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ゆるキャラ転生  作者: 忌野希和
3章 猫をたずねて三百里

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71話:ゆるキャラと闇の眷属

 〈闇の眷属(ミディアン)〉とは魔獣のように他の生物に敵対し、仇成す存在の総称だそうだ。


 魔獣との違いは、このアトルランという世界を造った〈創造神〉と敵対する〈外様の神〉の加護を賜っている点である。

 外様の神とはアトルランの外側にいる神で、創造神が造ったこの世界への侵略を企んでいた。


 闇の眷属はその先兵で創造神が造ったこの世界の生物を攻撃、絶滅させるように仕組まれている。


 大昔、神話の時代は外様の神が直接乗り込んできて大きな戦争になったが、神々同士の殴り合いは痛み分けで停戦。

 大戦の後は創造神によって、〈世界網〉という結界がこの世界に張られた。


 この結界がある限り外様の神のような強大な存在は、直接アトルランに降臨することが出来ないそうだ。

 なのでそれ以降は(神と比べて)遥かに小物である闇の眷属を送り込んでの、小競り合い程度で落ち着いている。


 というのがフレイヤ先生に教わった歴史の内容だ。


 この世界網という網目状の結界が重要で、外様の神だけでなく他の異世界……精霊界やゆるキャラの住んでいた地球からの侵入をも防ぐセーフティネットとなっている。


 ゆるキャラは知っているぞ。

 世界網が次元刀で切られたらS級妖怪が通れるようになって、大変なことになるやつだ。


 というわけで今目の前にいる二足歩行の魚頭が、世界網を潜ってアトルランを侵略するべく現れた闇の眷属である。


 第一発見者である王国兵士の叫びと同時に、建物と建物の間からわらわらと生臭い魚頭がいくつも現れた。

 全身を青緑の鱗で覆い、全身が濡れているのか歩くたびにひたひたと水音がする。

 背丈は成人男性より一回りほど大きく、手には強奪品と思われる粗悪で不揃いな銛や槍を持つ。


 闇の眷属を見た女たちは悲鳴を上げて逃げまどい、客の兵士たちは酔いでふらつきながらも抜刀。

 あっという間に乱戦が始まった。


「サハギンが街中にこんな大量に!?川岸の警備隊は何をしている!」


 こいつらはサハギンというのか。

 第一発見者の兵士の発言から察するに、サハギンの集団は何らかの理由により川岸の警備隊に気付かれることなく突破。

 そしてそのまま街中まで侵入してきたことになる。


 叫んだ兵士の近くにいたサハギンが、手にした三叉槍(トライデント)を繰り出した。

 力任せの単調な突きを、兵士は抜刀していた剣で受け止める。


 酔っている割には俊敏な動きで、槍又に刀身を差し込んで見事に防いだかに見えたが、不幸にも三叉槍は劣化して脆くなっていた。

 刀身と衝突した槍又はあっさりとへし折れ、障害の無くなった残る二叉が兵士の胸に吸い込まれた。


「がはっ」


 短い呼吸音がその兵士の断末魔となった。


 心臓を串刺しにされて絶命した兵士をくっ付けたまま、サハギンは三叉槍を天に掲げて吠えた。

 シュッと鰓から空気が勢いよく吐き出される音がすると、生臭い匂いが辺りに充満する。


 そして三叉槍を振り下ろして兵士を放り投げた。

 鮮血を撒き散らしながら、糸の切れた人形のように地面を転がる兵士の死体が、何かにぶつかって止まる。

 その何かとは、腰を抜かして逃げ遅れた女性だった。


 恐怖のあまり声も出せない女性が見上げると、そこには兵士の返り血で濡れたサハギンの姿が。

 呆けて動けない彼女の瞳に、三叉槍を突き下ろすサハギンが映り込み―――。


「―――ぉぉおお間に合えっ」


 女性とサハギンの間を灰褐色の塊が通り過ぎると、三叉槍が柄の半ばあたりから切断されて宙を舞う。

 射程が短くなり手元が狂った三叉槍は、女性の足元に突き刺さった。

 サハギンは短めの棒となった三叉槍を引き抜くと、女性目掛けて再度突き下ろそうとする。


「無視するなっ」


 目の前の弱い獲物を優先したのか、それとも目の前を弾丸のように通過したゆるキャラを知覚できなかったのか。

 どちらかは知らないが、ゆるキャラは地面を駆けてサハギンに再び急接近。


 魚頭に横っ面に飛び蹴りを入れる。

 三叉槍の柄を切断したオジロワシの鳥足の爪が、サハギンの顔の右側面を切り裂く。


 サハギンの濁り切った大きな目に、等間隔の三本線の切り傷が生まれ、次の瞬間ぐしゃりと潰れた。

 体液と血液が混じったどろりとした液体が飛び散ると、空気が漏れるような奇声をあげてサハギンが顔を押さえた。


 その隙にうずくまったままの女性を抱きかかえて、サハギンから距離を取る。


「大丈夫か?」


 薄手のドレス姿の女性は喘ぐように唇を動かすが、恐怖でうまく喋れないのか声が出ていない。


「一応言っておくと俺は冒険者だ。あいつの相手は俺がするからその隙に逃げ……れないならその場で大人しくしててくれ」


 こくこくと頷く女性をその場に残してサハギンと対峙する。


 片目を潰された魚頭は怒りの形相で、無事な方の淀んだ目でゆるキャラを睨みつけてきた。

 魚顔に表情筋など無いはずなのに、感情が読み取れるから不思議だ。


 ただの棒切れとなった三叉槍を放り投げて、両手の水かきから伸びた爪をぎらつかせながら、サハギンはゆるキャラに襲い掛かって来た。


 こちらも四次元頬袋から適当な得物を取り出して応戦する。

 ぺいと口から空中に吐き出した無骨な幅広の剣(ブロードソード)を掴み取り、迫るサハギンへと振り下ろした。


 ゆるキャラの毛皮を引き裂こうとしたサハギンの爪は、右手首ごと切断される。

 空振りした手首から噴出した鮮血が、灰褐色の毛皮を赤く染めた。


 目を潰した時とは違い、今度は痛みに怯まないサハギンが左手の爪を続け様に振るう。

 横薙ぎの一撃をゆるキャラは返す刃で迎え撃つ。


 剣と爪が激突して刹那の間拮抗したが、すぐにサハギン側が押し負けた。

 無骨な刃は爪を砕くだけでなく、水かきを切り裂きながら左腕の半ばまで食い込んだ。


 片目と両腕を潰され大量出血もしているというのに、魚人の闘争心は一向に衰えていない。


「っ、抜けない」


 サハギンの腕に食い込んだ剣を引き抜こうとして動きを止めた所に、血飛沫の向こう側から魚頭が現れた。

 大きく開かれた口には鮫のような鋭利な歯が並んでいる。


 その自らの血で赤く染まった歯が、ゆるキャラの腕に食らい付いた。

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