プロローグ1 『クズとクズ』
満天の星空。その下の地面には全身真っ黒に焼けた二つの死体。
――バタンッ!
少年が男の胸ぐらにつかみかかった。
衝撃で、椅子が音を立てて地面に倒れる。
歯をかみしめ、険しい表情の少年はお気楽な表情の男を睨みつけ、
「テメェ!」
「おいおい、どうしたよ」
「お前、冒険者だよな!」
「そうだが、だから?」
「戦えるよな!」
「だから何だ?」
「じゃあどうして、助けてくれなかったんだよ!」
怒りを十二分に含ませ少年は男のことを非難する。
この男がいれば別の結末が待っていたかもしれない。俺の恩人が死ななくてすんでいたかもしれない。
――コイツがいれば!
「……何温いこと言ってんだ」
「は? ――うぐッ!」
少年の腹部に男の膝が深く食い込む。
胃袋の位置がずれるような嫌な感覚が少年を襲い、少年はそのまま地面に両手をついた。
「俺が冒険者だから、助けてもらえるとでも思ったか? 手を貸してくれると思ったか? お前がこれまでどれだけ平和な場所で暮らしてきたのか、冒険者にどんな幻想を抱いているのか知らねえが、おとぎ話の英雄様と俺を一緒にすんじゃねえよ」
男はさっきまでの陽気な表情から一変、まるでゴミでも見るような目を少年に向ける。
少年の髪を掴み、痛みと怒りで歪んだその顔の前で続けた。
「俺はお前みたいなやつが大嫌いだ。自分では何もせず、そのくせ誰かに何かを期待する。お前みたいな傲慢なクズが、どうして今までのうのうと生きてこれたか不思議で仕方ない。今のこの惨状は俺のせいか? 違う。お前のせいだ」
「……俺は、逃げることしか――」
苦し紛れに少年が言った。
「違うな、お前は逃げることを選択したんじゃない。立ち向かうことを選択しなかったんだ。勘違いするな。お前はあの娘のことを逃がすという、都合のいい理由を見つけただけにすぎねえ。まるで自分は出来る事をしたと錯覚しているだけだ」
男は全く声を荒げることなく雄弁に少年のことを語る。
「お前に……お前みたいに強いやつに俺の何が分かんだよ!」
息をするだけで苦しくなるような激痛の中、少年は叫ぶ。
「教えてやるよ。お前はただの寄生虫だ。他人に寄生し、甘い蜜だけを吸っているだけの害虫だ」
男はまるで少年の事など見えていないような、別の何かを見ているような目をしていた。
そして、
「……進まねえなら、虫けららしく死んじまえ」
男はたったそれだけ言い残した。