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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
3章 猫をたずねて三百里

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99話:妖精の少女とゆるキャラ

※今回は主人公視点ではありません

 私の朝は早い。


 てか日が昇ると勝手に目が醒めちゃう。

 そして夜はいつもご飯を食べた後、勝手に眠たくなる。


 今日もぱちりと目が覚めてぐいっと体を起こすと、仰向けで大の字になって寝ているシンクのお腹の上にいた。

 同じベッドに並んで寝たはずなのに、朝起きると大体こうなってる。


 自分で動いた記憶はないので、きっとシンクが私を抱き寄せたんだろう。

 ちょっと暑苦しいけど、寝返りで潰されるよりましだからいいか。


 股の間から尻尾が飛び出してるけど、仰向けで寝てて付け根は痛くないのかな?

 私は翅が痛むから仰向けでは寝られない。

 まあ浮きながら寝ればできなくもないけど。


 お日様が当たったみたいにぽかぽか暖かいお腹から降りると、隣のベッドで寝ている大きな毛玉が目に入る。

 トージもシンクみたいに仰向けで大の字になって寝ていた。


 寝息に合わせて丸くてもふもふの腹が上下に動いていて、思わずそこに飛び込んで頬擦りしたくなる。

 なるというかしようとしたんだけど、扉の隙間から美味しそうなにおいが漂ってきた。


 においに釣られてお腹がぐうと鳴ったので、もふもふに飛び込むのはあとまわし。

 トージの朝は遅いのでどうせまだ寝てるだろうから。


 扉じゃなく窓から飛び出して一階の酒場に降りると、においは厨房のほうから漂ってくるのでふよふよ飛んでいく。

 厨房ではレトリちゃんが朝食の準備をしていた。


「おはよー」

「あ、おはようフィンちゃん」


「今日の朝ごはんは何?」

「黒パンとサラダ、あと昨日の残りの肉スープだよ」


 レトリちゃんの横のテーブルを見ると、堅めの黒パンとサラダが皿に乗っかっている。

 美味しそうなにおいはレトリちゃんがかき混ぜている鍋からだ。


 樹海では木の実とか果物ばかり食べていたけど、最近はお肉ばかり食べている。

 だってお肉がこんなに美味しいなんて知らなかったんだもん。


 ああでもトージの出してくれる羊羹と饅頭、それにプリンは別格。

 別腹でいくらでも食べれちゃう。


 どうして一日一種類だけなのよとトージに抗議したけど増やしてくれなかった、けちだ。

 フレイヤ様も食べ過ぎると体の中で魔力があふれて、破裂しちゃうからダメって言ってたけどそれでも食べたい。

 でも体が破裂したら次の日から食べれなくなる、ううむ困った。


「もう朝ごはん食べる?」

「……はっ、そうだ今は肉スープだった。食べる、食べるよ」


 いつの間にか出ていた涎を手で拭いて、レトリちゃんに酒場のテーブルまで朝食を運んでもらう。

 まだ誰も起きてきていないので、私ひとりで貸し切り状態だ。

 やったね。


 器に入った熱々のスープを、木でできた小さいスプーン(私からすれば大きい)にすくってふうふうと息を吹きかけてから飲む。

 スープなのにいろんな野菜や肉の味がしたあと、体がぽかぽかしてくる、おいしい。


 トージが昨日同じスープを飲んで、「肉と野菜の旨味が溶け込んでて美味い」って言ってたのを思い出した。

 うまみってなんだろう?よくわかんないけど、うまみ最高。


 黒パンはそのままだと硬いけどスープにひたすとふわふわ柔らかくなる。

 そしてうまみがパンに移った、ふわふわうまみパン最高。


 サラダは……シンクのために残しておいてあげよう。

 私やさしい。


「おはようございます。フィン様」

「ん、おはよう。てかフィンでいいよー」


 一通り食べ終わり(サラダは別ね)テーブルに座って膨れた(気がする)お腹を撫でているとルリムが話しかけてきた。

 この人は闇森人で、娘のアナと一緒にトージに助けられた人だ。


 邪人って種族?らしくて不思議な魔力を持っている。

 この魔力を気持ち悪がる人もいるとか。

 私は面白くて好きだけどね。


「では、フィンさん。今少しいいでしょうか」

「いいよー。呼び捨てでいいのに」

「トウジ様の事を教えてもらえませんか」


 昨日の夜、本人と話してたのに他に何が聞きたいの?と訊ねれば「フィンさんから見たトウジ様の印象を聞いて、恩返しの参考にしたい」んだってさ。


 真面目だね、と思ったけど無理もないのかな。

 ルリムとアナは故郷を人種に滅ぼされたんだって。


 もし私の故郷〈妖精の里〉が無くなったらと想像すると、胸の辺りがぎゅっと締め付けられる感じになる。

 フレイヤ様や里のみんなが殺されたらと思うと……。


 昨日の夜、私が寝る直前に隣の部屋からすすり泣く声が聞こえてきても仕方ないよね。

 トージも耳がいいから、すすり泣きが聞こえる壁とは反対側のベッドで寝てたけど聞こえてたみたい。

 器用に耳を畳んで聞こえないようにしてたっけ。


「トージはねえ……」


 私の知ってるトージをルリムに教えてあげる。


 食いしん坊な私がうっかり里の外に出て、灰色狼に食べられそうになったのを助けてくれたこと。

 竜のシンクと仲良くなったこと、〈森崩し〉というでっかい蛇?を協力して倒したこと。


 他にも狐人族のメディルちゃんとアディナちゃんを助けたり、竜のグラボの相談に乗ったり。

 断ればいいのに、いっつも文句を言いながらも誰かを助けている感じ。


 あと里のみんなは大好きだけど、正直言って私は里の刺激のない生活には飽きちゃってた。

 他の妖精族の子と話しても、いまいち盛り上がらないんだよね。


 フレイヤ様がその事について何か言ってたけど……なんだっけ、忘れちゃった。

 まあいいか、とにかく私は外の世界に連れ出してくれたトージに感謝してる。


「なんというか、自分の事を棚に上げたうえに失礼ですけど……お人好しですね」

「うんそうだね。だから私がしっかりしてないといけないの!」


 たまに会話をしてても、ぼーっとしてる時があるんだよね。

 そういう時トージはきっと疲れてるんだわ。


 それにトージを助けたら追加報酬で羊羹とかくれるし!……想像しただけで涎が出てきちゃった。

 朝食の直後だけど、別腹別腹。


「とても参考になりました。ありがとうございます。そろそろトウジ様とシンク様を起こしてきますね。助けてもらっただけでなく、奴隷としても扱われないなんて恩が貯まる一方です。せめてメイドとしての役目は果たさないと」


 そう言ってルリムはぱたぱたと二階へ上がっていった。

 別にトージは恩を着せてると思ってないんだけどねえ。


 しまった!ルリムがトージを起こしに行っちゃったから、上下するもふもふに飛び込み損ねちゃった。


「あれ、ルリムさん居なくなっちゃった?朝ごはん用意したんだけど」


 そこへ丁度厨房から出てきたのはレトリちゃん。

 黄金色の尻尾が給仕服から飛び出して揺れている。


「代わりのもふもふはっけーん!」

「わ、ちょ、ちょっと待ってフィンちゃん。なんかベトベトするからせめて涎は拭いてからにしてーーー!」


 私が飛び掛かるとレトリちゃんが慌てふためく。

 でも私は知っている。

 尻尾を撫でるとレトリちゃんの耳が嬉しそうにぴくぴく動くのを。

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