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自殺転生――不死身となった異世界で――  作者: 戸十師 踊平
第三章 『カゲの支配者』
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第二話   『犬猿たらしめる』

 雲一つない青空の下、中央都市ジュビアス一番の大通りはいつになく賑やかで、依頼を終えた三人はそんな群衆の中を掻き分け、冒険者ギルドへ向かっていた。


「ここにきてからずっとこんなだけど、祭り長いよな何日やるんだこれ」


「今日で最終日ですよ。あと、今から騎士団のパレードがあるんです」


「へー」


 大通りの端にできた民衆が作る風景は壮観で、さながらネズミの国の電気行進前の様子を呈する。しかしハル達はファストパスを取ったアトラクションに急ぐ修学旅行中の高校生のように、止まることなす進み続ける。

 と、


「ほら来ましたよ」


 ソーがそういって指をさした。三色の巨大な国旗を掲げる兵士たちが、金管楽器と打楽器の音色に合わせて現れた。歩兵、騎兵、竜騎兵、などなど、元の世界では見ることの少ない本物の兵隊の行進。カチャカチャと鎧の足音が乱れなく重なり合い、たいへん統率の取れている騎士団であることが伺える。


「すげー」


 ハルはそれを横目に小学生レベルの感想を述べるが、それとは対照的にアリニアは物珍しそうに凝視している。森の中で育ち、ハルのように似たものも見たことは無いのだから無理もなく、ものごごろ着く前に見慣れてしまったハルには分からない、どうしようもなくうらやましい彼女の初体験の感動は計り知れない。

 と、そんなアリニアの表情を見て、改めてハルはパレードを今度はまっすぐに見る。


「……すげえなぁ」


 語彙は変わらない。


 と、行進する兵士たちの集団が先ほどよりも派手さを増していることに気が付いた。鉄なのか何なのか、よくある素材で出来た光沢の少ないものから、金色で放っておけばカラスにでも持っていかれそうな輝きを持つものに変わったのである。

 それは階級なのか身分なのか、少なくとも”上の者”であることは理解できる。


「――あれは、ティリア団長。赤の騎士団の団長です」


「え?」


「あれ、見てたんじゃないんですか?」


 ソーの不思議そうな表情としばしば見つめ合った後、ハルはもう一度行進を見た。

 真っ赤で長い髪を風になびかせ、驚くほど冷たい瞳をしたその女性は民衆の声援など露知らず、ただまっすぐに前だけを望んで馬に乗る。”長”とつく者同士、どこかの飲んだくれと比べると手を叩いて笑ってしまそうだ。


「いや、そうじゃないけど――」


「きゃあああ! ジーク!!」


 真っ黄色の歓声が一人の騎士に向けられる。

 ティリア団長のそば、馬の上からご機嫌に民衆に手を振る金髪に金の甲冑。なんだか色々派手な男だが、その笑みは余裕と自信を孕んでいる。顔の周りにキラキラのトーンでも貼っているのではないだろうか。


 ああいうのって、本当に居るんだな……。


 テレビの向こう側にいるアイドルほどの人気に、もはや嫉妬心も湧かない。ただ漠然と憧れの目を向ける程度。人は誰しもすべからく、黄色い声援をその身に浴びてみたいものだ。


「いいですよねぇ」


「あ、ああ……そうだな」


 憧れても口には出さない。これは思春期の男の鉄則だ。ソーはもう少し、年頃の無駄な羞恥心を持ってもいいと思う。

 ハルの咳払いの後、三人は報酬を受け取りにギルド会館へ急いだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「お疲れ様っス。これ、今日分の報酬っスよ」


 マイアーがそれほど膨らみのない袋をハルに手渡した。


「にしてもハルさん。良いんスか? 街中の安い仕事ばっかり引き受けて……まあ、あんまり民衆の皆様方に評判の良くない冒険者ギルドとしては、こういう慈善活動じみたことしてもらえると、多少印象よくなって、助かるには助かるっスけど、階級もなかなか上がらないと思うっスよ?」


 カウンターで肘をつき、マイアーは頭を傾けハルに問う。


「いいんです、これで。今の自分たちにできるのはこれくらいなんで」


 袋の中の報酬を確認しながらハルは表情一つ変えずに答えた。


「そうスか。まあ、安い仕事も数をこなせば報酬はそれなり、いくら報酬がが高い仕事を引き受けても、死んでしまったら身の程知らずの馬鹿っスもんね。まぁ、ハルさんの場合、都市から一切出ることなく討伐どころか採集依頼もしない慎重っぷりは、もはや狂気の沙汰っスけど……わかったス。できるだけ優先して都内の仕事回しますっス」


「助かります」


 ――バァアン!


 ハルが袋を閉じたその時、同時にギルド会館の扉は勢いよく開いた。

 外の明るい光が一気に室内に入り込み、一人の男の背後を照らす。というか、もはやギラギラと本人の体が輝いている。


「やあ! くそったれども! 今日も元気に飲んだくれてるか?」


 頭の先から足の先まで金・金・金。薄汚い冒険者のたむろするギルド会館の中で工業高校の女子生徒並みに強烈に目立ち、みんなその男に目を向ける。そしてそれはハルも例外ではなかった。


 あれは……確か、ジークって言われてたな。なんで、ここに居るんだ? 騎士団の人間だろ?


「あれ、ジークさん。珍しいですね?」


「おや? これはイブさん。今日もお美しい!」


「は、はぁ……ありがとう」


 キザな男の決まり文句に、給仕のイブはぎこちなく謝辞を述べる。

 しかし、イブのぎこちなさは歯が浮きそうなセリフを何の羞恥もなしに言っていることにというよりも、もっと別の何かからやってきているように見える。


「お、お、おおお!」


 ジークは何かを見つけたらしく、ズカズカとハルの方へと足を進めてきた。


「え!? ちょ、何ッ――」


「見つけました! 白い髪の美女!」


「え、私?」


 まるで、手を振ってきた相手が知り合いだと思い手を振り返すと、本当は自分の後ろにいた別の人の知り合いだった時のように、ジークは身構えるハルの後ろのアリニアの手を取った。


「ああ、なんと美しいんだ! 私はジークと申します。一目惚れです! さあ、こちらへ」


 そう言って力強くアリニアの手を引き、ジークは強引にギルド会館を出ようとする。

 全く困ったやつである。女性を誘うときは、白いタキシードとバラの花束が必要だ。


「ちょ、ちょっと」


「おい待て」


 一方通行のロミオとジュリエットの間に、ハルがすかさず割って入った。


「おっと、君に要は無いんだけど……」


 ジークは何とも役にあった、らしいことを言ってくれる。こんな時、物語の素敵な主人公様ならば軽くいなしてしまうのかもしれないが、ハル自身そんなことはできないことを自覚していた。


「王国の騎士様が、アリニアに一体何用でしょうか?」


「アリニアというのですか、素敵な名前だ!」


 ハルのことはジークにまるで見えていないらしく、彼は再びアリニアの腕を掴もうと前に出た。


「待て、よ!」


「ぜひ、私とお食事を! いや、お茶だけでも!」


 ハルの体に押し出されながらも、ジークは身振り手振りにアリニアを口説き続け、そのあきらめの悪さは一種の様式美すら感じられる。

 ハルは次々出てくるジークの謳い文句を体で受けつつも、その眼に悪く眩しい甲冑ごとその体を扉の向こうへ押し出した。


 ギルド会館でもそうであったが、外でもジークの鎧はよく目立つ。もめてるのも相まって通りの民衆は皆二人を見ている。


「ったく、なんですか。お前」


 ジークの前で腕を組み仁王立ちでハルはギルド会館の扉を封鎖した。さながら時間に口うるさい体育教師といったところだろうか。やられた方は気分のいいものではないだろう。ジークもなんだかうつむき気味である。


「――だよ」


「え?」


 先ほどまで拡声器でも使っていたのかと思うほどうるさかったジークの声は極端に小さくなる。どうやら、この男の音量調節は一か百しかないらしい。欠陥品もいいところだ。

 ハルがそんなジークに聴き返した瞬間、ジークはため息と共に一気に息を吸い込み、


「アアアァ! なんだよ、もうくっそ! めんどくせえ!」


 人が変わったようにジークは突然、頭を掻きむしって叫び出す。その表情から先ほどまでの癇に障るにやけ顔は消え、代わりに鼻をヒクつかせてハルを睨んで、


「お前なんなんだよ……」


「は? お前こそなんだよ」


 まるで擦れた中学生のような言い合いののち、二人はいがみ合いを始めた。

 先行は赤の騎士団ジークである。ジークはハルの首に巻かれたプレートを目にするとニヤリと笑い、


「……お前――銅三か? 雑魚の猿にあの女はもったいねえだろ? 俺がうまく使ってやるから黙ってよこせ!」


 後攻。ハルはパレードの時を思い出し、


「うるせえな! 女にしっぽ振ってる犬野郎、どうせ大した実力もなしに親の力で成り上がったんだろ?」


「んだと? この野郎ッ!」


 ハルの言葉はジークの逆鱗に触れたらしく、目を見開いたジークはハルの胸ぐらをつかみ、そのまま通りの方へ投げ飛ばす。

 流石の騎士団員。経歴はどうあれ、それなりの体はしているようだ。


 ――ガシャアアアン


「グハッ!」


 ハルの体は通りかかりの男を下敷きにし、巨大な衝突音を響かせた。

 足元の男に目もくれず、やられっぱなしも気分が悪いと、ハルはすぐに立ち上がりジークに向かって行こうとした時。


「貴様! 何をしている!」


 地面に転がった髭ずらの男が怒りの表情で叫んだ。

 世の中とは不思議なもので、喧嘩や小競り合いなんかは、なんだかんだ当事者よりも第三者が被害を被ることが多い。そして、ババは誰が引くのか分からない。

誤字脱字等ありましたら、ご報告いただけると助かります。

天国事変もよろしくお願いします!

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