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自殺転生――不死身となった異世界で――  作者: 戸十師 踊平
第一章 『日常と非日常』
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第一章幕間 『名前』

「イッヒッヒッヒ――」


 口の端を少し開く嫌な笑いを見せるその者は真っ白のローブで全身を覆い隠し、木の上から少年たちを望む。

 その片腕には、齧った後の残るリンゴを転がす。


「痛みを知り、力を持たぬ若い少年よ。君は私に一体何を見せてくれるのだろうか。私にはわからない。が、私は知っているよ。勇者が殺しに来るその日まで――おっと」


 ――ボトリ……。


 食べかけの林檎は柔らかい地面に落下する。

 果実の甘いその匂いを感じてか、一瞬にして林檎は虫がカサカサと群がり、目に悪い球体が出来上がった。

 しかし、


 ブチュ……ブチ、ブチャ、ブチブチ――。


 耳に残る気持ちの悪い音と共に、虫たちの身体が、まるでシャボン玉みたいにはじけ飛ぶ。

 

「――失敗失敗失敗」


 木の上から潰れていく虫たちを見ながら、その何者かは口ずさむ。

 初めの内は蟻のように小さな虫ばかりだったのが、やってくる虫たちは徐々に大きくなる。だがそれでも、どれもこれも立った一口林檎に噛みついた瞬間に飛散する。


「失敗失敗しっ――おや……」


 その時、一瞬にして虫は森へと帰っていく。

 いくつもの虫の死骸と無数の噛み跡の残ったリンゴだけとなった。

 そして、


 ――シャクリ……シャクリ……


 我が物顔でふんぞり返り、誰も邪魔者のいない中そいつは林檎にかぶりつく。

 しかしながら、散っていった虫たちのように体に異常は感じられない。


「フフフ。成功するのは貴方ですか……」


 フードを脱いで、長い耳をピクピク動かしながらそう言った。


「……ニセモノの分際で生意気な」


 闇の中に寒気のするような笑顔が浮かび上がった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――とある廃城。


「なぁ、おじい。これからどうすんだ? もうオレ疲れたあ」


 山のように積まれた人の死体。

 異様、異端、異常そんな言葉を羅列させるような禍々しい光景の中、その山のてっぺんで両の手足を真っ赤にした少年が無理やり椅子を置いて座っている。


「まあ、そう焦るな。急いだところで結局やり切れずに、おじゃんだろ?」


 山のふもとで腰辺りまである白髪と整えられた立派な髭を蓄えた紳士風の老人が、仰向けに地面に寝そべり、本を顔の上に乗せたまま答える。


「でもよお。オレ待つのも、めんどくせえよお」


 椅子をギコギコ揺らしながら、少年は見るからに物足りなそうな表情だ。


「まだどうせ足りない。時間はかけれるうちにかけとくもんだ」


「退屈だあ! 退屈だあ! ――あ! 暇つぶしによお、おじいオレと殺し合いやらねえかあ?」


 老人の言葉をかき消すように少年はさらに椅子を揺らす勢いを激しくする。

 さながら駄々をこねる子供のようだが、死体の上でやっていると思うとクスリとも笑うことはできない。


「やらないよ……やっても勝負は目に見えてる」


「あぁ、それもそっかあ。おれおじいの天恵(てんけい)嫌いだったあ」


「だろうな」


 互いに互いの興味を無くしたように会話は途切れ、少年の椅子を揺らす音だけがその場に響いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――とある街。


 三人のローブ姿の男たちが、街の食堂の前で給仕の少女と話している。


「今言ったこと絶対に忘れるなよ? ――明日は、商店街の一番奥の店で買い物は済ませろ。明後日はその三つ手前のだ。それに果物は買うな。その次の日は――」


 一人の男が身振り手振りに加え早口で少女に色々と説明している。

 はたから見れば、随分と面白い動きの男に少女は微笑を浮かべながら、


「わかったわかったって、何度も言わないで大丈夫! と言うかお兄ちゃんそれ一昨日からずっと言ってるよ? いい加減覚えました!」


「そ、そうか」


「お兄ちゃんこそ、ちゃんと帰ってきてね?」


「大丈夫だぜ! 姉御! 旦那は俺たちが守ってやっからよ! な!――ドンッ!」


 別の男が口を開いた。

 一言一言が叫んでいるかのように大きく、両腕を振り上げながら自らの力をアピールするようなポージングを見せ、もう一人のローブの男の肩をたたく。


「い、痛いよ。それに夜なんだから……あ、あんまり大きな声出したら周りの人に迷惑だよ。お父さん……」


 明らかに嫌そうな声色をした男が答える。


「じゃあ、行ってくる――行くぞお前ら」


「あいよ!」


「……はい」


「うん! 行ってらっしゃい」


 少女が背中に手を振っていく中。

 三人は石畳の地面をコツコツと音を立てて闇に消えていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――とある場所。


「旅は始まったばかりだ。幾年もかかるような旅になるのか、数日で幕を閉じるのか。すべては君次第だ。しかし、気をつけたほうが良い。――ヨシザラ・ハル。勇者たちは君のことを殺しにやってくるよ。あと……モニカには”ちゃん”をつけて話してね」


 男装した碧の髪と瞳をした少女は、白い長机に仰向けになってそう言った。

 

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