真っ先に切るのが「人件費」なのである。
特に切りやすいのは就業期間の短い者から徐々に切られる。
その順番が彼に回って来たのである。
車内アナウンス『次は〇×~、次は〇×~』
目的地に到着したようだ。
駅を出てバスに乗り派遣先の工業団地へ向かう。
同僚「新郷さんおはようございます。」
新郷「酒井さんおはようございます。」
酒井「新郷さん今日が最終日ですね。」
新郷「ええ、メカトロ系の人間にとっては今回の仕事は電気電子等の複合品なので離れるのは凄く残念です。」
新郷は生粋の機械系エンジニアではなくロボット工学等のエンジニアなので電子部品を含めた機構設計やシステム等の調整等も得意とするエンジニアだった。
酒井「今日は最後までよろしくお願いします。」
新郷「こちらこそ。」
そういうと二人はバス停でバスから降りて工場に向かう。
派遣エンジニアの派遣最終日と言うのは殆どが暇つぶしに苦慮することになる。
余程の無能ではない限りギリギリまで仕事に追われることは無いからだ。
殆どの場合は
1,上長に作業進捗の説明と引き継ぎ事項の確認(端末のIDとパスも教える)
2,個人専用端末のデスクトップやHDのデータをサーバーに移動させる
3,お世話になった部署の人達にいなくなりますお世話になりましたの挨拶回り
等新郷は1,と2を前日までにほぼ済ませているので3,をやった後はほぼ鉛筆を転がしている状態だったりする。
さてそんな風に鉛筆転がすかなと思うと、飛び込みで図面作成や別チームの設計を手伝う等の業務が舞い込んでくる。
そんなこんなして夕方の退勤時間のチャイムが鳴る。
新郷「それでは皆さん短い間ですがお世話になりました。」
上長「こちらこそ、お世話になりました。
また、仕事増えたらお願いね。」
新郷「ええ、その時は気兼ねなく派遣会社へご用命ください。」
そう言って新郷は入門カードを渡して、お辞儀をして工場を後にした。
新郷は駅前で派遣会社の営業担当に電話を掛ける。
営業「ハイもしもし、営業高野です。」
新郷「高野さん、新郷です。
今引継ぎなどの諸々が終わりました。」
高野「新郷さん、お疲れさまでした。
次の仕事が提案できずにすみません。」
新郷「いえいえ、肺炎騒ぎで何処もビビッてるから採用が難しいのでしょう。」
この頃次の受け入れ先を探そうと派遣会社のオーダを一通り探したが数が少ないうえにそんなスキルの人材いるのか?っと首をかしげるものがばかりだった。
高野「また何か提案できそうなものが在ればお知らせいたしますので、よろしくお願いいたします。」
新郷「こちらこそ、後お手数ですが離職票の発行を早めにお願いします。」
高野「ええ、お任せください。
それではこれで失礼します。」
新郷「ええ、失礼します。」
そして、翌月1日新郷は失業して無職になった。
今じゃ派遣なんて珍しくもない。
なぜ新郷が失業したかをお話ししよう。
まず派遣の雇用形態は2種類あるこれを説明しよう
1,無期雇用と言う派遣会社の正社員として雇用されるパターンで、一昔前だと特定派遣って呼ばれていた。
2,有期雇用と言う仕事の内容に合わせて派遣会社が仲介して契約するパターン、これも昔は一般派遣って呼ばれていた。
1,は派遣受け入れ先での仕事契約が終わっても派遣会社に雇われているので失業はない
2,は派遣受け入れ先での仕事が終わったら次の仕事が見つからないと失業する
新郷一輝は2を選んでいたからだ。
新郷も技術屋成り立ては1で働いていた事もあったが本人が思った様な機械系の3D-CADを使ったメカトロニクスアイテムの設計者を目指したが、設計とう言葉に踊らされ転居は頻繁CADは使わない、望む内容のキャリアが詰めないと疲弊した結果会社に振り回される事なくブレないキャリア形成の為に有期雇用を選んだ。
その甲斐あって3D-CAD設計のキャリアも詰めて転居も無くなり3Dプリンタ・3Dスキャナを使える3Dスペシャリストになれたのだ。
安定して一か所に居続けるのは難しかったが、それでも3D-CADを使った設計業務に関しては何処の企業でも客先の熟練者と大差ない技能者で居続けられたのだ。
だが、今回の武漢肺炎による失業は今までと大きく違ったのだ。
そして、新郷は目を覚ました。
失業一日目の朝?目ざめである。
『う~ん、今何時だ?』
朝と言うと少し遅くスマホは11時を表示していた。
彼は気だるそうな体を起こして写真に手を合わせる。
写真は年老いた女性が写っており、彼女は母だった。
手を合わせて念仏を唱えていたが、じきに彼の目から涙が流れる。
『母さん・・・』
涙で目を開けていられなくなったので、そのまま布団に潜り込み体育座りで倒れ混んでそのまま泣き続けた。
母はこの度の武漢肺炎で数ヶ月前に亡くなったのだ。
『ちくしょう、何でなんだよ。』
『そりゃ、俺だけじゃないのはわかるけどこんなに立て続けじゃなくてもいいじゃないか』
今日は何も手に付きそうにも無いそう思って、彼はただ泣き続けてそのまま眠ってしまった。
目が覚めたのは19時を回っている頃だった。
彼は異常に鳴り続ける空腹音にまいり、近所のスーパーに行って半額のロコモコ丼を二つ平らげた。
そして
『少し流れを変えよう』そう言ってPCやスマホを操作して複数の派遣会社に登録し、CADを使った仕事に応募し続けた。
そして、数制限があるところは可能な数応募する等して一息つく。
『明日はハロワ求人と職業訓練の申し込みに行こう』そう思って新郷は眠りにつく。
次回『はぐれエンジニアハローワークに行く、そして時代遅れのモノづくり系の実態をつうかんする。』