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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
3章 猫をたずねて三百里

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78話:ゆるキャラと緊急依頼

 レンの発言に周囲がどよめく。

 そりゃここが闇の眷属に襲われると聞けば、平静ではいられないだろう。


 なるほどこうやって外堀から埋めて断りにくくさせる作戦か。

 権謀術数が好きで、見栄と名誉を重んじる貴族がやりそうな手ではある。


 だがしかし、ゆるキャラはノーと言える日本人なのだ。

 若い頃、超ブラックな企業にアルバイトで勤めていた事があった。


 ありがたいことに有能という評価を頂いたようで、正社員登用の打診を貰う。

 しかしこの正社員というのは、地獄のサービス残業をさせるための恐ろしい罠であった。


 アルバイトなら労働した時間だけ満額給料が出るが、社員になると残業時間がすべてサービスになるため、給料が減るという理不尽な現象が起きていた。

 その代わり正社員になれば福利厚生があるだとか、不況時にはリストラから優先的に守られるだとか説得もされた。


 だがこの企業は色々ブラック過ぎて長居する気はなかった。

 それに月収でアルバイトにダブルスコアの差をつけられている時点で、社員の利点など消し飛んでいた。

 というわけでゆるキャラは正社員の誘いを頑なに断り続けて、無事に円満退職を果たしたのであった。


 レンの依頼だって一度引き受けてしまうと、ずるずると他の依頼もやらされるパターンのやつだ。


 この周辺に闇の眷属が出るかもしれないとは言うが、位置的にラムール大河からは遠い。

 確かに小川を上ってここまで来ること自体は可能かもしれないが、その前に通過する家々を闇の眷属は先に襲うだろう。


 可能性の低い懸念をゆるキャラたちを巻き込むためだけに吹聴して、市民の不安を煽るレンのやり方には反感を覚える。

 店主のおっちゃんたちには悪いが、はっきりと断らせてもらう。


「悪いが何を言われても考えを変える気は……」

「ここ、襲われちゃうの?」

「むう、それはよくない」


 なんということでしょう。

 妖精族の少女と竜族の幼女が、瞳を潤わせてゆるキャラを見上げているではありませんか。


 二人がレンの策略にハマったかと言うと少し違う。

 レンは市民を助けずに見捨てるという不名誉と罪悪感に訴えたのだが、二人は純粋に心配していた。


 一晩ですっかり給仕のレトリちゃんとも仲良くなってたからなあ。

 レトリちゃんは今朝も働いていて、不安そうにこちらのやり取りを聞いていた。

 そんな彼女とゆるキャラを、フィンとシンクが首を巡らせて交互に見ていた。


 これはレンにとっても予想外の結果だったようで、あまりにも純真無垢な二人を見て驚いている。


「ああでも、トージのためにも早く神殿に行かないと」

「むう…」


 しかもちゃんと旅の目的を忘れておらず、眉毛をハの字のして葛藤してしまっている。

 やれやれ、今回は仕方ないか。


「少しくらい到着が遅れても俺は大丈夫だから、闇の眷属の調査をしてみようか」

「ほんとにいいの?」

「ああ」


 ゆるキャラの返事を聞いて、雲っていたフィンとシンクの表情がぱああと輝く。


「やったー!よかったねレトリ」

「ええ?そ、そうね?」


 フィンがレトリまで飛んで行ってそのまま抱き付いくと、状況を把握出来ていない犬人族の少女は目を白黒させていた。


「闇の眷属は任せて。あんなのひとひねりだから」


 シンクはふんすと鼻息荒く決意表明をしている。

 あんまり張り切ると城塞都市が焦土と化しそうなので抑えて欲しいところだ。


「というわけで引き受けるよ。それで具体的にどうすればいいんだ?」

「あ、ああ。冒険者ギルドを通して既に緊急依頼を出してありますので、それを受けてください。それと言い忘れていましたが、昨日のサハギン討伐についても特別報酬を用意しましたのでお受け取りください。これも冒険者ギルドを通してありますので、〈神獣〉様が冒険者として活躍したと評価されます」


 レンの言葉を受けて護衛がテーブルにずっしりと重たそうな革袋を置いた。

 ふむ、依頼を受けていない偶発的な戦闘でも評価されるシステムになっているのか。

 別に冒険者としての評価は気にしていないが、組織としては結構柔軟だなと感心する。


「それでは私も調査部隊の編制に戻ります。守護竜様方々に地母神の加護があらんことを」


 そう言ってレンは気まずそうに〈樫の膂力〉亭を出て行った。

 小さい子を騙したような展開になって、逆にレン自身の良心の呵責が苛まれたようだ。

 これに懲りたら権謀術数も程々にしてもらいたいものだ。


 レンたちが去り落ち着いたところで、店主のおっちゃんが話しかけてきた。


「おい、いいのか?そんな簡単に引き受けちまって」

「大丈夫ですよ。シンクだけでなくフィンも俺より強いですから」

「てかあんたらがあの守護竜様ご一行だったとはな……おっと喋り方も気を付けないといけませんな」


 慣れていない敬語を使おうとして、おっちゃんの言葉遣いが変になる。


「よしてくださいよ。今まで通りで構いませんから」

「でも王命が出てるって」

「貴族に対しての王命だから気にしなくていいですよ。今更敬語で話されてもくすぐったいですし」


 言葉遣いが安定しないのはゆるキャラも一緒であった。

 貴族や王族相手だと体面としてこちらが上の態度を取らないといけないが、一般人相手ならいいだろう。

 目上の人にタメ口は苦手だった。


「そこまで言うなら今まで通りにするぜ。上流のここまで闇の眷属が来ることはないと思うが、ああやって言われると皆不安になるからな。それに早く解決すれば下流に住む連中も安心するだろう。依頼を受けてくれてありがとうよ。同じ市民として礼を言っておくぜ」


 やはり考えていることは同じだったか。

 しかも他の市民を気に掛けるなんて優しいじゃないか。


 これで見た目がマッチョで禿頭に猫耳だけ生えているというなんとも言えない姿で無ければ、世の女子が放っておかなかっただろうな。

 何を隠そう〈樫の膂力〉亭の店主のおっちゃんは猫人族(独身)だったのだ!

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