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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
3章 猫をたずねて三百里

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98話:ゆるキャラと歓送迎会

「まさか昨日の今日で解決させちまうとは、さすが守護竜様たちだな。今晩は好きなだけ飲み食いしてくれ。この街に住む俺からの礼だ」


 ガスター爺さんに結界の一切合切を丸投げし、慄くラズウェル老と夕食に誘ってきたレンを置き去りにして、ゆるキャラたちは〈樫の膂力〉亭に帰ってきた。

 すると夕食が店主のおっちゃんの粋な計らい(二回目)で、突如ゆるキャラたちだけ時間無制限食べ放題プランになった。


「ほんとに?やったー!なら遠慮なくいくよー」

「ん、ならさっそく野菜たくさんちょうだい」


 おいおい、君たちは普段から遠慮なく飲み食いしてるじゃないか。

 ゆるキャラの金で……いやまあ元々はシンクの実家の宝物庫の金だが、これは子守りに対しての正当な報酬である。


 いつも以上に大食いのフィンとシンクの元へ、給仕の犬人族のレトリちゃんが忙しなく料理を運んでくる。

 その横で大人しく運ばれてきた料理を食べているのは、ルリムとアナの闇森人の母子だ。


 奴隷及び従者の証である〈隷属の円環〉とメイド服姿、そして何よりも邪人なのでかなり目立っている。

 ただ邪人だからといってあからさまに嫌がられたり、怖がられたりということはなかった。


 なんだか闇の眷属と一緒だみたいな話をレンから聞いていたので肩透かしである。

 その疑問に答えてくれたのはルリムだ。


「治安を守る貴族や兵士、戦場に身を置く冒険者から邪人は憎まれていますが、一般人はそれほどでもありません。邪人が街まで入り込むような状況がまず無いので、邪人の存在を知っていても危機感はあまり感じないみたいです」


「みんな何を基準にして邪人と判断しているんだ?見た目だけじゃないよな」

「見た目で判断できなくもないですが、一番分かりやすいのは体に流れている魔力の差です」


 そう言ってルリムは自身の胸元に手を当てる。

 この世界の生物はすべて〈創造神〉によって造られている。


 邪人も元々は〈創造神〉に造られた体だが、信仰を〈外様の神〉に鞍替えした時に体内で内包する魔力が変質した。

 ある程度魔力を感知できる者からすると、その変質具合が嫌悪感を覚えるものなんだそうだ。


 ゆるキャラは魔術関連については、自身の魔力を魔術具に込められるようになっただけの初心者である。

 なので他人の魔力の機微なんて分かるはずも無かったが、一般人の半数くらいは邪人の魔力を察知出来るそうだ。


 ちょっと失礼な例え方をすると、体臭が独特だとかそんな感じだろうか。

 世の中にはそういう特殊な臭いが好きな輩もいるそうだが、残念ながらゆるキャラはそこまでのレベルに達していない。


「なので昔、人種に紛れて暮らしていた時は、体に流れる魔力を偽装する魔術具を使っていました。それでも見た目や僅かに漏れる本来の魔力を察知されて、一か所に長居はできなかったんですが」

「へえ、そんな便利な魔術具があるのか」


 それを手に入れれば、この母子を更に安全に保護することが出来るかもしれない。

 話し合いの結果、ルリムとアナはゆるキャラたちの旅に同行することになった。


 最初はグラボ少年あたりに相談して王宮で匿ってもらおうかと思ったが、「いくら守護竜様の頼みでも、邪人を王宮に招き入れる事はないでしょう」とレンから進言があった。

 先程のレンのように玉砕覚悟で抵抗されても困る、というか迷惑になるならやめておこう。


 次にリリエルのいる〈混沌の女神〉の分神殿を考えたが、もし邪人がいると知れた場合母子だけじゃなくリリエルにも危険が及ぶかもしれないので却下。


 最後に樹海を思い浮かべる。

 シンクは最強の竜族だから除外するとして、妖精族のフィンは邪人相手にも反応を変えていない。

 よって妖精の里(アルヴヘイム)の連中は邪人への偏見が無いかもしれない……いや、フィンの感覚がおかしいだけの可能性もあるし、戻るのは時間の浪費だ。


 フィンとシンクにも相談したが、樹海に戻ると聞くと二人とも嫌な顔をした。

 まああれは何も言わずに樹海を飛び出してきたので、今戻るとバツが悪いといった意味の表情だったが。


 母子としてもゆるキャラたちに同行して恩を返したいそうだ。

 〈樫の膂力〉亭に入った時も最初は奴隷らしく背後で立っているだとか、床で下げ渡されたものを食べるだとか言っていたが、そんなプレイをゆるキャラは望んでいないので拒否した。


 奴隷にしたのは邪人という理由だけで他者から襲われないようにするためであり、立場は対等で良いのだ。

 それにある意味今日の夕飯は二人の歓迎会なのだから勘弁してくれ。

 歓迎する相手を床で食事させるとか、ゆるキャラの業界ではご褒美ではない。


 母子の旅の参加にフィンとシンクは素直に喜んだ。

 フィンは褐色の肌や薄紫の髪の毛に興味津々で、ルリムを質問攻めにしたり髪の毛に触ったりとやりたい放題だった。


 シンクはアナに対して謎のお姉ちゃん風を吹かせる。

 人種の街並みを初めて見るアナにあれは武器屋、あっちは雑貨屋、そしてあれは薄着でフリフリ付きのお姉さんと、この間まで自分も知らなかったことをさもずっと前から知ってましたよ、という体で説明していた。


 終始ドヤ顔だったのが微笑ましい。


 今もこの肉料理が美味しいだとか、口直しにこのサラダを食べると良いとかアナに滅茶苦茶構っている。

 王都ではあんなに人見知りだったのに。


「そういえばシンクもすっかり人見知りしなくなったなあ」


 なにとはなしに放ったゆるキャラの台詞だったが、聞いたシンクの表情が凍り付く。

 ぎぎぎと音がしそうなくらいぎこちなく首を動かしてこちらを見ると、その顔は今にも泣き出しそうになっていた。


「へいお待ち!クギュウ肉のステーキだ」


 そこへ丁度店主のおっちゃん(禿頭猫耳)が熱々のステーキを持って現れる。

 テーブルにどかっとステーキを置くとシンクに白い歯を見せて笑いかけた。


 次の瞬間シンクの姿がテーブル席から消失する。


「ぐふっ」


 腹に決して軽くない衝撃を受けたので視線を下げると、灰褐色の毛皮にくっついて埋もれるシンクがいた。

 素早くテーブルの下を潜って対面のゆるキャラに抱きついたのだ。


「竜のお嬢ちゃん、具合でも悪いのか?」

「いや、大丈夫だ。思い出し人見知りしてるだけだから……いててごめん、ごめんってば」

「折角忘れてたのに」


 小声で呟いてぐりぐり攻撃してくるシンクの頭を撫でながら、心配そうにしているおっちゃんに反対の手を振る。


 最初の人見知りっぷりを考えると、シンクも成長したものだ。

 忘れてたくらいだからまたすぐに慣れるだろう。

 子どもの成長は早いものだなあと、ついつい親目線になってしまうゆるキャラであった。

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