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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
3章 猫をたずねて三百里

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92話:ゆるキャラと後始末

 やはりあの二人は何も知らなかった。


 レンたちの厳しい(かどうかは見ていないので知らないが)取り調べの結果、どちらも帝国出身のしがないごろつきだと分かった。

 忍者男こと〈影の狩人〉に雇われて今回の襲撃に加担していたという。


 結界も魔術師の男が凄いのではなく、忍者男に渡された魔術具を展開していただけで、その管理が仕事であった。

 あくまで忍者男からの個人的な依頼だったが、その内容からして忍者男の背後には帝国がいる、と二人は勝手に思っていたようである。


 現実には忍者男と帝国の繋がりを示す証拠はひとつもない。

 唯一の手がかりは〈影の狩人〉という中二感漂う二つ名だけだが……。


「〈影の狩人〉!?大陸でも五本の指に入る有名暗殺者ではありませんか。それなら【暗影神の加護】を持っていたのも頷けます」

「暗殺者なのに有名なのか」

「有名なのと素性が知れているのは別ですから。〈影の狩人〉が暗殺したとされる要人は数知れず。とある国の王族全員を暗殺して、亡国に至らしめたという噂もあります」


 その噂はいったい誰が流しているのやら。

 よくある怖い話で、主人公が単独で恐怖体験に会って死ぬか行方不明になっているのに、何故かその話が第三者に語られているやつくらい胡散臭い。


 それともテロリストのように犯行声明でも出しているのか。

 あれだってやってないのにやりました、って言ってそうだけどな。


 城塞都市ガスターに戻ってきたゆるキャラたちは、軍事施設内の会議室にて今後の対応について話し合いをしていた。


「まあそれだけ有名で要人も暗殺しているなら、死後自動的に炎上する仕掛けがあってもおかしくはないのか」

「そうですなあ。もし死体の頭の中を覗いて、国家間のいざこざの種ばかり見せられて、わしまで暗殺対象になったら面倒でしたのう。もちろん魔術や加護の秘密についてなら、深淵を覗き込むのも大歓迎ですが。あの自滅を促した茨の刺青も、どういう仕組みなのか気になりますな」


 ラズウェル老が好々爺然とした表情のまま物騒な発言をする。

 相変わらず見た目と言動の差が激しいお爺さんだ。


「茨の刺青ねえ、どこかで見たような……あ、あれか」


 思い出して四次元頬袋から取り出したのは、前に使ったことのある茨と薔薇の文様が刻印された円形の盾だ。

 そうこれは竜の信奉者の神殿で信者のロンベルたちと戦った時に使った盾である。

 意匠が更にその前の、樹海で氷熊を倒した時に使った剣と似ていたので、剣を進呈したウルスス族のヴァー君一家に盾も進呈するつもりでいた。


 ……のだが、すっかり忘れていた。


「!?なんですかその盾は。造形が美しいだけでなく強力な魔術が付与されているではありませんか!」


 盾を見た瞬間〈審美眼〉を発動させて、文字通り目を輝かせてレンが詰め寄ってくる。

 両手で盾をがっちりと押さえると、焦点が合わないんじゃいかというくらいの至近距離で観察を始めた。


 〈審美眼〉というのはレンが持つ加護の力で、魔術具に付与された効果が分かるそうだ。

 魔術具ならなんでも鑑定できるわけではなく、武具に限定されていた。


 四次元頬袋に収まっている財宝の中から、聖杯のような便利グッズが無いか鑑定してもらおうかと思ったのに残念だ。

 でも鑑定の度にこんな異常なテンションになられても嫌だからやっぱいいかな……。


「《硬化》と《不変》、それに《魔術反射》も付与されているではありませんか!素材も魔銀でこの薔薇と茨の彫刻が繊細で素晴らしい」

「でだ、この茨と〈影の狩人〉の首にあった刺青の茨って、似てないか?」

「そうですか?茨の意匠なんてどれも似たようなものではありませんか?いえむしろこの盾に彫られたもののほうが素晴らしいのではないでしょうか」


 ゆるキャラには目もくれず、盾に熱い視線を送ったままレンが答えた。

 ちなみに盾はとっくにレンに奪われている。


 確かに茨のデザインなんてどれも似たり寄ったりかもしれないが、それでも茎の太さだとか棘の長さや間隔だとか、巻き付き方だとか形状の比較要素は十分ある。

 盾と刺青は平面と立体という差はあるがどちらも円を描くデザインで、先に述べた要素がだいたい一致している気がしたのだ。


 まあ刺青は一瞬で燃え上がってしまったので、もう確認する術はないのだが。


「いやいや、〈神獣〉様のお考えにも一理あるぞ。何かしらの物体に魔術を付与するに際して、その形状や刻印によって効力が増減することがある。構成や詠唱の精度で魔術の威力が変わるのと同じだな。つまりその盾と刺青が似ているならば、魔術的な関連性があるかもしれないのう」

「へえ、そうなのか。それならレンに預けるから盾の素性を調べてみてくれよ」


 そう聞いてレンは盾を取り落としそうになっていた。


「よ、よろしいのですか!?こんな素晴らしい盾を貰っても」

「いや貸すだけだよ。その盾は渡す相手が決まっているんだ。それとよく似た意匠の剣があってさ、もしセット効果があったら勿体ないから渡しておきたい。そういえば〈審美眼〉でセット効果の有無は分からないのか?」

「ちっ……セット効果とはなんですか?」


 レンもラズウェル老も知らなかったようなので、セット効果について説明する。

 セット効果とは同一シリーズのマジックアイテムを複数装備すると、追加効果が得られるというMMO系のネトゲによくあるシステムだ。


 例えば茨シリーズという剣、盾、兜の三点セットの武具があったとしよう。

 それらは単体でも強力なマジックアイテムだが、三点のうち二点を装備すると更に武具の性能が上がるのだ。

 三点コンプリートすれば倍率ドン、更に倍である。


「ほほう、なかなか面白い着眼点ですな。魔術具を分散させて、集めた時に相乗効果を生み出させるとは」

「〈神獣〉様、そんな素晴らしい武具がこの世にはあるのですか!もしかして持っているのですか!?」

「いや、あるかどうか聞いたのはこっちだから。ちょ、離して……」


 レンがゆるキャラのマフラーを掴んで縋ってくるので振りほどく。

 イケメンのくせに良い匂いだなんて卑怯だぞ。


 貴族や大魔術師が知らないということは、この世界にセット効果のある魔術具は無いのかもしれない。

 これはビジネスの予感がするが、残念ながらゆるキャラに魔術具作成のノウハウは無かった。


「とにかく、この盾の造られた年代とか作成者とかを辿れば何か分かるかもしれないぞ。俺たちは急ぎの旅の途中だから、事後処理を含めて任せるよ」


 主犯の忍者女と魔術師の男、及び闇森人の母子の処遇についても、基本的には王国の裁定に任せるつもりだ。


 この世界にはこの世界のルールがある。

 中の人が地球の日本人であるゆるキャラ基準の沙汰では、誰も納得しないかもしれない。

 〈神獣〉や守護竜の強権を使って捻じ曲げることも可能だが、周りが納得しなければ軋轢が生まれるだけだ。


 ただ母子に関しては情状酌量の余地があるので、減刑して欲しいなという気持ちはあるが。

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